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番外編 西の都の癒しツアー?
第150話 学園見学
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「これから竜医見習いの学生たちによる実習があるんだ。そこにシャオもいるはずだから見ていかないか?」
「是非」
オーバからの提案を受け取った颯太は、騎士たちを引き連れて中庭へとやって来た。そこでは12名の学生が集まり、教師と思われる男性の話を真剣な表情で聞いていた。白衣を身にまとった生徒たちはメモを取ったり質問したり、とても熱心に取り組んでいる様子がひしひしと伝わる。
そんな彼らの前には3匹のドラゴンがゴロンと横になっている。
その表情から、とてもリラックスしていることがわかる。
「勉強熱心ですね」
「竜医という仕事は誰でもできるもんじゃない。そもそも、すべてのドラゴンが人間に対して友好的とは限らないからな。時には牙を剥くこともある」
「そうですね……」
その話を耳にした颯太は初めてメアと会った時を思い出した。
禁竜教の影響を受けた国から浴びせられた仕打ち――それにより、銀竜メアンガルドは酷い人間不信へと陥った。颯太の決死の説得により、今ではリンスウッドの一員として竜騎士団に所属しているメアだが、あれも一歩間違ったら殺処分なんて事態も考えられた。
そういったように、人間に対して明らかな敵対心を持ったドラゴンを相手にするのは命懸けのこと。ここにいる生徒たちは、みんなそうした危険を承知の上で、それでもドラゴンを助けたいという気持ちを抱き、日々勉強に明け暮れているのだ。
「そういえば、君の所にいるブリギッテ・サウアーズ竜医もここの卒業生だぞ」
「聞きました。どんな生徒だったか覚えていますか?」
「私が卒業してからだいぶあとに入学してきたんで詳しくは知らないが……噂ならよく耳にしていたよ」
「噂?」
「成績優秀でおまけに美しい容姿。彼女は学園中の人間から注目される存在だった。――もっとも、当人はドラゴン以外にまったく興味がないようで、色恋沙汰とは無縁らしく、何人もの男たちが玉砕されたと聞いている」
なんとなく、予想した通りの結果だった。
「でも、あれだけ能力があって見た目もいいとなると今も男性から誘いがありそうなものですが……」
「或は、もう心に決めた人がいるのかもな」
オーバはそう言って、何か含みのある笑みを浮かべながら颯太を見る。だが、当の颯太自身はというと、
「うーん……一体誰なんですかね?」
こんな反応だった。
実を言うと、オーバは心配していた。
お見合い話を知った際、真っ先に浮かんできたのはブリギッテのことだった。
ペルゼミネで颯太とブリギッテの関係性を目の当たりにしたオーバは、ふたりの親密さからすでに恋仲なのではと勘繰っていたが、のちにガドウィンから派遣されてきたアムが颯太のいないところでそれとなくブリギッテに颯太との関係をたずねると、否定こそしていたが満更でもない感じだったので、これはふたりがくっつくのは時間の問題だなと踏んでいた。
ところが、今の颯太の反応を見ると両者の関係に進展は見えないようだ。
これならば、
「あながちあの子にもまったく脈がないわけでもなさそうだ」
「? 何か言いました?」
「いや、なんでもないよ」
教師としては教え子の恋を応援してやりたい気持ちがある。
しかし、だからといって相手の気持ちをまったく無視して結びつけるわけにもいかない。もし颯太がブリギッテと――もしくは、他の誰かと恋仲であるなら、この話は断ってもいいと言うつもりだった。
少なくとも、オーバの中で最有力候補だったブリギッテとはそういった関係性ではないと知り、まだシャオに勝ち目があるとホッとする。
そんなことを考えているうちに実習が始まる。
生徒たちは4人1組となってドラゴンたちの周りに立ち、触診を開始。
ところが、
「うん? シャオの姿がないな」
オーバは学生たちの班の中にシャオがいないことに気づく。すぐさま担当教員のもとへ向かい、何かあったのかとたずねると、
「シャオなら資料室の整理を手伝っているとかで遅れるそうです」
「そうか……」
どうやら、別の教員から頼まれごとをされたようだった。
とりあえず、今はまだこの場に来られそうになということなので、実習を見学させてもらうことにした。
一番近くにいたドラゴンへ、颯太は話しかける。
「気持ちよさそうだな」
「まあな。――て、返事しても無駄か」
「そんなことはないよ」
「!?」
颯太と会話が成立したことで、それまでまったりと横たわっていたドラゴンが急にガバッと立ち上がった。その様子に、生徒たちが騒然となる。
「す、凄い! リンがあんな反応を見せるなんて!」
「会話ができたことに驚いたのか!」
「本当に……ドラゴンと会話ができるなんて……」
颯太の能力を披露したことで、生徒たちは盛り上がりを見せる。颯太は軽はずみな行動で実習の邪魔をしてしまったと反省したが、担当教員の女性が一番瞳を輝かせて颯太に拍手を送っていた。
結局、実習時間内にシャオ・ラフマンが戻って来ることはなかったが、「ドラゴンと会話ができる能力を持った颯太による特別授業」という形に変更され、生徒たちには大変な好評を博したのだった。
◇◇◇
その日の夜。
宿についてはダステニアからの配慮で最初に泊まる予定になっていた高級宿屋に部屋を擁してもらえることになった。
フロントでキャロルたちが戻ってきていないかたずねるとすでにダステニア観光を終えて宿に戻ってきているらしかった。応じてくれた宿の人の話では、とても楽しげな様子だったらしい。とりあえず、息抜きはできているようで一安心する。
颯太はジェイクに許可を取り、食事の前に風呂へ入ることにした。
ここの風呂はブロドリックの一押しということで楽しみにしていたのだが、
「残る問題は俺だけか……」
拭いきれない不安で楽しみも半減してしまっている。
なんだかんだあって学園内ではシャオ・ラフマンに会えなかったが、この後、宿での食事会でお披露目をするとリー学園長から説明を受けた。
『ハッキリと言おう。飯のうまさに関してはダステニアがぶっちぎりだ。嫁さんの料理も最高で申し分ないが……それとはまた違ったうまさがある』
ジェイクの評価はこんな感じだった。
果たして、どんな豪勢な料理なのか――そんな楽しみよりも、颯太にとってはこれからシャオ・ラフマンと顔を合わせることになるという緊張感で頭がいっぱいだった。
これではダメだ。
せっかく温泉に入るんだからリラックスしよう。
言い聞かせるように呟くも、どうしても脳裏に浮かぶシャオのこと。
果たして、シャオ・ラフマンという少女はどんな子なのだろうか。
変な期待と変な不安が入り混じる中、
「「あ」」
偶然、ブリギッテと出くわした。
「是非」
オーバからの提案を受け取った颯太は、騎士たちを引き連れて中庭へとやって来た。そこでは12名の学生が集まり、教師と思われる男性の話を真剣な表情で聞いていた。白衣を身にまとった生徒たちはメモを取ったり質問したり、とても熱心に取り組んでいる様子がひしひしと伝わる。
そんな彼らの前には3匹のドラゴンがゴロンと横になっている。
その表情から、とてもリラックスしていることがわかる。
「勉強熱心ですね」
「竜医という仕事は誰でもできるもんじゃない。そもそも、すべてのドラゴンが人間に対して友好的とは限らないからな。時には牙を剥くこともある」
「そうですね……」
その話を耳にした颯太は初めてメアと会った時を思い出した。
禁竜教の影響を受けた国から浴びせられた仕打ち――それにより、銀竜メアンガルドは酷い人間不信へと陥った。颯太の決死の説得により、今ではリンスウッドの一員として竜騎士団に所属しているメアだが、あれも一歩間違ったら殺処分なんて事態も考えられた。
そういったように、人間に対して明らかな敵対心を持ったドラゴンを相手にするのは命懸けのこと。ここにいる生徒たちは、みんなそうした危険を承知の上で、それでもドラゴンを助けたいという気持ちを抱き、日々勉強に明け暮れているのだ。
「そういえば、君の所にいるブリギッテ・サウアーズ竜医もここの卒業生だぞ」
「聞きました。どんな生徒だったか覚えていますか?」
「私が卒業してからだいぶあとに入学してきたんで詳しくは知らないが……噂ならよく耳にしていたよ」
「噂?」
「成績優秀でおまけに美しい容姿。彼女は学園中の人間から注目される存在だった。――もっとも、当人はドラゴン以外にまったく興味がないようで、色恋沙汰とは無縁らしく、何人もの男たちが玉砕されたと聞いている」
なんとなく、予想した通りの結果だった。
「でも、あれだけ能力があって見た目もいいとなると今も男性から誘いがありそうなものですが……」
「或は、もう心に決めた人がいるのかもな」
オーバはそう言って、何か含みのある笑みを浮かべながら颯太を見る。だが、当の颯太自身はというと、
「うーん……一体誰なんですかね?」
こんな反応だった。
実を言うと、オーバは心配していた。
お見合い話を知った際、真っ先に浮かんできたのはブリギッテのことだった。
ペルゼミネで颯太とブリギッテの関係性を目の当たりにしたオーバは、ふたりの親密さからすでに恋仲なのではと勘繰っていたが、のちにガドウィンから派遣されてきたアムが颯太のいないところでそれとなくブリギッテに颯太との関係をたずねると、否定こそしていたが満更でもない感じだったので、これはふたりがくっつくのは時間の問題だなと踏んでいた。
ところが、今の颯太の反応を見ると両者の関係に進展は見えないようだ。
これならば、
「あながちあの子にもまったく脈がないわけでもなさそうだ」
「? 何か言いました?」
「いや、なんでもないよ」
教師としては教え子の恋を応援してやりたい気持ちがある。
しかし、だからといって相手の気持ちをまったく無視して結びつけるわけにもいかない。もし颯太がブリギッテと――もしくは、他の誰かと恋仲であるなら、この話は断ってもいいと言うつもりだった。
少なくとも、オーバの中で最有力候補だったブリギッテとはそういった関係性ではないと知り、まだシャオに勝ち目があるとホッとする。
そんなことを考えているうちに実習が始まる。
生徒たちは4人1組となってドラゴンたちの周りに立ち、触診を開始。
ところが、
「うん? シャオの姿がないな」
オーバは学生たちの班の中にシャオがいないことに気づく。すぐさま担当教員のもとへ向かい、何かあったのかとたずねると、
「シャオなら資料室の整理を手伝っているとかで遅れるそうです」
「そうか……」
どうやら、別の教員から頼まれごとをされたようだった。
とりあえず、今はまだこの場に来られそうになということなので、実習を見学させてもらうことにした。
一番近くにいたドラゴンへ、颯太は話しかける。
「気持ちよさそうだな」
「まあな。――て、返事しても無駄か」
「そんなことはないよ」
「!?」
颯太と会話が成立したことで、それまでまったりと横たわっていたドラゴンが急にガバッと立ち上がった。その様子に、生徒たちが騒然となる。
「す、凄い! リンがあんな反応を見せるなんて!」
「会話ができたことに驚いたのか!」
「本当に……ドラゴンと会話ができるなんて……」
颯太の能力を披露したことで、生徒たちは盛り上がりを見せる。颯太は軽はずみな行動で実習の邪魔をしてしまったと反省したが、担当教員の女性が一番瞳を輝かせて颯太に拍手を送っていた。
結局、実習時間内にシャオ・ラフマンが戻って来ることはなかったが、「ドラゴンと会話ができる能力を持った颯太による特別授業」という形に変更され、生徒たちには大変な好評を博したのだった。
◇◇◇
その日の夜。
宿についてはダステニアからの配慮で最初に泊まる予定になっていた高級宿屋に部屋を擁してもらえることになった。
フロントでキャロルたちが戻ってきていないかたずねるとすでにダステニア観光を終えて宿に戻ってきているらしかった。応じてくれた宿の人の話では、とても楽しげな様子だったらしい。とりあえず、息抜きはできているようで一安心する。
颯太はジェイクに許可を取り、食事の前に風呂へ入ることにした。
ここの風呂はブロドリックの一押しということで楽しみにしていたのだが、
「残る問題は俺だけか……」
拭いきれない不安で楽しみも半減してしまっている。
なんだかんだあって学園内ではシャオ・ラフマンに会えなかったが、この後、宿での食事会でお披露目をするとリー学園長から説明を受けた。
『ハッキリと言おう。飯のうまさに関してはダステニアがぶっちぎりだ。嫁さんの料理も最高で申し分ないが……それとはまた違ったうまさがある』
ジェイクの評価はこんな感じだった。
果たして、どんな豪勢な料理なのか――そんな楽しみよりも、颯太にとってはこれからシャオ・ラフマンと顔を合わせることになるという緊張感で頭がいっぱいだった。
これではダメだ。
せっかく温泉に入るんだからリラックスしよう。
言い聞かせるように呟くも、どうしても脳裏に浮かぶシャオのこと。
果たして、シャオ・ラフマンという少女はどんな子なのだろうか。
変な期待と変な不安が入り混じる中、
「「あ」」
偶然、ブリギッテと出くわした。
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