おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
242 / 246
外伝長編  ドラゴン泥棒編

第6話  助っ人

しおりを挟む
 ザハールが捕まったその日の夕方。
 キャロルはオーバに職員室へと呼び出されていた。

「来たか」

 職員室へ入ってきたキャロルを確認して、オーバは席を立った。職員室の真ん中に設えられた来客用のテーブルにキャロルを案内し、対面側のイスへと座る。

「呼び出したりして悪かったね」
「いえ……私もいろいろとお話を伺いたかったので」

 キャロルとしても、事件の全容とエイミーのこれからについては関心があったので、むしろオーバに話しを聞きたいと思っていたくらいだ。
 緊張している面持ちのキャロルを落ち着かせる意味も込め、オーバは飲み物を用意し、ゆっくりと語り始めた。

「まず君に言っておきたいのは、今回の事件の解決にある人物の力が大きく関与しているということだ」
「ある人物? ――それって!」

 すぐにキャロルはある人物を思い浮かべた。そして、その予想は的中だった。

「そうだ。……タカミネ・ソータだ」
「そ、ソータさんが?」

 本来ならリンスウッド・ファームでドラゴンたちの世話に勤しんでいるはずの颯太が、今回の事件を解決するために力添えをしたという。

「で、でも、どうして……」
「私が要請したからだ。まあ、まさか要請した次の日に現れるとは思っていなかったが」
「え? 来ていたんですか!?」
「ああ。今朝方な」

 今日の朝まで颯太はこのアークス学園にいたらしい。
 しかし、そうなるとキャロルには引っかかることがある。

「……学園に来ているなら声をかけてくれれば」
「早朝だったということもあるし、彼はこの後すぐにレイノア王国へ行く用事があったらしいからな。それでも、銀竜の背に乗ってやって来た彼はこう言っていたよ――『キャロルのためならば』と、ね」
「ソータさん……」

 颯太はキャロルに会わなかったというより、会う暇がなかったのだ。
 それほどの多忙な身でありながら、早朝という時間を割いてまで自分のためにやって来てくれた。オーバから語られたその真実に、キャロルの目頭は熱くなる。

「彼は本当に君を大切に想っているようだ。会っていったらどうだとも提案したが、疲れている君を起こすのは気が引けると断り、そのまま再び銀竜の背に乗ってレイノアへと旅立っていったよ」
「…………」

 起こさないようにあえて声をかけることを避けたのも彼なりの配慮であり、キャロルからすれば「あの人らしいな」と思えることだった。

「間もなく夏季の長期休暇になる。帰省した際には彼にお礼を言っておくといい。それまではしっかりと勉学に励むことが彼にとっても喜ばしいことだろう」
「はい」

 短く返事をしたキャロルだが、その瞳は強い意志を表すように輝いていた。

「さて、話は変わって……エイミー・フラデールに関してだ」
「!?」

 颯太の登場という予想外のサプライズによってすっかり飛んでしまっていたが、キャロルにとっての最大の懸念事項はエイミーのその後であったことを思い出す。

「え、エイミーちゃんはどうなったんですか!」
「まあ落ち着け。彼女とザハールたちとの関係は……事情が込み合っていてこちらから口外することはできない。知りたければ直接本人にたずねてくれ」

 なぜエイミーはザハールの命令を聞き入れ、それを実行したのか。また、ザハールはどのような目的を持ってエイミーにあのような行為を強要したのか。それらについてはオーバの言ったことの他に現在調査中という事情もあるようだった。つまるところ、全容解明には至っていないのだ。

「とりあえず、あの子の処遇についてだが……やはり謹慎は避けられん。しかも今回は前回の謹慎明けから間もなく起きた事態であるがゆえに上役たちの反応もよろしくない。最悪、退学なんてこともあり得る」
「た、退学!?」

 詳細は不明であるが、国家戦力となるドラゴンの卵を勝手に持ち出したという行為は決して許されることではない。それはキャロルも重々承知している。
 だが、もし、エイミーがなんらかの弱みをザハールに握られ、それをネタに無理矢理やらされていたとなれば、情状酌量の余地はあるかもしれない。それについてはオーバも同じ考えであった。

 強張るキャロルの表情。オーバも顔つきは険しい。……だが、

「――まあ、それもこれも、あの男がいなかった場合の話だがな」

 オーバはニッと笑ってみせた。

「あの男って……ソータさん?」
「そうだ。さっき話しそびれてしまったが、タカミネ・ソータがアークスへ来た理由は――盗まれた卵のある竜舎にいるドラゴンたちへの事情聴取のためだ」
「あっ――」

 現場を目撃しているドラゴンたちならば当時の詳しい状況を知っているはず。それを、竜の言霊を持つ颯太が聞き取り、学園側に伝えたのだ。
 魔竜イネスとの戦いを経て、すでに颯太の能力は四大国家に知れ渡っている。このダステニアでも、誰もが高峰颯太という人間の力を理解していた。だから、颯太の話をすんなり受け入れてくれたのだ。

「それにより、ザハール側が全面的に悪いということが判明した。前述の理由で詳細は説明は省くが、つまりそういうことだ」
「え?」
「無罪放免ってことさ」
「! よ、よかった……」
 
 安堵したキャロルは大きく息を吐く。
 同時に、今すぐエイミーに会いたくなった。

「あの、オーバ先生」
「分かっているさ。行ってこい。エイミー・フラデールはすでに寮の自室へ戻っているはずだから」
「ありがとうございます!」

 言うが否や、キャロルは職員室を飛び出した。
 その足取りは飛ぶように軽快であった。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。