おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
164 / 246
【最終章①】廃界突入編

第184話  オロム王都

しおりを挟む
「うおおお!」

 雄々しい雄叫びがこだまする。

 廃界の中心部に近づくにつれ、魔族の数は徐々に増えていった。
 ペルゼミネの中心とする先頭集団は魔族との戦闘に慣れているため、臆することなくこれらを撃破。その気迫に背中を押されたかの如く、後続のハルヴァ、ダステニア、ガドウィンの騎士たちも魔族を打ち倒していった。

「みんな、周りにつられるようにどんどん魔族を倒していってるな」
「相乗効果ってヤツかしらね」

 颯太たち非戦闘要員たちを乗せた馬車も、騎士たちの堅い守りもあって危なげなく戦いを見守れた。
 騎士だけでなく、陸戦型ドラゴンと空戦型ドラゴンの連携も見事なもので、負傷者のカバーを行いながら、確実に前進できるよう道を切り開いていく。
 そんな勇ましい姿もまた、非戦闘要員たちを安堵させていた。

 魔族以外にも、奏竜ローリージンと磁竜ベイランダムの襲撃を受けつつ、ペルゼミネ竜騎士団のエースである鎧竜フェイゼルタットとハルヴァ竜騎士団のエースであるキルカジルカの活躍によって見事これを退けた。

 討伐部隊は廃界の中心部に迫りながらも、ここまで脱落者なしという嬉しい方面に誤算が出ていた。

 それでも、騎士たちは気の緩みなど一切見せない。
 キッと表情を引き締め、進軍していく。

 そして、とうとう目的地へたどり着いた。

「ここがオロム王都……」

 魔族精製の謎が隠されたオロム王都。
 この世界に生きるすべての者たちにとっての災厄が生まれた場所。

 そこに、集結した世界中の「力」が、その災厄に挑む。
 
「よし! 我に続けぇ!」

 先頭を行くペルゼミネのルコード騎士団長の言葉に、騎士たちは地鳴りのような声をあげて一斉に王都へとなだれ込んでいった。

 それからしばらくして、颯太たちの乗る馬車もオロム王都へと侵入したのだが、

「なんだ……ここは」

 その異様さに、窓から外の様子をうかがっていた颯太は息を呑んだ。

 たしか、この王都から人が消え去ったのはもう何十年以上も前のこと。それだけにとどまらず、ここはあちこちに魔族がうようよいて廃界とまで呼ばれているような場所。当然、そんなのが蠢いているオロム王都はてっきり廃墟も同然の荒れようと思っていた。

 しかし、そこに広がるのは颯太の想像からかけ離れた光景だった。

 荒廃なんてしていない。
 道路や建物や花壇――すべてに手入れが行き届いている。
 まるで、ほんの数日前まで人が生活していたような感じさえするのだ。

 普通の王都であるなら問題ない光景も、ここが廃界オロム王都であることを考慮すると異様という以外に表現のしようがなかった。

 まるで、誰かが丹念に手入れをしているような。

「嘘でしょ……なんでこんなに綺麗なの?」

 ブリギッテもまた疑問に感じていたようだ。
 それでも、すでに王都のあちらこちらには魔族の亡骸が転がっていた。一瞬、ここには魔族が入り込んでいないのだろうかと思ったが、例の魔法学研究施設とやらがこの王都内にある以上、魔族の数はむしろ外より多いだろう。
 
 それならばなぜ――この王都は美しさを保っていられるのか。

 浮かび上がる疑問を解決する糸口さえ見つけられないまま、颯太は馬車を下りた。というのも、討伐部隊はこの王都入口付近に拠点を置くことに決めたからだ。

 颯太だけでなく、ブリギッテやアム、マシューにオーバなどの非戦闘要員たちもこの場にとどまることとなった。
 ただ、颯太に関しては相手の竜人族次第で前線に赴くこととなるだろうが。

 外へ出て、改めてオロムの王都を見渡すと、やはりその行き届いた整備に強い違和感を覚える。外観の美しさだけならばハルヴァにも匹敵するほどだ。
 それと、

「ここは……かなり大きいな」

 さらに驚いたのはその規模だ。
 ハルヴァ城を中心として広がるハルヴァ王都――それ以外の国の王都もかなりの大きさであったが、ここは桁違いに広い。さすがはかつて栄華を極めた魔法国家というべきか。

「ここへ来れば、少しは魔族誕生の謎に近づけるかもと思ったけど……こんな光景を見せられたら、余計に謎が深まってしまうわね」
「同感だな」

 アムとオーバも動揺を隠せないでいた。

 すでに先頭でこの王都へ入り込んだ部隊はもう例の施設の近くまで近づいているだろう。そこさえ機能を停止させれば、もう魔族の脅威に怯えなくて済む。

 問題は敵の竜人族。

 奏竜と磁竜――それと、メアを倒した雷竜。さらに、レイノア王都を襲撃した竜人族もまだ姿を見せていない。
 もしかしたら、それ以外の竜人族もいるかもしれない。

 そんなことを考えていたら、

「! あ、あれは……」

 王都の最奥部――最初は王都の異様さに目を奪われていたが、冷静になってもう一度辺りを見回してみると、ある巨大な建造物が視界に飛び込んできた。

「デカい……城なのか?」
「そうよ。あれが、かつて世界の頂点に君臨していた――オロム城よ」
 
 ブリギッテが教えてくれた。
 薄暗い空の下にたたずむ巨大な城。
 要塞と呼ぶに相応しいその城は、とぐろを巻いた蛇のように入り組む城壁によりあらゆる侵入者を阻み、重厚な城門によって敵の進行を妨げている。遠目から眺めているだけでも、その城が難攻不落であることが窺えた。

「4大国家の城も大きいし迫力があるけど、このオロムの城は別格だな」
「本当ね。……今はもう誰も住んでいないはずなのに」
「いや、誰かが住んでいるのかもしれないよ」

 オーバの言葉に、颯太はハッとなる。

 ランスロー王子とミラルダ・マーズナー。

 まだ、この両者の行方が定かになっていない。

「いるのか……この王都内に……」

 そこへ、

「みなさん!」

 息を切らしながらやってきたのはテオだった。

「どうかしたのか、テオ」
「ついに先遣隊が見つけたんですよ――魔法学研究所施設を!」
「そうか……いよいよか」
「で、ですが、そこに敵の竜人族が現れたんです! その能力から、恐らくレイノアを襲撃した竜人族だと思われます!」
「!」

 颯太はテオの言葉を耳にするとすぐに現場へ向けて走り出した。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。