異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

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第47話  のぞき見る者

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 大騒動のまま、開店初日は幕を閉じた。

 多くの客は高いテンションを保ったまま朝まで飲み明かし、付き合った優志もぐったりと疲れ果ててしまった。
 食堂のテーブルに顔を突っ伏していると、

「お疲れ様でした」

 美弦が回復水をコップに注いで持ってきてくれた。
 ちなみに、美弦は大人たちの大宴会には参加せず就寝したため、優志の状況を目の当たりにしてびっくりした様子だった。
 その後、すぐに回復水を持ってきたわけだが、食堂には同じく宴会に巻き込まれたリウィルもソファで唸りながら横になっていた。
 どちらもひどい二日酔いのようだが、

「うおっ!!」
「んんっ!!」

 回復水の効果であっという間に二日酔い状態から復活。
 とりあえず、宴会の後片付けをして、今日からの正式な開店に備える。

「そういえば、開店時間とか決めていませんでしたね」
「深夜まで営業ってことでいいんじゃないかな。宿屋を改装したとはいえ、風呂やらサウナでだいぶ客室を減らしたから、あまり大勢泊まれるわけじゃないし」

 宿泊客は少なく、どちらかというと風呂やサウナといった施設の利用を主にして営業を展開してくつもりだ。

 それに、まだまだ店内の施設を充実させたいという野望もある。
 
 優志にとってはこの世界で生きていくための術と決めて店づくりを進めてきたが、ダズや町長をはじめとする多くの人々と関わることで、徐々にその心境は変わっていった。

 右も左もわからぬ異世界へ召喚された優志。

 与えられたスキルをきっかけにして広がった輪がこうして実を結び、新た一歩を踏み出せる後押しとなっている。

 そんなフォーブの人たちへの恩返しをしたいという気持ちも込めて、優志はこれからも店舗を発展させていくと心の中で誓った。

「とりあえず、片づけをしてから開店をしましょうか」

 合図をするようにポンと手を叩いたリウィルがそう提案する。
 昨夜はイレギュラー的に開店したので、準備もままならぬ翌日を迎えてしまった詰めの甘さを反省しつつ、優志はその提案に乗っかることにした。もちろん、美弦もそれに続き、3人は店内の清掃を開始。

 その間、店の看板には「準備中」の札を貼りつけておいた。


 ――数時間後。


「こんなとこかな」
「午後からの開店には間に合いそうですね」

 新たにエミリーが加わったダズのパーティーは今日1日ダンジョンへ潜って魔鉱石の採取に勤しむということなので、恐らく来店はないだろう。
 そうなると、新規顧客の開拓をしなければならないし、昨日来た客が再び訪れる――いわゆるリピーター層の獲得にも乗り出さなければならない。

 開店から数日間の間はブーストがかかって客入りがいいというのはよく聞く話だ。
 問題はそこから。
 

 1ヶ月。
 2ヶ月。
 半年。
 1年。
 5年。
 10年。


 ――このスキルを活かした店として、長らく繁盛をキープし続けるには、相応の営業努力というものが欠かせなくなる。

「ポイントカード制を導入した方がよさそうかな……」
 
 新たなビジネスプランを練っている時――優志の視界の端に何かが映り込んだ。

「うん?」
「どうかしましたか?」
「いや……窓の外に誰かいたような気がして」
「! お、脅かさないでくださいよ!」

 リウィルは優志がおどかしにかかっていると思ったようだが、優志からするとそんな気持ちは毛頭なく、本当に誰かが窓の外からこちらをのぞき込んでいたように見えたのだ。
 優志はゆっくりと玄関を開けて外の様子をうかがう。

 街外れにあるダンジョンへと続く一本道。
 そこには人影など確認できない。

「気のせいだったか……」

 なんとなく腑に落ちない優志だったが、

「お? 大将、もうやってるのかい?」

 ダンジョン帰りと思われる男女合わせて5人のパーティーが優志に声をかける。

「あ、ああ、もうすぐ開店するところですよ」
「ちょうどよかった。ここの評判はもうだいぶ広まっていてね。それを耳にした俺たちもここを利用しようと思ってダンジョンから戻って来たんだ」
「今日はもうあがりってことですか?」
「これ以上の収穫は見込めそうになかったからな。――で、開店まではあとどれくらいかかりそうだ?」
「ちょっと待っていてください。確認してきます」

 すぐさま店内へと戻り、リウィルと美弦に営業を始められるかたずねる。まだ諸々準備の整っていない部分もあるが、風呂とサウナであればすぐに対応できるという判断から、このパーティー一行を客として店内へと迎え入れる。

「早速風呂へ入りたいのだが」
「でしたらこちらです」

 優志はパーティー一行を風呂場へと案内する。
 そこで、入浴までのマナーを簡単に説明。
 泥だらけの体で湯船にダイブされるわけにもいかないので、懇切丁寧に伝える。

「なるほどな」

 パーティーの面々は理解をしてくれたようで、早速男女に別れて風呂へと入って行った。


 ――それからはまたも怒涛の展開だった。


 優志の店の風呂とサウナとコーヒー牛乳を求めて客が殺到。
 コーヒー牛乳に関しては、あとから来店した町長が明日から正式に配達を開始するという連絡をくれたので、今日のところはある分だけの販売となる――そう客へ伝えると、我先にコーヒー牛乳を買い求め、あっという間に完売となった。

「こりゃあ相当な数を準備してもすぐに売り切れそうだ」

 売れるという自信はあったが、まさかここまでの大人気商品となるとは。さすがの優志も想定外の出来事であった。

「ガラス職人に頼んでまた瓶を作ってもらわないと――うん?」

 今後の計画を練る優志は、再び窓の外から感じる視線のようなものに反応して勢いよく振り返った。

 優志の咄嗟の動きに対処しきれなかったその視線の送り主は、正体を知られたくないのか顔を手で覆うと慌ててその場から離れていく。

「! 待て!」

 優志は慌てて店外へと飛び出す。
 窓の外から店内をのぞき込んでいた男は、まだそれほど離れた位置にはいない。

「美弦ちゃん!」
「な、なんですか!?」
「アルベロスにあいつを捕らえるよう指示を!」
「! わかりました!」

 優志の様子から只事でないと察した美弦は、三つ目の魔犬アルベロスを逃げて行った男の方へと差し向けた。足の速い魔犬ならば、優志よりも確実に相手を追い込める。

 狙いは的中し、のぞき魔の男は自分へ吠えながら先へ行かせないとばかりに妨害をするアルベロスの対処に困っていた。

「もう逃げられないぞ!」

 ゆっくりと男へ近づく優志。
 その人物は、

「! ガレッタさん!?」

 元リウィルの上司である神官長ガレッタだった。
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