おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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レイノアの亡霊編

第127話  交渉開始

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 スウィーニーが連れてきたのはガブリエル竜騎士団長、ヒューズ、ファネル、ドラン、ジェイク――そしてメア、ノエル、キルカといった颯太にとって顔馴染みの面子であった。
 そんな彼らは旧レイノア城へ足を踏み入れると、なぜか敵の親玉と横並びになって騎士団を出迎えた颯太の存在に驚き、声をあげた。

 ――が、すぐにその驚きは別のものへと塗り替えられる。

「え、エインディッツ・ペンテルス……君が禁竜教の代表だったのか」
「ご無沙汰しています、ガブリエルさん――いえ、今は騎士団長でしたな」

 元ハルヴァ竜騎士団のエインが黒幕と知り、ガブリエルはフリーズ。ヒューズやジェイクも声が出せないほど驚いているようだが、まだ若く、面識のないファネルとドランは3人の動揺ぶりを不思議そうに眺めていた。

 そして――肝心のスウィーニーは、

「まさか君がハルヴァに牙を剥くとは」

 スウィーニーにとっても、エインの登場はそれなりに衝撃を受けたようだった。

「交渉の席は用意してあるが――その前に人質を解放しよう」

 エインが指をパチンと鳴らすと、教団員に連れられたレフティやリガンたちが交渉団の前にやって来る。手錠などで拘束はしておらず、道具ではなく人間として扱われているのがうかがえる対応だった。

「それで、この城のどこで交渉を?」

 解放された人質たちが竜騎士団によって保護されたのを見届けて、スウィーニーがそう切り出す。
 内心、ダヴィドたちへ殺害を依頼したはずのレフティとリガンが存命であることに「しくじったか」という気持ちが湧き上がったが、すぐに心の奥底へしまい込んで気持ちをスパッと切り替えた。

「あちらの部屋だ。そこで、あなたと私――サシでやろう」
「え、エイン……」

 エインからの提案にガブリエルが異を唱えようとするが、それを止めたのは交渉役を務めるスウィーニーだった。
 
「いいだろう。君が交渉相手ならば命を取られる心配はない」

 まるで牽制するような口ぶりで言う。
 ガブリエルたち騎士たちも、禁竜教代表の正体がエインだと知るまでは、そこが気がかりであった。交渉というのは口実で、ハルヴァ外交の要であるスウィーニーを手にかけようとするのではないかと警戒していた。

 しかし、相手がエインなら話は変わる。 
 若手のファネルとドラン以外の騎士たちはエインディッツ・ペンテルスという竜騎士をよく知っている。だからこそ、そのような卑劣な手を使うなどとは到底思えない。

 騎士団長のガブリエルも同意見ではあったが、以前の占領事件も合わせて、もしかしたら自分たちの知っているエインとは別人だと錯覚してしまうほど人格が変わってしまったという線も頭に入れていた。

 そう考えると、サシでの交渉というのはいただけない。
 せめて、自分だけでも護衛としてついて行こうと条件を付け足そうとした矢先に、あっさりとスウィーニーが了承してしまったのだ。
 
「スウィーニー大臣、さすがにふたりだけでの交渉というのは……」
「問題ない。君たちはここで待っていろ」

 スウィーニーはガブリエルの忠告を一蹴。
 どうしてもサシでの交渉にこだわっているようだ。その様子に、ガブリエルは少し不信感を覚える。あの重度の慎重癖であるスウィーニー大臣なら、頑としてその提案を断るはずだと踏んでいたが、そうしなかった。
リスクを冒してまでサシにこだわる理由とはなんだろう。

 ――何か、自分たちがいてはまずいことでもあるのだろうか。

 もしかしたら、向こう側から提案されなければ、自分からサシでの交渉を提案していたかもしれない――そんな疑惑さえ浮かんでくる。

 一方、エインの方は雲行きが怪しくなる交渉団とは違い、

「おや? まだジーナが来ていないようだな」

 交渉の場に護衛役として合流する予定のジーナラルグの姿が見えないと辺りをキョロキョロと見回している。まるで気負いを感じないリラックスした口調だった。
 こうした大舞台に慣れているのか、それとも自分を落ち着かせるためなのか。

 とにかく、ジーナを探しているようなので、颯太は会話が成立する自分が連れて来ると言おうとするが、自分の服が強く引っ張られて阻止される。そのようなことをするのはこの場に2匹しかいない。

「ソータ! なぜここにおまえがいるのだ!」
「敵に掴まったていたんですか!?」

 眉を八の字にして怒るメアとノエルだった。

「ああ、違う……こともないけど、俺は大丈夫だよ。心配いらないから――」
「ソータ! なんでおまえがこんなとこにいるんだ!?」
「大丈夫でありますか!?」

 ジェイクとファネルも颯太に詰め寄って来た。収拾がつかなくなりそうなので、

「く、詳しい事情はあとで説明しますから!」

 そう言って強引にシャットアウト。
 だが、そこで時間を食ってしまったせいで、

「始めようか――交渉を」
「ああ」

 エインとスウィーニー。

 かつて、ハルヴァために力を尽くした2人がいよいよ交渉の席でその火花を散らすこととなった。

「エインさん……」
「行ってくるよ、ソータくん」

 重苦しい音を立てて、颯太とエインの間を鉄の扉が遮った。


 ◇◇◇


「まあ、かけてくれ」

 エインは内側からしか開けられない部屋の鍵をしっかりとかけ、スウィーニーを席へと座るよう促す。それに大人しくスウィーニーが従うと、

「――さて、もう遠慮はいらないな」

 対面となるようエイン自身も座り、まずそう切り出す。

「ここからは禁竜教代表というより、旧レイノア国民代表として君と交渉したいと思う」
「エイン……ハルヴァ生まれの君がレイノアの代表を名乗るか」
「少なくとも、この組織の総意として私が代表を務めている」

 ふぅ、とエインは息を吐いてから、

「スウィーニー……単刀直入に聞こう。――なぜレイノアを奪った?」

 そう切り出した。
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