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外伝長編 ドラゴン泥棒編
第6話 助っ人
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ザハールが捕まったその日の夕方。
キャロルはオーバに職員室へと呼び出されていた。
「来たか」
職員室へ入ってきたキャロルを確認して、オーバは席を立った。職員室の真ん中に設えられた来客用のテーブルにキャロルを案内し、対面側のイスへと座る。
「呼び出したりして悪かったね」
「いえ……私もいろいろとお話を伺いたかったので」
キャロルとしても、事件の全容とエイミーのこれからについては関心があったので、むしろオーバに話しを聞きたいと思っていたくらいだ。
緊張している面持ちのキャロルを落ち着かせる意味も込め、オーバは飲み物を用意し、ゆっくりと語り始めた。
「まず君に言っておきたいのは、今回の事件の解決にある人物の力が大きく関与しているということだ」
「ある人物? ――それって!」
すぐにキャロルはある人物を思い浮かべた。そして、その予想は的中だった。
「そうだ。……タカミネ・ソータだ」
「そ、ソータさんが?」
本来ならリンスウッド・ファームでドラゴンたちの世話に勤しんでいるはずの颯太が、今回の事件を解決するために力添えをしたという。
「で、でも、どうして……」
「私が要請したからだ。まあ、まさか要請した次の日に現れるとは思っていなかったが」
「え? 来ていたんですか!?」
「ああ。今朝方な」
今日の朝まで颯太はこのアークス学園にいたらしい。
しかし、そうなるとキャロルには引っかかることがある。
「……学園に来ているなら声をかけてくれれば」
「早朝だったということもあるし、彼はこの後すぐにレイノア王国へ行く用事があったらしいからな。それでも、銀竜の背に乗ってやって来た彼はこう言っていたよ――『キャロルのためならば』と、ね」
「ソータさん……」
颯太はキャロルに会わなかったというより、会う暇がなかったのだ。
それほどの多忙な身でありながら、早朝という時間を割いてまで自分のためにやって来てくれた。オーバから語られたその真実に、キャロルの目頭は熱くなる。
「彼は本当に君を大切に想っているようだ。会っていったらどうだとも提案したが、疲れている君を起こすのは気が引けると断り、そのまま再び銀竜の背に乗ってレイノアへと旅立っていったよ」
「…………」
起こさないようにあえて声をかけることを避けたのも彼なりの配慮であり、キャロルからすれば「あの人らしいな」と思えることだった。
「間もなく夏季の長期休暇になる。帰省した際には彼にお礼を言っておくといい。それまではしっかりと勉学に励むことが彼にとっても喜ばしいことだろう」
「はい」
短く返事をしたキャロルだが、その瞳は強い意志を表すように輝いていた。
「さて、話は変わって……エイミー・フラデールに関してだ」
「!?」
颯太の登場という予想外のサプライズによってすっかり飛んでしまっていたが、キャロルにとっての最大の懸念事項はエイミーのその後であったことを思い出す。
「え、エイミーちゃんはどうなったんですか!」
「まあ落ち着け。彼女とザハールたちとの関係は……事情が込み合っていてこちらから口外することはできない。知りたければ直接本人にたずねてくれ」
なぜエイミーはザハールの命令を聞き入れ、それを実行したのか。また、ザハールはどのような目的を持ってエイミーにあのような行為を強要したのか。それらについてはオーバの言ったことの他に現在調査中という事情もあるようだった。つまるところ、全容解明には至っていないのだ。
「とりあえず、あの子の処遇についてだが……やはり謹慎は避けられん。しかも今回は前回の謹慎明けから間もなく起きた事態であるがゆえに上役たちの反応もよろしくない。最悪、退学なんてこともあり得る」
「た、退学!?」
詳細は不明であるが、国家戦力となるドラゴンの卵を勝手に持ち出したという行為は決して許されることではない。それはキャロルも重々承知している。
だが、もし、エイミーがなんらかの弱みをザハールに握られ、それをネタに無理矢理やらされていたとなれば、情状酌量の余地はあるかもしれない。それについてはオーバも同じ考えであった。
強張るキャロルの表情。オーバも顔つきは険しい。……だが、
「――まあ、それもこれも、あの男がいなかった場合の話だがな」
オーバはニッと笑ってみせた。
「あの男って……ソータさん?」
「そうだ。さっき話しそびれてしまったが、タカミネ・ソータがアークスへ来た理由は――盗まれた卵のある竜舎にいるドラゴンたちへの事情聴取のためだ」
「あっ――」
現場を目撃しているドラゴンたちならば当時の詳しい状況を知っているはず。それを、竜の言霊を持つ颯太が聞き取り、学園側に伝えたのだ。
魔竜イネスとの戦いを経て、すでに颯太の能力は四大国家に知れ渡っている。このダステニアでも、誰もが高峰颯太という人間の力を理解していた。だから、颯太の話をすんなり受け入れてくれたのだ。
「それにより、ザハール側が全面的に悪いということが判明した。前述の理由で詳細は説明は省くが、つまりそういうことだ」
「え?」
「無罪放免ってことさ」
「! よ、よかった……」
安堵したキャロルは大きく息を吐く。
同時に、今すぐエイミーに会いたくなった。
「あの、オーバ先生」
「分かっているさ。行ってこい。エイミー・フラデールはすでに寮の自室へ戻っているはずだから」
「ありがとうございます!」
言うが否や、キャロルは職員室を飛び出した。
その足取りは飛ぶように軽快であった。
キャロルはオーバに職員室へと呼び出されていた。
「来たか」
職員室へ入ってきたキャロルを確認して、オーバは席を立った。職員室の真ん中に設えられた来客用のテーブルにキャロルを案内し、対面側のイスへと座る。
「呼び出したりして悪かったね」
「いえ……私もいろいろとお話を伺いたかったので」
キャロルとしても、事件の全容とエイミーのこれからについては関心があったので、むしろオーバに話しを聞きたいと思っていたくらいだ。
緊張している面持ちのキャロルを落ち着かせる意味も込め、オーバは飲み物を用意し、ゆっくりと語り始めた。
「まず君に言っておきたいのは、今回の事件の解決にある人物の力が大きく関与しているということだ」
「ある人物? ――それって!」
すぐにキャロルはある人物を思い浮かべた。そして、その予想は的中だった。
「そうだ。……タカミネ・ソータだ」
「そ、ソータさんが?」
本来ならリンスウッド・ファームでドラゴンたちの世話に勤しんでいるはずの颯太が、今回の事件を解決するために力添えをしたという。
「で、でも、どうして……」
「私が要請したからだ。まあ、まさか要請した次の日に現れるとは思っていなかったが」
「え? 来ていたんですか!?」
「ああ。今朝方な」
今日の朝まで颯太はこのアークス学園にいたらしい。
しかし、そうなるとキャロルには引っかかることがある。
「……学園に来ているなら声をかけてくれれば」
「早朝だったということもあるし、彼はこの後すぐにレイノア王国へ行く用事があったらしいからな。それでも、銀竜の背に乗ってやって来た彼はこう言っていたよ――『キャロルのためならば』と、ね」
「ソータさん……」
颯太はキャロルに会わなかったというより、会う暇がなかったのだ。
それほどの多忙な身でありながら、早朝という時間を割いてまで自分のためにやって来てくれた。オーバから語られたその真実に、キャロルの目頭は熱くなる。
「彼は本当に君を大切に想っているようだ。会っていったらどうだとも提案したが、疲れている君を起こすのは気が引けると断り、そのまま再び銀竜の背に乗ってレイノアへと旅立っていったよ」
「…………」
起こさないようにあえて声をかけることを避けたのも彼なりの配慮であり、キャロルからすれば「あの人らしいな」と思えることだった。
「間もなく夏季の長期休暇になる。帰省した際には彼にお礼を言っておくといい。それまではしっかりと勉学に励むことが彼にとっても喜ばしいことだろう」
「はい」
短く返事をしたキャロルだが、その瞳は強い意志を表すように輝いていた。
「さて、話は変わって……エイミー・フラデールに関してだ」
「!?」
颯太の登場という予想外のサプライズによってすっかり飛んでしまっていたが、キャロルにとっての最大の懸念事項はエイミーのその後であったことを思い出す。
「え、エイミーちゃんはどうなったんですか!」
「まあ落ち着け。彼女とザハールたちとの関係は……事情が込み合っていてこちらから口外することはできない。知りたければ直接本人にたずねてくれ」
なぜエイミーはザハールの命令を聞き入れ、それを実行したのか。また、ザハールはどのような目的を持ってエイミーにあのような行為を強要したのか。それらについてはオーバの言ったことの他に現在調査中という事情もあるようだった。つまるところ、全容解明には至っていないのだ。
「とりあえず、あの子の処遇についてだが……やはり謹慎は避けられん。しかも今回は前回の謹慎明けから間もなく起きた事態であるがゆえに上役たちの反応もよろしくない。最悪、退学なんてこともあり得る」
「た、退学!?」
詳細は不明であるが、国家戦力となるドラゴンの卵を勝手に持ち出したという行為は決して許されることではない。それはキャロルも重々承知している。
だが、もし、エイミーがなんらかの弱みをザハールに握られ、それをネタに無理矢理やらされていたとなれば、情状酌量の余地はあるかもしれない。それについてはオーバも同じ考えであった。
強張るキャロルの表情。オーバも顔つきは険しい。……だが、
「――まあ、それもこれも、あの男がいなかった場合の話だがな」
オーバはニッと笑ってみせた。
「あの男って……ソータさん?」
「そうだ。さっき話しそびれてしまったが、タカミネ・ソータがアークスへ来た理由は――盗まれた卵のある竜舎にいるドラゴンたちへの事情聴取のためだ」
「あっ――」
現場を目撃しているドラゴンたちならば当時の詳しい状況を知っているはず。それを、竜の言霊を持つ颯太が聞き取り、学園側に伝えたのだ。
魔竜イネスとの戦いを経て、すでに颯太の能力は四大国家に知れ渡っている。このダステニアでも、誰もが高峰颯太という人間の力を理解していた。だから、颯太の話をすんなり受け入れてくれたのだ。
「それにより、ザハール側が全面的に悪いということが判明した。前述の理由で詳細は説明は省くが、つまりそういうことだ」
「え?」
「無罪放免ってことさ」
「! よ、よかった……」
安堵したキャロルは大きく息を吐く。
同時に、今すぐエイミーに会いたくなった。
「あの、オーバ先生」
「分かっているさ。行ってこい。エイミー・フラデールはすでに寮の自室へ戻っているはずだから」
「ありがとうございます!」
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その足取りは飛ぶように軽快であった。
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