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【最終章①】廃界突入編
第183話 【幕間】待ち構える者たち
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廃界中心部――かつて、栄華を極めた魔法国家オロムの王都。
そこにあるオロム城には、今回の首謀者とその仲間が集っていた。
そのひとりであるフライア・ベルナールは静かに戦況を見守っている。
「奏竜と磁竜が相次いで敗北……スタートとしては最悪ね」
口ではそう言いつつ、半ばこの状況は想定内の出来事であったため、狼狽えるような様子はなかった。
討伐部隊とぶつかり合った際、敵のエース格である鎧竜と樹竜がまず出張って来るだろうというのは予想していた。そうなった時――きっと奏竜と磁竜は勝てないだろうというのも織り込み済みだ。
そこまで冷静に見られるのも、まだ後ろには前の2匹以上に戦闘特化能力を有した焔竜と雷竜が控えているからだった。
――それと、到着が遅れていたもう1匹も間に合った。
「まあ、でも……せめて相打ちくらいにはなってほしかったわね」
苦笑いを浮かべて、その場を立ち去ったフライア。――その部屋には他に2匹の竜人族がソファに並んで座っていた。
ニクスオードとエルメルガだった。
「ローリージンとベイランダムがやられるとはのぅ……」
「相手は向こうのエース格なんだろう? だったら仕方ないんじゃないかな」
「お主は随分と冷めておるな。状況はこちらが不利なのじゃぞ?」
「僕があの子たち2匹分の働きをすればいいだけの話さ。それに、あの2匹がやられるかもっていうのは、さっきまでそこにいたフライアの想定通りじゃないか」
「それはそうじゃが……」
「たぶん、僕らがまだ顔を合わせていない新入りに期待しているんだろう。まあ、そいつがどれだけやるヤツでも、僕らが働けばそれで事足りる」
焔竜ニクスオードはソファから立ち上がり、歩き出す。
前方の壁には大きな穴が開いており、そこから城の中につながっている。
石造りの頑丈な壁に、どのような力が加わればこのような大穴が開くのか――皆目見当もつかないが、恐らく魔族の仕業だろう。
魔法国家オロム滅亡の要因。
そんな魔族の脅威は今もなお続いている。
今回の事件の首謀者も、狙いは魔族絡みであるらしい。
もっとも、竜王選戦に全精力を注ぐエルメルガには関係のないことだが。
「う~ん……」
ポッカリと開いたその穴から外へ出たニクスオードは大きく伸びをする。
「間もなく向こうの先頭集団が王都に入ってくる。……果たして、ここにたどり着くまでにどれだけ生き残っているかな」
バサッと翼を広げたニクスオードは空高く舞い上がる。
どうやら、王都へ接近してきた討伐部隊を迎え撃つ気のようだ。
「……やれやれ、ベイランダムのことをあれだけ言うくせに、自分も随分なせっかち者ではないか」
呆れたように言って、エルメルガが立ちあがると、そこに、
「うん? お主は……」
部屋に1匹の竜人族が入って来た。
「ナインレウス――だったか」
「…………」
常にランスローと行動を共にしていたナインレウスが、1匹でエルメルガたちのもとへとやって来た。フライアとは以前から面識があったが、ランスローたちとは数日前にこのオロム城で初めて顔を合わせた。
その時から、ナインレウスはランスローにべったりで、片時も離れようともしない。まるで親子のようにさえ感じるほどであった。
それが今、ランスローのもとを離れて目の前にいる。
エルメルガは最初こそ面食らったものの、すぐにいつもの調子を取り戻して、
「お主がひとりで歩き回るとは珍しいな」
「…………」
相変わらず口を開かないナインレウス。
意思を持ち合わせているのかさえ疑問に思えるほど表情がなく、動きのひとつひとつに生気を感じさせない。
そんなナインレウスはゆっくりとエルメルガとの距離を詰めていく。
エルメルガはふと思い出す――ナインレウスの能力を。
奪竜。
相手の血肉を食らうことで、その能力を奪うことができる。奪われた相手は意識を失い、ナインレウスが能力を戻さない限り眠り続けるのだという。
「妾の能力を奪うつもりか?」
挑発するように言う。
それに対するナインレウスの反応はまったく予想外のものだった。
――驚いている。
エルメルガはそう受け取った。
目を見開き、そんなつもりじゃないと訴えかけているような気さえする。
「な、なんじゃ、どうかしたのか?」
てっきり不快感を示す態度を取るかと思ったのに、まるでさっきの発言に傷ついているような反応。エルメルガも思わず動揺する。
気まずい空気のまま時間が流れ――結局、それ以上ナインレウスはなんのアクションも起こさずその場を立ち去ってしまった。
「まさか……ただ話をしたいだけだったなんて――ことはさすがになさそうじゃな」
内心、エルメルガはホッとしていた。
実は、一度だけナインレウスの能力を目の当たりにしたことがあった。ランスローと共に城の裏庭でこっそりと使っていたが、その能力のバリエーションはひとつやふたつどころではなかった。
複数の能力を持った竜人族。
ハッキリ言って、とてもやりづらい相手だ。
いずれは竜王の座を賭けて戦うことになるのだが、ある意味、メアンガルドや同じく戦闘特化型のニクスオードより遥かに戦いづらい。
「竜王の座は思ったよりもずっと険しそうじゃな」
誰もいなくなった部屋で、エルメルガはそう呟いた。
◇◇◇
オロム王都近辺の森。
「ついにここまで来たか……」
討伐部隊が王都入り目前まで迫っている――その状況を遠巻きに見て、行動を起こそうとする者がいた。
「いよいよ長年の因縁に決着をつける時だ……」
廃界入りをしてから、ずっとランスローたちの追撃をかわし続けていたミラルダ・マーズナーであった。
「急がねば」
疲弊した体に鞭を打って、ミラルダは旧オロム王都へと向かう。
――すべての謎は、廃界中心地であるオロムに集まりつつあった。
そこにあるオロム城には、今回の首謀者とその仲間が集っていた。
そのひとりであるフライア・ベルナールは静かに戦況を見守っている。
「奏竜と磁竜が相次いで敗北……スタートとしては最悪ね」
口ではそう言いつつ、半ばこの状況は想定内の出来事であったため、狼狽えるような様子はなかった。
討伐部隊とぶつかり合った際、敵のエース格である鎧竜と樹竜がまず出張って来るだろうというのは予想していた。そうなった時――きっと奏竜と磁竜は勝てないだろうというのも織り込み済みだ。
そこまで冷静に見られるのも、まだ後ろには前の2匹以上に戦闘特化能力を有した焔竜と雷竜が控えているからだった。
――それと、到着が遅れていたもう1匹も間に合った。
「まあ、でも……せめて相打ちくらいにはなってほしかったわね」
苦笑いを浮かべて、その場を立ち去ったフライア。――その部屋には他に2匹の竜人族がソファに並んで座っていた。
ニクスオードとエルメルガだった。
「ローリージンとベイランダムがやられるとはのぅ……」
「相手は向こうのエース格なんだろう? だったら仕方ないんじゃないかな」
「お主は随分と冷めておるな。状況はこちらが不利なのじゃぞ?」
「僕があの子たち2匹分の働きをすればいいだけの話さ。それに、あの2匹がやられるかもっていうのは、さっきまでそこにいたフライアの想定通りじゃないか」
「それはそうじゃが……」
「たぶん、僕らがまだ顔を合わせていない新入りに期待しているんだろう。まあ、そいつがどれだけやるヤツでも、僕らが働けばそれで事足りる」
焔竜ニクスオードはソファから立ち上がり、歩き出す。
前方の壁には大きな穴が開いており、そこから城の中につながっている。
石造りの頑丈な壁に、どのような力が加わればこのような大穴が開くのか――皆目見当もつかないが、恐らく魔族の仕業だろう。
魔法国家オロム滅亡の要因。
そんな魔族の脅威は今もなお続いている。
今回の事件の首謀者も、狙いは魔族絡みであるらしい。
もっとも、竜王選戦に全精力を注ぐエルメルガには関係のないことだが。
「う~ん……」
ポッカリと開いたその穴から外へ出たニクスオードは大きく伸びをする。
「間もなく向こうの先頭集団が王都に入ってくる。……果たして、ここにたどり着くまでにどれだけ生き残っているかな」
バサッと翼を広げたニクスオードは空高く舞い上がる。
どうやら、王都へ接近してきた討伐部隊を迎え撃つ気のようだ。
「……やれやれ、ベイランダムのことをあれだけ言うくせに、自分も随分なせっかち者ではないか」
呆れたように言って、エルメルガが立ちあがると、そこに、
「うん? お主は……」
部屋に1匹の竜人族が入って来た。
「ナインレウス――だったか」
「…………」
常にランスローと行動を共にしていたナインレウスが、1匹でエルメルガたちのもとへとやって来た。フライアとは以前から面識があったが、ランスローたちとは数日前にこのオロム城で初めて顔を合わせた。
その時から、ナインレウスはランスローにべったりで、片時も離れようともしない。まるで親子のようにさえ感じるほどであった。
それが今、ランスローのもとを離れて目の前にいる。
エルメルガは最初こそ面食らったものの、すぐにいつもの調子を取り戻して、
「お主がひとりで歩き回るとは珍しいな」
「…………」
相変わらず口を開かないナインレウス。
意思を持ち合わせているのかさえ疑問に思えるほど表情がなく、動きのひとつひとつに生気を感じさせない。
そんなナインレウスはゆっくりとエルメルガとの距離を詰めていく。
エルメルガはふと思い出す――ナインレウスの能力を。
奪竜。
相手の血肉を食らうことで、その能力を奪うことができる。奪われた相手は意識を失い、ナインレウスが能力を戻さない限り眠り続けるのだという。
「妾の能力を奪うつもりか?」
挑発するように言う。
それに対するナインレウスの反応はまったく予想外のものだった。
――驚いている。
エルメルガはそう受け取った。
目を見開き、そんなつもりじゃないと訴えかけているような気さえする。
「な、なんじゃ、どうかしたのか?」
てっきり不快感を示す態度を取るかと思ったのに、まるでさっきの発言に傷ついているような反応。エルメルガも思わず動揺する。
気まずい空気のまま時間が流れ――結局、それ以上ナインレウスはなんのアクションも起こさずその場を立ち去ってしまった。
「まさか……ただ話をしたいだけだったなんて――ことはさすがになさそうじゃな」
内心、エルメルガはホッとしていた。
実は、一度だけナインレウスの能力を目の当たりにしたことがあった。ランスローと共に城の裏庭でこっそりと使っていたが、その能力のバリエーションはひとつやふたつどころではなかった。
複数の能力を持った竜人族。
ハッキリ言って、とてもやりづらい相手だ。
いずれは竜王の座を賭けて戦うことになるのだが、ある意味、メアンガルドや同じく戦闘特化型のニクスオードより遥かに戦いづらい。
「竜王の座は思ったよりもずっと険しそうじゃな」
誰もいなくなった部屋で、エルメルガはそう呟いた。
◇◇◇
オロム王都近辺の森。
「ついにここまで来たか……」
討伐部隊が王都入り目前まで迫っている――その状況を遠巻きに見て、行動を起こそうとする者がいた。
「いよいよ長年の因縁に決着をつける時だ……」
廃界入りをしてから、ずっとランスローたちの追撃をかわし続けていたミラルダ・マーズナーであった。
「急がねば」
疲弊した体に鞭を打って、ミラルダは旧オロム王都へと向かう。
――すべての謎は、廃界中心地であるオロムに集まりつつあった。
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