おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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禁竜教編

第68話  リート、救出

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「今すぐリートを解放しやがれ!」

 頭に血が上っているイリウスが仮面の男とその仲間たちの前に飛び出す。
 リュミエールが目撃した赤目の竜人族はいないようだが、いつここへやってくるかわかったものではない。イリウスをこのまま見殺しにするわけにもいかないので、颯太たちも動かざるを得なくなった。

「仕方がない。俺たちもこの混乱に乗じて王都へ向かうぞ。ただし見つからないようにだ」

 ハドリーは4人の兵士を選抜し、ついて来るよう指示を出す。
 残った颯太とその他の兵士は待機。その中で2名はヒューズへの伝令として本拠地のテントへと向かわせた。

 グルル、と唸り声をあげ、敵意をむき出しにしているイリウスを前に、禁竜教の教団員たちも迂闊に手が出せないようであった。
荷車に乗せられたリートが、弱々しく首を上げ、その黒い瞳がイリウスを捉えた。

「い、イリウスか……」
 
 消え入りそうな声でイリウスの名を呼ぶリート。――その様子が、イリウスに残された一握りほどの理性を振り払った。

「うおおおおっ!!」

 雄叫びをあげながら、イリウスは教団員たちに突っ込んでいく。

「ひっ!?」

 さすがに、怒りをあらわりにするドラゴンへ立ち向かうことなどできず、教団員たちはリートの乗った荷車を破棄して逃げ出した。
 イリウスは体当たりで強引に荷車を破壊。リートの動きを封じていたロープを噛み千切って助け出す。

「大丈夫か!?」
「も、問題ないわ。……ありがとう、イリウス」
「いいってことよ」

 イリウスとリートは顔をすり合わせてお互いの無事を確認。――ただ、ここで新事実が発覚した。

「……リートって雌だったのか」

 竜人族以外で言うなら、アーティーがそうだったが、やはりドラゴンも性別によって声質がかなり異なるということを颯太は知っていた。
 その例に当てはめると、リートは完全に女声だ。

「まさか、イリウスのヤツ」

 同じ牧場の仲間で竜騎士団所属――それ以外にも、イリウスがここまでムキになる要素があるとするなら、それは、

「……やめておこう」

 今はこの場を切り抜けることに専念するとしよう。イリウスをイジるのはみんなでリンスウッド・ファームに戻ってからのお楽しみだ。
 一方、突然の乱入者にかき乱された禁竜教サイドは、

「ま、マクシミリアン様! 人質のドラゴンが!?」

 教団員の1人が、仮面の男へ助けを求める。

「あいつ……マクシミリアンっていう名前なのか」

 状況を見守っていた颯太が仮面の男の名に気を取られていると、

「リート! パーキースはどこだ! あと、他の連中も!」
「パーキースや他のみんなはあの城の中に捕らえられているわ。私はなんとか隙をついて逃げ出そうとしたんだけど失敗して」

 ハドリーの見立て通り、他のドラゴンたちは旧レイノア城の中にいるようだ。

「敵の中にドラゴンを洗脳できる能力を持った赤い瞳の竜人族がいるわ。あの子の能力でパーキースたちは敵の言いなりになっている状況よ」
「なんだと!?」
「そこにいる仮面の男が言っていたわ。彼らにハルヴァと戦える戦力はない。竜人族も、優れているのはドラゴンを操るという能力だけで、戦闘力があるわけじゃない。あるのは敵の背力を逆に利用するだけだって。だから、いくら洗練された竜騎士団といえど、このまま突っ込むのは危険だわ」

 リートのもたらした情報――すでに敵の竜人族によってこちらのドラゴンは洗脳され、敵として戦うことになるというものだった。もし、その情報を知らずに城へ攻撃を仕掛けていたとしたら、リュミエールの時のように、なんの策もないまま同士討ちになってしまっていただろう。敵の狙いはそこにあるようだった。

「こうしちゃいられない」

 颯太は兵士たちの制止を振り切ってハドリーたちを追いかけた。キツイ傾斜を滑り落ちるように進み、途中、擦切って軽く出血をしたが、気にもとめずハドリーのもとを目指す。
 そして、一軒の家屋の陰に隠れるハドリーたちを発見すると、すぐに近づいて、

「ハドリーさん」
「! ソータ! 何やってんだ!」

 口調は強く、だけどもボリュームは小さく、ハドリーが突然現れた颯太に驚きと怒りの混じった声をあげる。そんなハドリーを宥めながら、颯太はリートの情報を正確に伝えた。
 
「やはりそうだったか。――よし、とりあえずリートを救出して一旦この場を離れる。敵がこちらのドラゴンを逆に戦力として利用し、戦おうというならそいつらを無下に殺したりはしないだろうからな」

 リートの言葉から察するに、向こうはこちら側の戦力を利用する以外にまともな戦力は持ち合わせてはいないようだ。

「何をしている! 早くあの2匹を捕らえよ!」

 仮面の男――マクシミリアンが命ずるも、教団員たちはロープ片手に呆然と立ち尽くすばかり。リートの言う通り、彼らは戦力としてあまり期待できたものではない。やはり、こちら側にいるドラゴンを操るだけが戦う術のようだ。

「俺が煙幕弾を投げ入れる。その隙に、あいつらを助け出すぞ」

 ハドリーが兵士たちに作戦の段取りを説明する。
 ――そして、

「いけっ!」

 ハドリーが煙幕弾を放り投げたと同時に、兵士たちがイリウスとリートのもとへと駆け寄った。

「な、何事だ!?」

 混乱する禁竜教サイドを尻目に、統率の取れた動きで素早く2匹に近づいた兵士は、
 
「イリウス! リート! こっちに来い!」
 
 的確な誘導で2匹を確保。
 周囲を警戒しつつ、煙幕が晴れるまでに敵との距離を十分離すことに成功する。

「うまくいきましたね」
「……わざと逃がしたっていうふうにも見えない……相手はどうも戦闘分野においては素人集団みたいだな。一体どうなってやがるんだ?」

 禁竜教という名からして、相手は宗教団体である。しかし、それでも一国の――しかも4大国家の1つであるハルヴァにケンカを売る以上、もっと何重にも罠や戦力を有しているものかと思っていたが、

「相手の戦力の中枢は……本当に例の竜人族だけなのか?」

 だとしたら、ハルヴァ竜騎士団も相当舐められたものである。

「……颯太、あいつらには別ルートから本拠地へ戻るよう伝えてある。俺たちもすぐに撤退するぞ」
「わかりました」

 多くの謎を残しつつ、まずはリートの救出に成功した竜騎士団は、次なる救出作戦を実行するため一旦本拠地へと戻った。
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