243 / 246
外伝長編 ドラゴン泥棒編
第7話 エイミーの告白
しおりを挟む
「エイミーちゃん!」
ドアを壊すくらいの勢いで、キャロルはエイミーの部屋へ突撃。
「ちょっ!? な、何よ!?」
唐突な来訪に、エイミーも戸惑っていたようだが、相手がキャロルだと分かると「はあ」と息を吐いて落ち着きを取り戻す。その反応から、キャロルが訪ねてくることをあらかじめ予想していたようだ。
「あ、えっと……」
むしろキャロルの方が困惑していた。
オーバから颯太の活躍によってザハールの企みが明るみとなり、エイミーが無罪放免となったという事実に気持ちが高ぶってここまで来てしまったが、何を話すべきかなどまったく考えていなかったからだ。
エイミーを前にあたふたしていると、逆にエイミーの方が話しかけてきた。
「さっきのこと……悪かったわね」
俯きながら発したのは謝罪の言葉であった。
さっきのこと――それはザハールの件についてであろう。
「そんな! エイミーちゃんは何も悪くないよ! 悪いのはザハール先生の方だってオーバ先生をも言っていたし!」
「……でも、私はあいつに加担していた。学園は無罪放免と言ってくれたけど……私はもうここにはいられない……」
そこで、キャロルはハッと気づく。
片付けられている――と呼ぶには物がなさすぎる殺風景なエイミーの部屋。その理由は、彼女が大きめのバッグに整頓よくしまっていたからだった。
「え、エイミーちゃん……もしかして、学園を――」
「辞めるつもりよ」
言葉の途中で、エイミーはそう告げた。
「前の謹慎中から考えていたことだったの。私はたくさんの人に迷惑をかけてきたし、これからだって……取り返しのつかなくなる前に、私自身が身を退いた方が――」
「ダメだよ!」
キャロルから強く否定された。
「エイミーちゃんはドラゴン大好きだよね?」
「え? そ、それは……」
言いよどむエイミーであるが、キャロルは知っていた。
エイミーが竜舎から卵を持ち出した時の表情――ひどく後悔し、涙で目を腫らしていた。間違いなく、あれは望んでやったことじゃない。金銭を得るための行為じゃない。
「卵を盗ったのだって、自分から進んでやったわけじゃないんでしょ?」
「……のよ」
「え?」
「言い訳になっちゃうけど、あれは……家族のためにやったの」
エイミーは少しずつ話し始めた。
まず、エイミーの実家はダステニアでドラゴン育成牧場を経営していた。その際、ドラゴンの生態アドバイザーをしていたのがザハールだった。ザハールは親身になってエイミーの両親へアドバイスを送っていた。
だが、風向きが変わったのはエイミーの学園入学を一ヶ月後に控えた日の夜。
ザハールは学園から不正に持ち出したドラゴンの卵を小国へ売り渡すため、エイミーの両親にその仲介業者となるよう迫った。
当然、エイミーの両親はこれを断固拒否。
だが、もし要求が呑めないのであれば、国から出ている補助金を打ち切ると言いだした。これはまだ駆け出しの牧場であり、お得意様のいないフラデール・ファームには、命を削られるに等しい行為であった。
結局、フラデール夫妻はザハールからの要求を呑まざるを得なかった。
さらにザハールは学園に通うエイミーにまで手を出した。
「パパたちには表向き、娘の私は関わらせないと言ったけど、ザハールは『もしこちらの要求が呑めないなら補助金を打ち切る書類を作成する』と言って脅してきた……それからはもうあいつの言いなりになるしか……」
「エイミーちゃん」
嗚咽混じりに真実を語ったエイミー。
裏でザハールが手を引いていることは発覚したが、ここまであくどいことをしていたとは思わなかった。
「その話……オーバ先生に言ってみてらどうかな」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。オーバ先生ならきっと協力をしてくれるから。それに、いざとなったらうちの牧場のオーナーだって力を貸してくれるよ」
「あなたの牧場?」
「そう。うちも牧場やっているんだ。リンスウッド・ファームっていうの」
「り、リンスウッド……そ、そういえば、あなたの名前は――じゃ、じゃあ、オーナーっていうのはあの、魔竜討伐に貢献したっていうタカミネ・ソータ!?」
「う、うん」
さっきまでの陰鬱とした感じがなくなったエイミーにズイッと迫られて、思わずキャロルは一歩後退。
「し、知っているの? ソータさんのこと」
「むしろ彼を知らない人なんていないでしょ!」
「そ、そうなんだ」
キャロルとしても、まさか颯太がそこまで有名人になっているとは思っていなかった。
「ね、ねえ、キャロル……一度あなたの牧場を訪ねてもいいかしら?」
「! 大歓迎だよ! きっとソータさんも喜ぶと思うし!」
「そ、そう?」
それから、キャロルとエイミーはいろいろなことを話した。
ドラゴン育成牧場あるあるで盛り上がったり、学校の行事のことで盛り上がり――そこにはもうぎこちない関係はない。
キャロルとエイミーは晴れて友人となったのだ。
それから、エイミーは学園生活に復帰した。
誤解が解けたことでクラスメイトたちからは一斉に謝罪を受けたが、エイミーはこれまでに見せたことのない笑顔で水に流すと言った。
「あいつ……なんか雰囲気変わったよな」
「あ、ああ」
「いい感じだよなぁ」
周りの見る目も変わっていく。
エイミーにとって本当の意味での学園生活は今日から改めて始まる。
ドアを壊すくらいの勢いで、キャロルはエイミーの部屋へ突撃。
「ちょっ!? な、何よ!?」
唐突な来訪に、エイミーも戸惑っていたようだが、相手がキャロルだと分かると「はあ」と息を吐いて落ち着きを取り戻す。その反応から、キャロルが訪ねてくることをあらかじめ予想していたようだ。
「あ、えっと……」
むしろキャロルの方が困惑していた。
オーバから颯太の活躍によってザハールの企みが明るみとなり、エイミーが無罪放免となったという事実に気持ちが高ぶってここまで来てしまったが、何を話すべきかなどまったく考えていなかったからだ。
エイミーを前にあたふたしていると、逆にエイミーの方が話しかけてきた。
「さっきのこと……悪かったわね」
俯きながら発したのは謝罪の言葉であった。
さっきのこと――それはザハールの件についてであろう。
「そんな! エイミーちゃんは何も悪くないよ! 悪いのはザハール先生の方だってオーバ先生をも言っていたし!」
「……でも、私はあいつに加担していた。学園は無罪放免と言ってくれたけど……私はもうここにはいられない……」
そこで、キャロルはハッと気づく。
片付けられている――と呼ぶには物がなさすぎる殺風景なエイミーの部屋。その理由は、彼女が大きめのバッグに整頓よくしまっていたからだった。
「え、エイミーちゃん……もしかして、学園を――」
「辞めるつもりよ」
言葉の途中で、エイミーはそう告げた。
「前の謹慎中から考えていたことだったの。私はたくさんの人に迷惑をかけてきたし、これからだって……取り返しのつかなくなる前に、私自身が身を退いた方が――」
「ダメだよ!」
キャロルから強く否定された。
「エイミーちゃんはドラゴン大好きだよね?」
「え? そ、それは……」
言いよどむエイミーであるが、キャロルは知っていた。
エイミーが竜舎から卵を持ち出した時の表情――ひどく後悔し、涙で目を腫らしていた。間違いなく、あれは望んでやったことじゃない。金銭を得るための行為じゃない。
「卵を盗ったのだって、自分から進んでやったわけじゃないんでしょ?」
「……のよ」
「え?」
「言い訳になっちゃうけど、あれは……家族のためにやったの」
エイミーは少しずつ話し始めた。
まず、エイミーの実家はダステニアでドラゴン育成牧場を経営していた。その際、ドラゴンの生態アドバイザーをしていたのがザハールだった。ザハールは親身になってエイミーの両親へアドバイスを送っていた。
だが、風向きが変わったのはエイミーの学園入学を一ヶ月後に控えた日の夜。
ザハールは学園から不正に持ち出したドラゴンの卵を小国へ売り渡すため、エイミーの両親にその仲介業者となるよう迫った。
当然、エイミーの両親はこれを断固拒否。
だが、もし要求が呑めないのであれば、国から出ている補助金を打ち切ると言いだした。これはまだ駆け出しの牧場であり、お得意様のいないフラデール・ファームには、命を削られるに等しい行為であった。
結局、フラデール夫妻はザハールからの要求を呑まざるを得なかった。
さらにザハールは学園に通うエイミーにまで手を出した。
「パパたちには表向き、娘の私は関わらせないと言ったけど、ザハールは『もしこちらの要求が呑めないなら補助金を打ち切る書類を作成する』と言って脅してきた……それからはもうあいつの言いなりになるしか……」
「エイミーちゃん」
嗚咽混じりに真実を語ったエイミー。
裏でザハールが手を引いていることは発覚したが、ここまであくどいことをしていたとは思わなかった。
「その話……オーバ先生に言ってみてらどうかな」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。オーバ先生ならきっと協力をしてくれるから。それに、いざとなったらうちの牧場のオーナーだって力を貸してくれるよ」
「あなたの牧場?」
「そう。うちも牧場やっているんだ。リンスウッド・ファームっていうの」
「り、リンスウッド……そ、そういえば、あなたの名前は――じゃ、じゃあ、オーナーっていうのはあの、魔竜討伐に貢献したっていうタカミネ・ソータ!?」
「う、うん」
さっきまでの陰鬱とした感じがなくなったエイミーにズイッと迫られて、思わずキャロルは一歩後退。
「し、知っているの? ソータさんのこと」
「むしろ彼を知らない人なんていないでしょ!」
「そ、そうなんだ」
キャロルとしても、まさか颯太がそこまで有名人になっているとは思っていなかった。
「ね、ねえ、キャロル……一度あなたの牧場を訪ねてもいいかしら?」
「! 大歓迎だよ! きっとソータさんも喜ぶと思うし!」
「そ、そう?」
それから、キャロルとエイミーはいろいろなことを話した。
ドラゴン育成牧場あるあるで盛り上がったり、学校の行事のことで盛り上がり――そこにはもうぎこちない関係はない。
キャロルとエイミーは晴れて友人となったのだ。
それから、エイミーは学園生活に復帰した。
誤解が解けたことでクラスメイトたちからは一斉に謝罪を受けたが、エイミーはこれまでに見せたことのない笑顔で水に流すと言った。
「あいつ……なんか雰囲気変わったよな」
「あ、ああ」
「いい感じだよなぁ」
周りの見る目も変わっていく。
エイミーにとって本当の意味での学園生活は今日から改めて始まる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。