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【最終章①】廃界突入編
第185話 焔竜降臨
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「ここだ! ここが旧魔法学研究施設だ!」
ルコードを中心とする先遣隊は、ついに魔族精製の根源とされる魔法学研究施設へとたどり着いた。
王都の中心部から少し離れた位置にあるそこは、不気味なオーラに包まれていた。百戦錬磨の騎士たちでさえも一歩踏み出すことを躊躇うほどの異様さだ。
「臆するな! 世界中の人々が我らの成果を期待して待っているのだ! ここを突破し、魔族たちの発生源を断つことで真の幸せが訪れる! そのことを努々忘れるな!」
心に芽生えた騎士たちの弱気を、ルコードの檄が弾き飛ばした。
剣を握る手に力を込めた騎士たちは、自らを奮い立たせるように雄叫びをあげて魔法学研究施設へと突撃していった――が、次の瞬間、その足は急速に勢いを失う。
ゴオッ!
夜の闇を赤く照らす炎。
どこからともなく現れて、騎士たちの勢いを呑み込む紅蓮の炎はあっという間に討伐部隊の周りを取り囲む。まるで、炎自体に意思があるかのような動きを見せている。
「竜人族か……」
ルコードの額を汗が伝う。
竜人族の中でも、銀竜や雷竜のように自然界の力を操る能力を持つ者は、他の竜人族に比べて戦闘能力が秀でていると言われている。
奏竜や磁竜といった特殊能力を持った竜人族も戦うには厄介だが、それでも、相手が銀竜や雷竜ならば能力のゴリ押しでなんとなるだろう。逆に、そんな能力を有する竜人族と対峙する際には、同等クラスの能力を持つ竜人族でないと太刀打ちできない。
なので、相手が炎の使い手である以上、こちらも同じく自然界の力を持つ竜人族で挑まなければ勝機は限りなくゼロに近い。
「美しい炎だろう? 君たちの魂までも焦がすこの炎に抱かれて死ぬといい」
そのことを知ってか知らずか、焔竜ニクスオードはニヤッと不敵な笑みを浮かべながら炎を走らせる。
「くそっ! あと少しって時に……」
悔しそうに歯を噛みしめるハドリー。
そんなハドリーを背に乗せるイリウスは、ニクスオードの炎をかわしながら反撃の機会をうかがっていた。
ほとんどの竜人族は、各国を襲撃した黒幕が潜むだろうオロム城へ向かって進撃しているため、こちら側には戦力があまり割かれていなかった。それでも、すでに救援を要請は出しているので、間もなく援軍が到着するだろう。
「……?」
ハドリーはイリウスの異変に気がついた。
「イリウス……おまえ」
これまで、何度も魔族との戦いを共に乗り越えてきたパートナーだ。
たとえ種族は違っても、その気持ちは理解できるつもりだ。
颯太のような特別な力があるわけじゃないから、事細かにその感情を把握できるわけではないけど、今のイリウスが何を思っているかは手に取るように理解できた。
悔しがっている。
戦闘経験豊富なドラゴンと言っても、イリウスはあくまでも陸戦型ドラゴン。竜人族であるニクスオードとはスペックに違いがあり過ぎる。現に、今も放たれ続けているニクスオードの攻撃に対し、回避するのが精一杯の状況だった。
それでも、闘志は消えていない。
周りのドラゴンたちは、その圧倒的な力の差を目の当たりにして、戦意が失われつつある中で、イリウスだけはその爪牙を光らせ、チャンスを待っていた。
「…………」
その戦う姿勢に、ハドリーも応えたいと思った。
最初からイリウスでは相手をできないと決めつけていた――いや、それはこの世界における常識だ。普通のドラゴンと竜人族とでは勝負にならない。
――本当にそうだろうか。
「すぐに応援は駆けつけないだろうし……ひとつ仕掛けるか」
「! 賛成だぜ、相棒!」
ハドリーの言葉にイリウスは吠えることで応えた。
周りが逃げ惑う中、ハドリーは炎をまき散らすニクスオードへと突進していく。
「! 下がれ! 危険だぞ! 応援を待つんだ!」
ルコードの忠告を振り切って、ハドリーとイリウスはニクスオードへと立ち向かっていく。
「どうやら死にたがりがいるようだね」
焔竜ニクスオードも、イリウスとハドリーが自分に向かって突進してきていることに気がつく。
「この僕に真っ向から挑むその度胸は買うけど、無謀過ぎだね」
ニクスオードは両手を広げる。
その手には能力によって生み出された炎が燃え盛っていた。
「黒焦げになるといい」
両手に宿る炎をイリウスへ向かって放り投げる。それも紙一重でかわしていくイリウスだったが、敵の攻撃はこれっきりではない。
「やるね。――なら、これはどうかな?」
今度は両手だけでなく両足にも炎が宿った。
一度に4つの炎がイリウスへと迫る。
「まだまだ! どんどんいくよ!」
それだけにとどまらず、次から次へと炎による攻撃を浴びせかけるニクスオード。
「ったくよぉ! ちっとは手加減しろっての!」
抗議するイリウスだが、ニクスオードの攻撃はしっかりと見極めており、直撃を避けつつ距離を詰めていく。エルメルガに手も足も出なかったことも手伝って、いつも以上に戦闘へ集中しているイリウスの動きは、これまでとは比べ物にならないものであり、背に乗るハドリーでさえも初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。
「イリウス、おまえ……わかった! ヤツに一泡吹かせてやろう!」
ハドリーも、その覚悟を受け取った。
焔竜ニクスオードVSイリウス&ハドリー。
その幕は上がった。
ルコードを中心とする先遣隊は、ついに魔族精製の根源とされる魔法学研究施設へとたどり着いた。
王都の中心部から少し離れた位置にあるそこは、不気味なオーラに包まれていた。百戦錬磨の騎士たちでさえも一歩踏み出すことを躊躇うほどの異様さだ。
「臆するな! 世界中の人々が我らの成果を期待して待っているのだ! ここを突破し、魔族たちの発生源を断つことで真の幸せが訪れる! そのことを努々忘れるな!」
心に芽生えた騎士たちの弱気を、ルコードの檄が弾き飛ばした。
剣を握る手に力を込めた騎士たちは、自らを奮い立たせるように雄叫びをあげて魔法学研究施設へと突撃していった――が、次の瞬間、その足は急速に勢いを失う。
ゴオッ!
夜の闇を赤く照らす炎。
どこからともなく現れて、騎士たちの勢いを呑み込む紅蓮の炎はあっという間に討伐部隊の周りを取り囲む。まるで、炎自体に意思があるかのような動きを見せている。
「竜人族か……」
ルコードの額を汗が伝う。
竜人族の中でも、銀竜や雷竜のように自然界の力を操る能力を持つ者は、他の竜人族に比べて戦闘能力が秀でていると言われている。
奏竜や磁竜といった特殊能力を持った竜人族も戦うには厄介だが、それでも、相手が銀竜や雷竜ならば能力のゴリ押しでなんとなるだろう。逆に、そんな能力を有する竜人族と対峙する際には、同等クラスの能力を持つ竜人族でないと太刀打ちできない。
なので、相手が炎の使い手である以上、こちらも同じく自然界の力を持つ竜人族で挑まなければ勝機は限りなくゼロに近い。
「美しい炎だろう? 君たちの魂までも焦がすこの炎に抱かれて死ぬといい」
そのことを知ってか知らずか、焔竜ニクスオードはニヤッと不敵な笑みを浮かべながら炎を走らせる。
「くそっ! あと少しって時に……」
悔しそうに歯を噛みしめるハドリー。
そんなハドリーを背に乗せるイリウスは、ニクスオードの炎をかわしながら反撃の機会をうかがっていた。
ほとんどの竜人族は、各国を襲撃した黒幕が潜むだろうオロム城へ向かって進撃しているため、こちら側には戦力があまり割かれていなかった。それでも、すでに救援を要請は出しているので、間もなく援軍が到着するだろう。
「……?」
ハドリーはイリウスの異変に気がついた。
「イリウス……おまえ」
これまで、何度も魔族との戦いを共に乗り越えてきたパートナーだ。
たとえ種族は違っても、その気持ちは理解できるつもりだ。
颯太のような特別な力があるわけじゃないから、事細かにその感情を把握できるわけではないけど、今のイリウスが何を思っているかは手に取るように理解できた。
悔しがっている。
戦闘経験豊富なドラゴンと言っても、イリウスはあくまでも陸戦型ドラゴン。竜人族であるニクスオードとはスペックに違いがあり過ぎる。現に、今も放たれ続けているニクスオードの攻撃に対し、回避するのが精一杯の状況だった。
それでも、闘志は消えていない。
周りのドラゴンたちは、その圧倒的な力の差を目の当たりにして、戦意が失われつつある中で、イリウスだけはその爪牙を光らせ、チャンスを待っていた。
「…………」
その戦う姿勢に、ハドリーも応えたいと思った。
最初からイリウスでは相手をできないと決めつけていた――いや、それはこの世界における常識だ。普通のドラゴンと竜人族とでは勝負にならない。
――本当にそうだろうか。
「すぐに応援は駆けつけないだろうし……ひとつ仕掛けるか」
「! 賛成だぜ、相棒!」
ハドリーの言葉にイリウスは吠えることで応えた。
周りが逃げ惑う中、ハドリーは炎をまき散らすニクスオードへと突進していく。
「! 下がれ! 危険だぞ! 応援を待つんだ!」
ルコードの忠告を振り切って、ハドリーとイリウスはニクスオードへと立ち向かっていく。
「どうやら死にたがりがいるようだね」
焔竜ニクスオードも、イリウスとハドリーが自分に向かって突進してきていることに気がつく。
「この僕に真っ向から挑むその度胸は買うけど、無謀過ぎだね」
ニクスオードは両手を広げる。
その手には能力によって生み出された炎が燃え盛っていた。
「黒焦げになるといい」
両手に宿る炎をイリウスへ向かって放り投げる。それも紙一重でかわしていくイリウスだったが、敵の攻撃はこれっきりではない。
「やるね。――なら、これはどうかな?」
今度は両手だけでなく両足にも炎が宿った。
一度に4つの炎がイリウスへと迫る。
「まだまだ! どんどんいくよ!」
それだけにとどまらず、次から次へと炎による攻撃を浴びせかけるニクスオード。
「ったくよぉ! ちっとは手加減しろっての!」
抗議するイリウスだが、ニクスオードの攻撃はしっかりと見極めており、直撃を避けつつ距離を詰めていく。エルメルガに手も足も出なかったことも手伝って、いつも以上に戦闘へ集中しているイリウスの動きは、これまでとは比べ物にならないものであり、背に乗るハドリーでさえも初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。
「イリウス、おまえ……わかった! ヤツに一泡吹かせてやろう!」
ハドリーも、その覚悟を受け取った。
焔竜ニクスオードVSイリウス&ハドリー。
その幕は上がった。
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