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第115話 冒険者アドンの悩み
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「回復屋の旦那……本当に彼女のことを知っているんですかい?」
ゆらりと力感ない動きで優志に迫るアドン。
ただ事ではない様子に、ダズとエミリーが優志を守るように脇を固めた。今のアドンはまともな状態でないのは一目瞭然。
もしかしたら、という予感が辺りに充満する中、アドンが取った行動は、
「頼む! 彼女のことを紹介してくれ!」
超高速土下座だった。
「しょ、紹介って……」
予想を裏切るアドンの行為に面を食らったが、優志はすぐにアドンへ駆け寄って、
「か、顔を上げてくれよ」
肩をそっと叩き、とりあえず詳しい説明を求めた。
「俺が彼女と初めて出会ったのは、ダンジョンへ潜るのに必要なアイテムを買いそろえるためにフォーブの街を訪れた時だった」
昼間の大暴走が嘘のように静かな口調で語り出したアドン。
「先ほどから言われている通り、俺は彼女に一目惚れをした。しかし、これまでこのような感情を抱いた経験のない俺は、彼女にどうやって接したらいいのかわからず……彼女を怒らせてしまったのだ」
「な、なるほど」
優志はなんだか他人事のように思えなかった。
自分自身のこれまでの人生を振り返ってみると、とてもじゃないがアドンのことを悪くは言えなかったのだ。
今でこそ、リウィルや美弦、エミリーといった女性たちと自然に会話ができている優志であるが、こちらの世界へ来る前はアドンと同じようにどうやって接したらいいかよくわからなかった。
それゆえに、
「わかるよ、アドン。俺には君の苦悩がよくわかる」
「旦那……」
優しく声をかける。
表情も慈愛に満ちていた。
「しかし、怒らせたって言ったが、おまえ一体何をやったんだ?」
親近感を覚えて友情が芽生えている優志とアドンの後ろから、ダズが核心をつく一言を放った。
「そ、それは……」
アドンは言いにくそうにしていたが、相手を怒らせた原因を知らなければこれからのフォローのしようがないと説得し、話を聞くことに。
ただ、その前に、
「なあ、アドン。話をする前にその女性について教えてもらいたいんだ。外見の特徴とか」
「外見、か……ショートカットの黒髪にちょっと目つきが鋭い感じかな。年齢はこの店で働いているミツルと同じくらいか」
「美弦ちゃんと同じくらいの年齢?」
その特徴から、優志がもしやと思っていた一目惚れした女性=グレイス説はその可能性がゼロになった。
「どうやら僕の想像していた女性じゃなかったみたいですね」
「そ、そうだったか」
優志を経由して親しくなろうとしたアドンの目論見はもろくも崩れ去った形となった。
気を取り直して、アドンとその女性を振り返ろう。
「まず、なんて声をかけたんだ?」
「と、とりあえず、普通に挨拶をして、よければ食事にでもと誘ったのだが」
「え? それだけなのか?」
「あ、ああ」
話を聞いた優志とダズは顔を見合わせた。
いきなり過ぎるとは思うが、だからと言って怒るほどでもないというのが二人の率直な感想だった。
「本当にそれだけか?」
「そうだ」
「じゃあ、それに対してその女性はなんて答えたんだ?」
「それは……」
アドンは遠くを見つめていた。
そして、重々しく口を開く。
「彼女はただ一言――こう告げたんだ」
「な、なんて言ったんだ?」
「『臭っ!』――と」
「……へ?」
それはつまり、
「臭いってことか?」
「そうとしか考えられないだろ……」
アドンは頭を抱えて再びイスへと崩れ落ちた。
しかし、その「臭い」という指摘はあながち的外れなものではない。冒険者という仕事は体を動かすもの。一度ダンジョンへ潜り、命懸けの死闘を繰り広げて魔鉱石を持ち帰ったら、全身は汗まみれになる。それは優志も経験済みだった。
「その汗臭さは俺たち冒険者にとって勲章に等しいモンだぞ?」
「そうだな。それに、私はみんなを臭いと思ったことはない」
ダズとエミリーはそう反論する。
だが、
「彼女はきっと高貴な育ちなんだ。雰囲気でわかる。俺とは育ってきた環境がまるで違うんだって。……やはりこれは叶わぬ恋なのかもしれねぇな」
彼女との出来事を思い出してしまったせいか、すっかりしぼんでしまったアドン。
「体臭……か」
この店の常連であるアドンはよく風呂を利用する。
なので、けして不潔というわけではない。
だとすれば、
「ボディソープやシャンプーみたいなものがあればなぁ」
真っ先に思い浮かんだのはそれだった。
「なんだそりゃ?」
聞き慣れぬ単語に、ダズがすぐさま聞き返す。
「体臭を消してくる効果があるものだ。それがあれば、普通に風呂へ入るよりも臭いを消せるはず」
だが、さすがのユージもボディソープやシャンプーなどを手作りすることはできない。そこへ、
「手作り石鹸だったら前にお母さんと一度作ったことがありますよ」
美弦がそう語るが、
「いや、手作り石鹸と言っても、恐らく苛性ソーダやグリセリンソープなんかが必要になってくるし……どのみちこの世界では用意できそうにないな」
「じゃあ、何か代わりになるものを見つけないといけませんね」
「代用品か……魔鉱石でなんとかならないかな」
冗談半分に言った優志だが、
「……あるぞ」
そう言ったのはダズだった。
「臭いをかき消すことは無理だが、臭いを上書きできそうな魔鉱石なら知っている」
「おお――あの魔鉱石だな!」
アドンも心当たりがあるようだ。
異世界石鹸完成の鍵を握るその魔鉱石とは――
ゆらりと力感ない動きで優志に迫るアドン。
ただ事ではない様子に、ダズとエミリーが優志を守るように脇を固めた。今のアドンはまともな状態でないのは一目瞭然。
もしかしたら、という予感が辺りに充満する中、アドンが取った行動は、
「頼む! 彼女のことを紹介してくれ!」
超高速土下座だった。
「しょ、紹介って……」
予想を裏切るアドンの行為に面を食らったが、優志はすぐにアドンへ駆け寄って、
「か、顔を上げてくれよ」
肩をそっと叩き、とりあえず詳しい説明を求めた。
「俺が彼女と初めて出会ったのは、ダンジョンへ潜るのに必要なアイテムを買いそろえるためにフォーブの街を訪れた時だった」
昼間の大暴走が嘘のように静かな口調で語り出したアドン。
「先ほどから言われている通り、俺は彼女に一目惚れをした。しかし、これまでこのような感情を抱いた経験のない俺は、彼女にどうやって接したらいいのかわからず……彼女を怒らせてしまったのだ」
「な、なるほど」
優志はなんだか他人事のように思えなかった。
自分自身のこれまでの人生を振り返ってみると、とてもじゃないがアドンのことを悪くは言えなかったのだ。
今でこそ、リウィルや美弦、エミリーといった女性たちと自然に会話ができている優志であるが、こちらの世界へ来る前はアドンと同じようにどうやって接したらいいかよくわからなかった。
それゆえに、
「わかるよ、アドン。俺には君の苦悩がよくわかる」
「旦那……」
優しく声をかける。
表情も慈愛に満ちていた。
「しかし、怒らせたって言ったが、おまえ一体何をやったんだ?」
親近感を覚えて友情が芽生えている優志とアドンの後ろから、ダズが核心をつく一言を放った。
「そ、それは……」
アドンは言いにくそうにしていたが、相手を怒らせた原因を知らなければこれからのフォローのしようがないと説得し、話を聞くことに。
ただ、その前に、
「なあ、アドン。話をする前にその女性について教えてもらいたいんだ。外見の特徴とか」
「外見、か……ショートカットの黒髪にちょっと目つきが鋭い感じかな。年齢はこの店で働いているミツルと同じくらいか」
「美弦ちゃんと同じくらいの年齢?」
その特徴から、優志がもしやと思っていた一目惚れした女性=グレイス説はその可能性がゼロになった。
「どうやら僕の想像していた女性じゃなかったみたいですね」
「そ、そうだったか」
優志を経由して親しくなろうとしたアドンの目論見はもろくも崩れ去った形となった。
気を取り直して、アドンとその女性を振り返ろう。
「まず、なんて声をかけたんだ?」
「と、とりあえず、普通に挨拶をして、よければ食事にでもと誘ったのだが」
「え? それだけなのか?」
「あ、ああ」
話を聞いた優志とダズは顔を見合わせた。
いきなり過ぎるとは思うが、だからと言って怒るほどでもないというのが二人の率直な感想だった。
「本当にそれだけか?」
「そうだ」
「じゃあ、それに対してその女性はなんて答えたんだ?」
「それは……」
アドンは遠くを見つめていた。
そして、重々しく口を開く。
「彼女はただ一言――こう告げたんだ」
「な、なんて言ったんだ?」
「『臭っ!』――と」
「……へ?」
それはつまり、
「臭いってことか?」
「そうとしか考えられないだろ……」
アドンは頭を抱えて再びイスへと崩れ落ちた。
しかし、その「臭い」という指摘はあながち的外れなものではない。冒険者という仕事は体を動かすもの。一度ダンジョンへ潜り、命懸けの死闘を繰り広げて魔鉱石を持ち帰ったら、全身は汗まみれになる。それは優志も経験済みだった。
「その汗臭さは俺たち冒険者にとって勲章に等しいモンだぞ?」
「そうだな。それに、私はみんなを臭いと思ったことはない」
ダズとエミリーはそう反論する。
だが、
「彼女はきっと高貴な育ちなんだ。雰囲気でわかる。俺とは育ってきた環境がまるで違うんだって。……やはりこれは叶わぬ恋なのかもしれねぇな」
彼女との出来事を思い出してしまったせいか、すっかりしぼんでしまったアドン。
「体臭……か」
この店の常連であるアドンはよく風呂を利用する。
なので、けして不潔というわけではない。
だとすれば、
「ボディソープやシャンプーみたいなものがあればなぁ」
真っ先に思い浮かんだのはそれだった。
「なんだそりゃ?」
聞き慣れぬ単語に、ダズがすぐさま聞き返す。
「体臭を消してくる効果があるものだ。それがあれば、普通に風呂へ入るよりも臭いを消せるはず」
だが、さすがのユージもボディソープやシャンプーなどを手作りすることはできない。そこへ、
「手作り石鹸だったら前にお母さんと一度作ったことがありますよ」
美弦がそう語るが、
「いや、手作り石鹸と言っても、恐らく苛性ソーダやグリセリンソープなんかが必要になってくるし……どのみちこの世界では用意できそうにないな」
「じゃあ、何か代わりになるものを見つけないといけませんね」
「代用品か……魔鉱石でなんとかならないかな」
冗談半分に言った優志だが、
「……あるぞ」
そう言ったのはダズだった。
「臭いをかき消すことは無理だが、臭いを上書きできそうな魔鉱石なら知っている」
「おお――あの魔鉱石だな!」
アドンも心当たりがあるようだ。
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