おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章①】廃界突入編

第156話  黒幕

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 リー学園長を探していたジェイクは、思いのほか早く学園長を発見する。
 学園長は数人の少年に囲まれていた。
 全員揃いの制服から、アークス学園の生徒と思われるが、その生徒たちと会話をしている学園長の顔は、見る見る険しいものへと変貌していった。

「どうかされましたか?」

 明らかに様子の変わったリー学園長に、ジェイクが話しかけた。学園長はビクッと体を強張らせながら振り返る。

「お、おお、ジェイクさんか」

 取り繕うように笑顔を浮かべるが、明らかに動揺しているのがうかがえる。

「リー学園長……何かあったんですね?」
「そ、それは……」

 学園長としても、ジェイクがその場しのぎの薄っぺらな嘘で誤魔化せるような相手ではないことは理解している。
なので、ありのままの事実を伝えることにした。

「娘のシャオが……何者かに誘拐された」
「なっ!?」

 ジェイクは予想外の展開に思わず声をあげた。
 
「誘拐って、犯人は誰なんですか!?」
「わからない。ただ、ここにいる生徒たちが目撃したと」

 学園長が言うと、数名の学生たちはジェイクのもとへと集まって来る。男子生徒ふたりと女子生徒がひとり――皆、相当怖い思いをしたらしく、涙目で震えていた。

「一体何があったんだ?」

 ジェイクが問うと、生徒たちは声を震わせながらも事態を一から説明した。
 その途中で、ダステニアの騎士たちも合流し、生徒たちの言葉に耳を傾けた。

 取り乱している彼らの言葉を意味のあるものへと訳するのに少し時間はかかったが、要約すると次の通りであった。


 生徒たちは王都近くの森で薬草採集をしていると、突如大型のドラゴンが現れて自分たちを襲って来た。そのドラゴンには若い女性が乗っていて、シャオに「生徒たちを助けたいならついてきなさい」と要求してきた。
 これに対し、シャオはふたつ返事でOKを出した。
 
「すぐに警戒網を敷け! シャオ様を救い出すのだ!」

 話しを聞いていたダステニアの竜騎士団長――ヤン・フィッセルが号令を出すと、周りの騎士たちは大慌てで出撃の準備に取り掛かる。

「ジェイク殿。私はこの件を国王に報告してくる」
「我らハルヴァの騎士も助力致します」
「ありがとう。感謝する」

 ヤン騎士団長は数名の騎士を引き連れてダステニア城へと向かった。一方、ジェイクはバカ騒ぎを続行している食堂の面々に事態の顛末を説明する。

 その説明を聞く者の中には、颯太やキャロルたちも含まれていた。

「まさか誘拐されていたなんて……」
「どうやらまたしても休暇は返上になりそうですね」
「だな」

 残念にしつつも、心のどこかで「そうなるかもしれない」という予感のあった颯太にはそれほどショックはなかった。
 むしろ、シャオ・ラフマンの安否が気遣われた。

「ソータ」

 騎士たちに話し終え、捜索のための準備を整えるよう指示を飛ばしたジェイクが、颯太のもとを訪れた。

「ジェイクさん、何か?」
「少し気になることがあるんだ。君の意見を聞きたい」
「気になる点? なんですか?」
「シャオ・ラフマンが誘拐される現場に居合わせた生徒たちの証言から、犯人の似顔絵を作成したのだが……こいつに見覚えがないか?」

 ジェイクが差し出したのは、ダステニアの騎士が描いた犯人と思われる女性の似顔絵であった。その絵を見た颯太は、すぐに思い当たる人物が浮かぶ。

「これ……フォレルガの――」
「フライア・ベルナールそっくりだろ?」

 颯太が思い浮かべた人物もまさにそうだった。

「どうして彼女が?」
「まだあの女と断定されたわけではないけどな。……大方、環境保護団体などと言っておきながら、その裏では何かよからぬ工作をしていたということだろう」
「一体なんのために?」
「さあな。捕まえればすべて解決する」

 ハルヴァとダステニアの関係性を考慮すれば、ここで力を貸さないわけにはいかない。

「一応、国防局にもこの事態を知らせなければいかんな……何人かハルヴァへ戻すか。ソータたちはこの宿で待機をしていてくれ」
「わかりました」
「今回は竜人族絡みじゃないが……フライア・ベルナールが関与しているとなると――」
「いつでも戦場へ出ますよ、俺は」
「……すまないな」

 ジェイクとしても、颯太を戦場へ出すというのは極力避けたい事態だ。
 それでも、もしかしたらどこかで颯太の持つ竜の言霊の能力が必要になるかもしれない。これまでも、颯太はその能力で事件を解決に導いて来たのだから。

「おまえの力が必要になった時は……俺たちが命を賭けてでもおまえを守るからな」
「頼りにしていますよ」

 颯太も、ジェイクを信頼している。
 だから、命を預けられた。

 しばらくすると、飲酒していない騎士を中心とした部隊がシャオ・ラフマンの救出部隊に合流するため宿をあとにした。酒を飲んでいた騎士たちも休息を取り、アルコールが抜け次第合流する運びになっている。
 
 颯太たち一般人は宿での待機を命じられたが、

「黙って待っているのは辛いわね」
「ですが、わたくしたちが行ったところでなんの役にも立ちませんわ」
「わかっているけど……」

 ブリギッテとアンジェリカは己の無力さに悔しがっていた。
 キャロルも、ロビーの椅子に腰を下ろして俯いたままだ。

「みんな、とにかく今日はもう休もう。明日の朝になればまだ新しい情報が来ているかもしれないから」

 颯太は女性陣にそう声をかけた。
 いつまでも気を張っていても滅入るだけだ。それならば、本当に自分たちの力が必要になった時に、100%の状態で挑めるよう、今のうちにコンディションを整えておくことが重要だと判断した。

 3人は颯太の提案に賛成し、それぞれ自室へと戻って行く。

「…………」

 颯太もその後を追うが、胸の奥から湧き上がってくる不安を拭い去れないでいた。
 何か、嫌なことが起こるかもしれない。

 この颯太の不安は――現実のものとなるのだった。


 ◇◇◇


 夜明けが迫る頃。

「ここは……」

 シャオ・ラフマンがフライアに連れてこられた場所は元中央領オロム――廃界の一角にある廃村であった。
 激しい戦闘があったのか、その廃村にある家屋は瓦礫の山と化していた。

「ここであの人を待ちます」
「あの人?」
「ええ。――それと、あなたたち」

 フライアは夜の闇に声を飛ばす。
 それに呼応するように、大きく羽ばたく4つの影があった。

「指示通り、予定の場所で――派手に暴れて来なさい」

 フライアの言葉を受け取った4つの影はそれぞれ別の方角へと飛んで行った。

「……一体何をするつもりなのですか?」
「それはもうちょっと先のお楽しみにですね」

 不敵に笑うフライアを横目で見ながら、シャオはこれから起こる出来事を想像して震えあがるのだった。
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