おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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エピローグ ~それからのお話し~

第242話  レイノアの光

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 颯太が3日間の帰省に出た翌日。

 東方領レイノア王国。
 
 その中心に位置するレイノア城内。
 
 この日、レイノアはある人物の数年振りの帰国に湧いていたい。
 かつて、ハルヴァ外交大臣のロディル・スウィーニーによって不当に領土を奪われたレイノア王国。だが、そのレイノアは以前のような賑わいを取り戻そうと必死に復活の道を歩み続けていた。

 そんなレイノアにとって、この人物が帰って来るというのは復興に大きな弾みをつけるものであった。

 城内もどこか浮ついているというか、妙な空気が漂っている。そんな中、

「た、たった今到着されました!」

 ダリス女王やエインのいる王の間に、兵士が倒れ込むようにして伝えてきた。

「エイン様……いよいよですね」
「そうだな……」

 ハルヴァからレイノア領地を取り戻すため、仮面をつけて素顔を隠し、禁竜教代表として戦ったエインディッツ・ペンテルスも、その人物の帰国を心待ちにしているひとりだった。

 事の発端は、魔竜討伐のため連合竜騎士団へ合流していた死竜カルムプロスと狂竜ジーナラルグが無事帰還した際、2匹を連れてきてくれたハルヴァ竜騎士団のガブリエル・アーフェルカンプ騎士団長からもたらされた情報だった。

 
『ランスロー王子とメリナ姫が戻ってきますよ』

 
 信頼していた家臣の裏切りにより、領土を失うことになったレイノア――当時の女王であったダリスはそのショックを竜人族にぶつけ、禁竜教を作り出した。ランスローと婚約者であるメリナはそれに反発して国を出て行った。
 

 あれからどれだけの年月が経っただろう。


 スウィーニーの失脚により領土を取り戻してからはずっと復興のために心血を注いできたエインであったが、いつだって王子たちの帰国を心待ちにしていた。

 しかし、ひとつ気がかりがあった。
 ランスローの母であるダリスがガブリエルの話を聞いた時の戸惑ったような反応だ。
 竜騎士団の結成を夢見ていたランスローに対し、その夢を打ち砕くような政策を打ち出して半ば王子たちを追い出した形になったことをずっと後悔していた。

 度重なる不幸で心身ともに弱り切っていたのだから仕方がない――エインたちはそう感じ取っていたが、当事者であるダリスは喜びと不安が入り混じった、複雑な心境であった。


 コツコツコツ――


 ダリスの不安をよそに、3つの小さな足音は徐々に王の間へと近づいてくる。

 そして、


「ただいま戻りました」


 現れたのはランスロー、メリナ、そしてナインレウス。

「ら、ランスロー王子……」

 本当に戻って来た。
 エインの率直な感想だった。
 数年という年月を経ているため、国を出た頃よりもずっと成長して立派な成人男性となっているが、その顔にはやはり幼い頃の面影があった。

「心配をかけました――母上」
「!」

 母と呼ばれたダリスの目から涙がこぼれ落ちる。
 もう二度と、母などと呼ばれないと思っていた――ここへ来るのも、決別のためにだという考えも過っていた。

 だが、実際は違った。
 ランスローはメリナたちと共にこのレイノアへと無事に帰国したのである。

 ダリスのもとへ歩くランスローたち――ふと、エインとランスローの視線がぶつかった。

「心配をかけてしまってすまないな、エイン」
「! い、いえ、よくぞお戻りになられました」

 エインは膝をついて頭を垂れた。
 倣うようにして、他の騎士たちも跪いて頭を下げる。
 
「ランスロー……」
「申し訳ありませんでした、母上……本来ならば、私が母上を支えていかなければいけない立場であったのに――私はそれを放棄し、国を捨てたも同然。どのような罰も受けます」
「私も同じ気持ちです」

 ランスローもメリナも、国を出たことを後悔し、反省していた。
 あれは誰が悪いというわけではない。
 しいて言うなら、まだふたりとも若かった――それだけだ。

 だが、成長した今のふたりは、自分たちが何をすべきかよくわかっている。

「罰などと……あれは私自身の過ちです。あなたは何も悪くないわ」
「でしたら我々に――この国の復興を手伝わせていただきたいのですが」

 ランスローの申し出に、ダリスは無言で頷いた。
 もはや言葉にならない――堪えていた涙が溢れ出し、手で拭うことで精いっぱいだった。

「ダリス女王陛下……」

 エインをはじめ、騎士たちも涙が止まらなかった。
 そんなエインのもとへ、メリナがやって来る。

「本当にありがとうございました」
「礼を言われるようなことなど……それより、メリナ様が組織した、環境保護団体はどうしました?」
「フォレルガですか? ――でしたら、後継者に全権限を譲ってきましたよ」
「後継者?」
「ええ。とっても頼りになる後継者に、ね」

 イタズラっぽくウィンクをするメリナ。
 その仕草は昔と変わらない。
 
 ランスローとメリナの帰国。
 
 新生レイノア王国はここに、真の復活を果たした。


  ◇◇◇


「さあて……ランスロー王子たちは無事レイノアに到着したかねぇ」
「? 何か言いましたか、新代表」
「いや、別に――というか、新代表はやめろ」
「でしたら、なんとお呼びすれば?」
「……思いつかねぇから代表のままでいい」

 旧オロム王都。

 魔族の脅威が消え去ったそこは、新たな王国の建国を目指して復旧作業が急ピッチで進められていた。
 その作業を任されているのが環境保護団体フォレルガであり、その新代表に就任したミラルダ・マーズナーは体力が有り余っている若者たちを連れて再びこの廃界へと足を踏み入れたのである。

 特に、戦力となったのはダステニア出身の獣人族たちだった。
 
 中には、かつてスウィーニーに加担し、悪事を働いていた者もいる。だが、彼らは自分たちの行いを猛省し、今はフォレルガに所属して日々汗を流して働いていた。

「代表は以前、ドラゴン育成牧場のオーナーをしていたそうですが、そっちの仕事に未練はないのですか?」

 作業休憩中に、若い獣人族の青年がたずねてくる。

「どうだろうな……まあ、あっちは跡継ぎに任せているからな。俺は気ままに好き勝手やって生きていくさ」
「代表の後を継ぐ者……それはかなりのプレッシャーですね」
「そうでもないだろ。現にあいつはうまくやっているよ。俺とはだいぶ毛色の違うやり方だがな」

 ミラルダはそう言って天を仰いだ。
 魔竜との戦闘中はずっと薄気味悪い紫色をしていた空も、今は透き通るようなライトブルーが一面に広がっている。

「おまえはおまえの道を行け、アンジェリカ――俺が口出しする必要はないだろう」
「? また何か言いました?」
「なんでもない。ほれ、昼飯食ったら作業再開だ」
「「「「「うーっす!」」」」」

 若き獣人族たちを引き連れたミラルダ・マーズナーは、自然保護団体代表というセカンドライフをエンジョイしていた。
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