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第116話 買い取り屋でのひと時
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「あるのか、そんな魔鉱石が」
「ああ。ただ……」
優志がその魔鉱石について詳細を知ろうと声をかけるが、急にふたりのトーンがダウンしてしまった。
「ど、どうしたんだ? もしかして、物凄く高価とか?」
「いや、その逆だ」
「逆?」
「まったくの役立たず品ってことで廃棄処分される代物だよ」
「廃棄処分?」
つまり、この世界の人間にとって、その魔鉱石は使い道がない役立たず品だという認識になっているらしい。
「その魔鉱石はバブルという名前で、強く擦ったりすると香りのついた泡が染み出てくるって特徴がある」
「香りのついた泡……」
「それもいい香りだ。だから、稀に女性が買っていったりすることもあるんだが、たったそれだけの効果ではまったく値打ちがつかないんだよ」
アドンは両手を天井に向けて伸ばす――まさにお手上げ状態ってことらしい。
「その魔鉱石をうまく加工できれば……うん?」
魔鉱石――つまり石。
そこから染み出るいい匂いの香り。
「……なあ、ダズ。その石って重量はどれくらいだ?」
「重さか? まあ……そこら辺に転がっている石よりはだいぶ軽いぞ」
「軽い石、ね」
ニヤリ、優志は笑みを浮かべる。
「優志さん、その石って」
どうやら美弦も狙いに気づいたようだ。
「ああ。――そいつは軽石として使える。おまけにいい香りのついた泡が染み出るってことはそのままボディソープの役割を果たせそうだ」
これまではかけ湯をするくらいしか体を洗う手段がなかったわけだが、その廃棄処分される魔鉱石の効果次第ではアドンの悩みは一気に解決する。
「よし。そうと決まれば早速そのバブルの魔鉱石を仕入れるか」
「そ、そのバブルの魔鉱石があれば、俺の悩みは解決するのか?」
「断言はできないけど、試してみる価値はあるさ」
それでも、希望が出てきたことに対してアドンは心底嬉しそうにしていた。
◇◇◇
翌朝。
優志は単独でフォーブの街へと向かった。
目的地は魔鉱石の買い取り屋。
狙いはバブルの魔鉱石。
常連客であるアドンの恋を応援するため――そして、回復屋の新たな目玉とするため、ダズの教えてくれた魔鉱石を手に入れようとやってきたのだ。
「こんちは」
「いらっしゃ――ああ、回復屋のご主人。今日は何をお買い求めですか?」
来店理由をいつもの通りだと思った受付嬢からそうたずねられるが、今回はいつもと少し様相が異なる。
「実は、バブルの魔鉱石を探しているんだ」
「バブルの魔鉱石ですか?」
受付嬢の反応は渋い。
というより、「正気ですか?」という感じだ。
それほどまでにバブルの魔鉱石の価値は低いということらしい。
「あんなの、一体何に使う気ですか?」
「用途はまあ……うちの店絡みってとこかな」
「ほほう」
受付嬢も興味津々といった様子。
彼女も仕事が休みの日は優志の店に顔を出す常連客でもあるので、店の新商品となる可能性があるバブルの魔鉱石の使い道が気になって仕方がないのだろう。
そんな調子で、受付嬢と世間話をしていると、
「失礼いたします」
荒くれ者の冒険者たちで賑わう店内の雰囲気には似つかわしくないなんとも丁寧な口調をした一人の女性が来店した。
黒髪のショートカットに鋭い眼光――女性の全体像を眺めた優志はすぐさま、
「もしかして、あの人がアドンの」
一目惚れの女性だと判断した。
「? あの人が何か?」
優志の視線が来店した女性に釘付けとなっていることを不思議に思った受付嬢が問いかけてくる。優志はすぐに「なんでもない」と誤魔化し、本来の目的に映ることとした。
――とは言っても、視界の片隅に例の女性を入れたままにし、その動向をこっそりチェックはしていた。
「それで、バブルの魔鉱石はあるのか?」
「それでしたら、店の裏の処分場に山ほどありますよ。ちょうど店長がそっちにいるので直接交渉してみては? もっとも、あなたの申し出となれば店長も簡単に譲ってくれると思いますけど」
「そうだといいんだけどね」
「あ、でも急いでください。そろそろ処分するための準備が整う時間です」
「処分?」
「魔鉱石を粉々に砕くんです。そうなると、もう効果を発動させることはできなくなります」
「! それを早く言ってくれ!」
どうやら役に立たない魔鉱石ということで処分寸前らしい。
これは例の女性をマークしている余裕はなさそうだ。
優志はバブルの魔鉱石を手に入れるため、店の裏にある魔鉱石の処分場へと向かった。
息を切らせながら処分場へつくと、ダズにも負けず劣らずの肉体を誇る買い取り屋の店長が大きな鉄製ハンマーを振りかぶっている瞬間であった。
「ちょっと待ってくれ!」
慌てて待ったをかけると、
「おいおい、一体なんだよ」
二m近い店長がハンマーをドスンと地面に置く。その振動や音から、相当な重量があるハンマーだと想像できる。
「その中にあるバブルの魔鉱石を譲ってもらいたいんだ」
「バブルの魔鉱石だって?」
またも不思議がる声。
だが、店長が不思議に思っていることは、優志が使い道のないバブルの魔鉱石を求めていることではなく、
「まさか一日に二度もこんな魔鉱石が欲しいと言い出すヤツがいるなんてな」
優志の他にバブルの魔鉱石を求めている者がいたという点についてだった。
「ああ。ただ……」
優志がその魔鉱石について詳細を知ろうと声をかけるが、急にふたりのトーンがダウンしてしまった。
「ど、どうしたんだ? もしかして、物凄く高価とか?」
「いや、その逆だ」
「逆?」
「まったくの役立たず品ってことで廃棄処分される代物だよ」
「廃棄処分?」
つまり、この世界の人間にとって、その魔鉱石は使い道がない役立たず品だという認識になっているらしい。
「その魔鉱石はバブルという名前で、強く擦ったりすると香りのついた泡が染み出てくるって特徴がある」
「香りのついた泡……」
「それもいい香りだ。だから、稀に女性が買っていったりすることもあるんだが、たったそれだけの効果ではまったく値打ちがつかないんだよ」
アドンは両手を天井に向けて伸ばす――まさにお手上げ状態ってことらしい。
「その魔鉱石をうまく加工できれば……うん?」
魔鉱石――つまり石。
そこから染み出るいい匂いの香り。
「……なあ、ダズ。その石って重量はどれくらいだ?」
「重さか? まあ……そこら辺に転がっている石よりはだいぶ軽いぞ」
「軽い石、ね」
ニヤリ、優志は笑みを浮かべる。
「優志さん、その石って」
どうやら美弦も狙いに気づいたようだ。
「ああ。――そいつは軽石として使える。おまけにいい香りのついた泡が染み出るってことはそのままボディソープの役割を果たせそうだ」
これまではかけ湯をするくらいしか体を洗う手段がなかったわけだが、その廃棄処分される魔鉱石の効果次第ではアドンの悩みは一気に解決する。
「よし。そうと決まれば早速そのバブルの魔鉱石を仕入れるか」
「そ、そのバブルの魔鉱石があれば、俺の悩みは解決するのか?」
「断言はできないけど、試してみる価値はあるさ」
それでも、希望が出てきたことに対してアドンは心底嬉しそうにしていた。
◇◇◇
翌朝。
優志は単独でフォーブの街へと向かった。
目的地は魔鉱石の買い取り屋。
狙いはバブルの魔鉱石。
常連客であるアドンの恋を応援するため――そして、回復屋の新たな目玉とするため、ダズの教えてくれた魔鉱石を手に入れようとやってきたのだ。
「こんちは」
「いらっしゃ――ああ、回復屋のご主人。今日は何をお買い求めですか?」
来店理由をいつもの通りだと思った受付嬢からそうたずねられるが、今回はいつもと少し様相が異なる。
「実は、バブルの魔鉱石を探しているんだ」
「バブルの魔鉱石ですか?」
受付嬢の反応は渋い。
というより、「正気ですか?」という感じだ。
それほどまでにバブルの魔鉱石の価値は低いということらしい。
「あんなの、一体何に使う気ですか?」
「用途はまあ……うちの店絡みってとこかな」
「ほほう」
受付嬢も興味津々といった様子。
彼女も仕事が休みの日は優志の店に顔を出す常連客でもあるので、店の新商品となる可能性があるバブルの魔鉱石の使い道が気になって仕方がないのだろう。
そんな調子で、受付嬢と世間話をしていると、
「失礼いたします」
荒くれ者の冒険者たちで賑わう店内の雰囲気には似つかわしくないなんとも丁寧な口調をした一人の女性が来店した。
黒髪のショートカットに鋭い眼光――女性の全体像を眺めた優志はすぐさま、
「もしかして、あの人がアドンの」
一目惚れの女性だと判断した。
「? あの人が何か?」
優志の視線が来店した女性に釘付けとなっていることを不思議に思った受付嬢が問いかけてくる。優志はすぐに「なんでもない」と誤魔化し、本来の目的に映ることとした。
――とは言っても、視界の片隅に例の女性を入れたままにし、その動向をこっそりチェックはしていた。
「それで、バブルの魔鉱石はあるのか?」
「それでしたら、店の裏の処分場に山ほどありますよ。ちょうど店長がそっちにいるので直接交渉してみては? もっとも、あなたの申し出となれば店長も簡単に譲ってくれると思いますけど」
「そうだといいんだけどね」
「あ、でも急いでください。そろそろ処分するための準備が整う時間です」
「処分?」
「魔鉱石を粉々に砕くんです。そうなると、もう効果を発動させることはできなくなります」
「! それを早く言ってくれ!」
どうやら役に立たない魔鉱石ということで処分寸前らしい。
これは例の女性をマークしている余裕はなさそうだ。
優志はバブルの魔鉱石を手に入れるため、店の裏にある魔鉱石の処分場へと向かった。
息を切らせながら処分場へつくと、ダズにも負けず劣らずの肉体を誇る買い取り屋の店長が大きな鉄製ハンマーを振りかぶっている瞬間であった。
「ちょっと待ってくれ!」
慌てて待ったをかけると、
「おいおい、一体なんだよ」
二m近い店長がハンマーをドスンと地面に置く。その振動や音から、相当な重量があるハンマーだと想像できる。
「その中にあるバブルの魔鉱石を譲ってもらいたいんだ」
「バブルの魔鉱石だって?」
またも不思議がる声。
だが、店長が不思議に思っていることは、優志が使い道のないバブルの魔鉱石を求めていることではなく、
「まさか一日に二度もこんな魔鉱石が欲しいと言い出すヤツがいるなんてな」
優志の他にバブルの魔鉱石を求めている者がいたという点についてだった。
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