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レイノアの亡霊編
第135話 迫り来る決着の時
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「さて……そろそろ時間になるけど」
颯太は夜空を見上げた。
なんの変哲もない、いつも通りの夜の空だ。
「メアとキルカが気になりますか?」
エインの様子を伝えに来たシュードだった。
「ああ、まあね」
「そういえば、あの子たちがどこを目指して飛んで行ったか聞いていませんでしたね。どこへ向かったんですか?」
「それは――」
間もなく2匹は戻ってくるだろうし、と颯太はシュードに竜人族3人娘が考えついた策を伝えた。それを耳にしたシュードは、
「ええっ!?」
思わず声を荒げた。
「そ、それってまずくないですか?」
「たぶん平気だよ」
笑って答える颯太。一見すると無責任に思えるが、不思議とその笑顔には説得力が込められていた。なんでそう思うのか、詳しく説明はできないけれど――あえて言うなら、高峰颯太という人間性が醸し出すオーラのようなものと言えばいいか。
「はは、あなたは時々大胆なことを考えますね」
大きな尊敬と小さな呆れが混じった、なんとも言えない複雑な気持ちをシュードは隠すことなく吐露した。
「でも、エインさんを助けるにはこれしかないと思ってね」
「たしかに――あ、そのエインさんですが、ここで待機できるのはもってあと5分くらいだそうです」
「そうか……」
颯太はメアとキルカの狙いを知ってから、王都へ向かう医療班に待ってもらうよう働きかけていた。もし、狙い通りに事が運べば、エインは交渉に再度挑戦できる――そうなれば、ダリス女王の証言も合わせてスウィーニーは逃げきれないだろう。
エインが復活した時こそ、スウィーニー包囲網の完成を迎えるのだ。
「……けど、本当にそろそろ戻ってきてくれないと時間が――あっ!」
再び夜空を見上げた颯太はそこにある変化を見つけた。
つられて空を見たシュードも、星空の中に3つの影を発見する。
「! 戻って来た!」
「ああ――それに、《あいつ》を連れて来ることに成功したみたいだ」
颯太とシュードはすぐに医師とハドリーへ事態を知らせて、意識を失っているエインを外へ連れ出すよう指示をする。
「これで……形勢は逆転だ」
強くかみしめるように、颯太は呟いた。
◇◇◇
城内へ戻って来たガブリエルは、ダリス女王との面会を希望したが、「少し時間が欲しい」と教団員に言われて叶わなかった。
ただ、絶対に交渉へ向かいます、と力強く宣言されたため、颯太の言っていたことは間違いでなかったようだ。
しばらくすると身体検査を終えたスウィーニーと出くわした。
「スウィーニー大臣……次の交渉人の件ですが」
「禁竜教側は誰を立てて来ると?」
さすがのスウィーニーでも、そこは気になっているようだった。
今の禁竜教にエイン以上の人材がいるとは到底思えないが、それでも、あのエインのことだから自分が倒れた時のための備えをしていた可能性は捨てきれない。
「実は――」
ガブリエルがダリス女王の件を伝えようとした時――突如、ガブリエルの動きがピタッと停止した。
一体何が起きたのか。
よく見ると、ガブリエルの視線は話し相手であるスウィーニーの方へ向けられていない。その背後――2階へと通じる階段があるそこで、何かを発見したようだった。
スウィーニーが振り返ると、
「っ!?」
声も出なかった。
そこには、白を基調とした美しいドレスを身にまとう――ダリス女王の姿があった。
振り乱していた髪は整えられ、やつれていた顔は化粧でなんとか誤魔化している。それまでの顔を知らないガブリエルやスウィーニーにからすれば、かつて、度重なる苦境に耐えながらレイノアを治めていた在りし日のダリス女王の姿そのままに映った。
「おぉ……ダリス女王陛下は健在であったか」
ガブリエルが嬉しそうに声をあげる。
半信半疑ではあったが、颯太の言う通り、禁竜教――いや、レイノア側の次なる交渉人はダリス女王で決まりだと確信した。
その一方で、
「ば、バカな……」
こんなはずはない――とでも言いたげに、眉をひそめるスウィーニー。
ジャービスとの間でまとめた領地譲渡の件を突きつけて以降、狂ってしまったあのダリス女王が、以前のような美しくさと凛々しさを感じさせる姿で立っている。
あり得ない。
禁竜教を立ち上げた時は精神的に壊れていた。もう修復不可能だと思っていた。それが、どうやったらあの悲惨な状態から回復できるというのか。
「お待たせして申し訳ありませんね」
「い、いえ、そんな……」
威厳溢れるその言動に、ガブリエルは自然と膝をついて階段を下りて来る女王を迎えた。
「さあ、始めましょうか。ただし、今回は交渉の場に数名同席させていただきます。よろしいですね?」
「…………」
スウィーニーはしばらく何も答えられなかったが、ガブリエルが「大臣?」と声をかけるとハッと我に返り、申し出を了承。早速、ハルヴァ側の同席者を決めようとしたのだが、
「よろしいかしら」
ダリス女王からさらなる提案があがった。
「あなた方の交渉同席者に……タカミネ・ソータ氏を加えてほしいのですが」
「タカミネ・ソータを?」
「彼にはお礼を言えないままでしたので、是非この場をお借りしてきちんと感謝の言葉を贈りたいのです」
「わかりました。彼もきっと喜びます」
ガブリエルは城内に残っていた騎士たちを呼び集めると、颯太をここへ連れて来るように命じた。
「さあ……じっくりと話し合いましょう――スウィーニー大臣」
「…………」
ハルヴァとレイノアを巡る因縁は――決着の時を迎えようとしていた。
颯太は夜空を見上げた。
なんの変哲もない、いつも通りの夜の空だ。
「メアとキルカが気になりますか?」
エインの様子を伝えに来たシュードだった。
「ああ、まあね」
「そういえば、あの子たちがどこを目指して飛んで行ったか聞いていませんでしたね。どこへ向かったんですか?」
「それは――」
間もなく2匹は戻ってくるだろうし、と颯太はシュードに竜人族3人娘が考えついた策を伝えた。それを耳にしたシュードは、
「ええっ!?」
思わず声を荒げた。
「そ、それってまずくないですか?」
「たぶん平気だよ」
笑って答える颯太。一見すると無責任に思えるが、不思議とその笑顔には説得力が込められていた。なんでそう思うのか、詳しく説明はできないけれど――あえて言うなら、高峰颯太という人間性が醸し出すオーラのようなものと言えばいいか。
「はは、あなたは時々大胆なことを考えますね」
大きな尊敬と小さな呆れが混じった、なんとも言えない複雑な気持ちをシュードは隠すことなく吐露した。
「でも、エインさんを助けるにはこれしかないと思ってね」
「たしかに――あ、そのエインさんですが、ここで待機できるのはもってあと5分くらいだそうです」
「そうか……」
颯太はメアとキルカの狙いを知ってから、王都へ向かう医療班に待ってもらうよう働きかけていた。もし、狙い通りに事が運べば、エインは交渉に再度挑戦できる――そうなれば、ダリス女王の証言も合わせてスウィーニーは逃げきれないだろう。
エインが復活した時こそ、スウィーニー包囲網の完成を迎えるのだ。
「……けど、本当にそろそろ戻ってきてくれないと時間が――あっ!」
再び夜空を見上げた颯太はそこにある変化を見つけた。
つられて空を見たシュードも、星空の中に3つの影を発見する。
「! 戻って来た!」
「ああ――それに、《あいつ》を連れて来ることに成功したみたいだ」
颯太とシュードはすぐに医師とハドリーへ事態を知らせて、意識を失っているエインを外へ連れ出すよう指示をする。
「これで……形勢は逆転だ」
強くかみしめるように、颯太は呟いた。
◇◇◇
城内へ戻って来たガブリエルは、ダリス女王との面会を希望したが、「少し時間が欲しい」と教団員に言われて叶わなかった。
ただ、絶対に交渉へ向かいます、と力強く宣言されたため、颯太の言っていたことは間違いでなかったようだ。
しばらくすると身体検査を終えたスウィーニーと出くわした。
「スウィーニー大臣……次の交渉人の件ですが」
「禁竜教側は誰を立てて来ると?」
さすがのスウィーニーでも、そこは気になっているようだった。
今の禁竜教にエイン以上の人材がいるとは到底思えないが、それでも、あのエインのことだから自分が倒れた時のための備えをしていた可能性は捨てきれない。
「実は――」
ガブリエルがダリス女王の件を伝えようとした時――突如、ガブリエルの動きがピタッと停止した。
一体何が起きたのか。
よく見ると、ガブリエルの視線は話し相手であるスウィーニーの方へ向けられていない。その背後――2階へと通じる階段があるそこで、何かを発見したようだった。
スウィーニーが振り返ると、
「っ!?」
声も出なかった。
そこには、白を基調とした美しいドレスを身にまとう――ダリス女王の姿があった。
振り乱していた髪は整えられ、やつれていた顔は化粧でなんとか誤魔化している。それまでの顔を知らないガブリエルやスウィーニーにからすれば、かつて、度重なる苦境に耐えながらレイノアを治めていた在りし日のダリス女王の姿そのままに映った。
「おぉ……ダリス女王陛下は健在であったか」
ガブリエルが嬉しそうに声をあげる。
半信半疑ではあったが、颯太の言う通り、禁竜教――いや、レイノア側の次なる交渉人はダリス女王で決まりだと確信した。
その一方で、
「ば、バカな……」
こんなはずはない――とでも言いたげに、眉をひそめるスウィーニー。
ジャービスとの間でまとめた領地譲渡の件を突きつけて以降、狂ってしまったあのダリス女王が、以前のような美しくさと凛々しさを感じさせる姿で立っている。
あり得ない。
禁竜教を立ち上げた時は精神的に壊れていた。もう修復不可能だと思っていた。それが、どうやったらあの悲惨な状態から回復できるというのか。
「お待たせして申し訳ありませんね」
「い、いえ、そんな……」
威厳溢れるその言動に、ガブリエルは自然と膝をついて階段を下りて来る女王を迎えた。
「さあ、始めましょうか。ただし、今回は交渉の場に数名同席させていただきます。よろしいですね?」
「…………」
スウィーニーはしばらく何も答えられなかったが、ガブリエルが「大臣?」と声をかけるとハッと我に返り、申し出を了承。早速、ハルヴァ側の同席者を決めようとしたのだが、
「よろしいかしら」
ダリス女王からさらなる提案があがった。
「あなた方の交渉同席者に……タカミネ・ソータ氏を加えてほしいのですが」
「タカミネ・ソータを?」
「彼にはお礼を言えないままでしたので、是非この場をお借りしてきちんと感謝の言葉を贈りたいのです」
「わかりました。彼もきっと喜びます」
ガブリエルは城内に残っていた騎士たちを呼び集めると、颯太をここへ連れて来るように命じた。
「さあ……じっくりと話し合いましょう――スウィーニー大臣」
「…………」
ハルヴァとレイノアを巡る因縁は――決着の時を迎えようとしていた。
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