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第153話 優志の役割
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騎士団長アデムの待つテントに入ると、そこは刺すような殺気で満ちていた。
「来たか……」
静かに語るアデム――その顔には大きな無数の傷痕があった。
団長として苛烈な戦場を駆け抜けてきた証でもある。
鋭利な刃物を彷彿とさせる眼光に射抜かれた優志は一瞬寒気を覚えた。
アデムはカイゼル髭を撫でながら優志に語る。
「まさか君自身が魔界を訪れるとは思わなかったな」
「魔人や魔獣があっちの世界で暴れ回っているのは知っていましたから……俺の力を少しでも役立てたいと思い、来ました」
「そうか……いや、感謝する。君が来てくれたことで兵たちの士気が一気に高まった。これは嬉しい誤算だ」
心から安堵しているのが伝わる声色だった。先ほどまでの険しい形相も、話をしていくうちに解れて柔らかなものに変わっていく。
「これで我々は心置きなく魔王城へ乗り込むことができる」
「魔王城……いよいよ決戦というわけですな」
同席したゼイロが引き締まった表情で告げる。
「そうだ、ゼイロ……全人類の悲願がようやく達成されるのだ」
「ただ、問題となるのは魔人ですな」
魔王城での決戦でもっとも懸念されるのが魔人対策。
特に未だ行方が掴めていないエルズベリー家当主とバルザの存在が厄介だった。中でもバルザは短期間とはいえ騎士団に所属していた身――こちらの手の内はある程度読んでくることが想定された。
――だが、相手が魔人となればこちらの対抗策はある。
「アデム団長、ゼイロ副団長……魔人出現の際には俺が前線に出て戦います」
優志の申し出に、二人はギョッと目を丸めた。
「……確かに君は先ほどの戦闘で素晴らしい成果を挙げた。しかし、やはり訓練を積んでいない君を前線に置くのは賛成しかねるよ」
「ゼイロの言う通りだ。君には後方支援に専念してもらいたい。それに、魔人相手ならば勇者たちもいてくれる」
「しかし、俺のスキルならば魔人を倒すのではなく元に戻すことができます」
現在地である合流場所へ到着する前に戦ったベイルを元に戻した実績がある。
エルズベリーもバルザも、優志のスキルを使えば元の人間の姿に戻すことができるのだ。
この事実がアデムとゼイロを悩ませた。
二人としても優志の案は是非とも採用したいものだった。バルザの方は人間時代が何者であったのか不明だが、エルズベリー家当主のように国政への影響力が強い人物を失うのは避けたいところだ。
それでも二人が諸手を挙げて賛同しない理由は二つある。
一つはゼイロの口にした優志の戦闘力に関して。
確かに、優志の回復水によって生み出された剣は、魔人となったベイルを元に戻したことからそうした効果が含まれているということが発覚している。
だが、あの時は魔人の動きが安積の能力によって封じられていたためできた、いわばまぐれに近い勝利だとゼイロは捉えていた。
この先に待ち構えている魔人の数は決して一人や二人じゃない。
どれほどの規模になるか皆目見当がつかない中で、戦闘素人の優志を前線に送りだすというのは考えづらかった。
そしてもう一つの存在が――優志の存在そのものにある。
優志自身はまだ自覚していないが、騎士団を束ねるアデムゼイロの中では、すでにその存在価値は他の勇者たちと同格にまでランクアップしていた。
フィルス国王陛下もそうだが、次期国王候補であるベルギウスも優志には特別な態度を見せている。スキルの有用性もさることながら、そのスキルを使って人々を癒しているという人間性――彼もまた、決して失ってはならぬ存在だと感じていた。
二人が優志に直接それを告げないのは、そうした周囲からの評価が彼にとって足かせとなってしまう場合があるかもしれないという配慮からくるものであった。
だが、思ったよりもこの宮原優志という男は危なっかしい行動を取る。自身の存在価値を知ることでそのような行動が減少するかもしれないという考えもあったのだが、アデムとゼイロはそれをしなかった。
「君の活躍には期待している。……だが、君にはサポート役として他の勇者たちを支えてやってもらいたい」
アデムからの提案に、ゼイロも続いた。
「彼らはまだ若いし、同じ世界から来た大人である君は、いてくれるだけで精神的に楽なはずだからな」
「……分かりました」
優志としても、二人が自分を前線に出させたくない理由に見当はついている。
ただ、最初はそれを押し切ってでも戦う意志を貫こうとしたが、少し落ち着いて考え直したことで冷静な判断を下すことができた。
自分は弱い。
それに、魔人相手に効果のある攻撃を仕掛けられたとしても、魔獣に関してはどうなるか分からない。魔人以外には効果がないとするなら、もはや優志はただのお荷物だ。
なので、ここは退き、後方サポートに力を入れることにした。
アデムに挨拶を済ませた優志が戻ってくると、そこに駆け寄ってくる数人の人影が目に入った。合計で七人。優志と同じくこの世界に召喚され、今日まで勇者として魔王軍と戦ってきた若者たちだった。
「お久しぶりです、優志さん!」
「元気そうで何よりですよ」
「俺は初めましてですね。橘っていいます」
まず先頭に出て挨拶をしたのは戦勝パレードで顔を合わせた三上。その後から、国王の風呂造りの際に会った真田。そして初めて顔を合わせる橘が自己紹介をする。
優志は個別に返事をしてから、全体を見回して語る。
「みんなも無事でよかった」
「なんとか助け合ってここまで来られましたよ」
「あとは魔王だけでしょ? うちらの力でとっとと倒してやろうじゃない」
「ヤル気を見せることは結構だが、調子に乗ってポカするなよ」
「その時は私の召喚獣が援護するから平気だよ」
武内、安積、上谷、そして美弦の四人も士気は上々だった。
これで、召喚された勇者が全員そろった。
一行は十分な休息をとった後――最終決戦地である魔王城へ向けて出発した。
「来たか……」
静かに語るアデム――その顔には大きな無数の傷痕があった。
団長として苛烈な戦場を駆け抜けてきた証でもある。
鋭利な刃物を彷彿とさせる眼光に射抜かれた優志は一瞬寒気を覚えた。
アデムはカイゼル髭を撫でながら優志に語る。
「まさか君自身が魔界を訪れるとは思わなかったな」
「魔人や魔獣があっちの世界で暴れ回っているのは知っていましたから……俺の力を少しでも役立てたいと思い、来ました」
「そうか……いや、感謝する。君が来てくれたことで兵たちの士気が一気に高まった。これは嬉しい誤算だ」
心から安堵しているのが伝わる声色だった。先ほどまでの険しい形相も、話をしていくうちに解れて柔らかなものに変わっていく。
「これで我々は心置きなく魔王城へ乗り込むことができる」
「魔王城……いよいよ決戦というわけですな」
同席したゼイロが引き締まった表情で告げる。
「そうだ、ゼイロ……全人類の悲願がようやく達成されるのだ」
「ただ、問題となるのは魔人ですな」
魔王城での決戦でもっとも懸念されるのが魔人対策。
特に未だ行方が掴めていないエルズベリー家当主とバルザの存在が厄介だった。中でもバルザは短期間とはいえ騎士団に所属していた身――こちらの手の内はある程度読んでくることが想定された。
――だが、相手が魔人となればこちらの対抗策はある。
「アデム団長、ゼイロ副団長……魔人出現の際には俺が前線に出て戦います」
優志の申し出に、二人はギョッと目を丸めた。
「……確かに君は先ほどの戦闘で素晴らしい成果を挙げた。しかし、やはり訓練を積んでいない君を前線に置くのは賛成しかねるよ」
「ゼイロの言う通りだ。君には後方支援に専念してもらいたい。それに、魔人相手ならば勇者たちもいてくれる」
「しかし、俺のスキルならば魔人を倒すのではなく元に戻すことができます」
現在地である合流場所へ到着する前に戦ったベイルを元に戻した実績がある。
エルズベリーもバルザも、優志のスキルを使えば元の人間の姿に戻すことができるのだ。
この事実がアデムとゼイロを悩ませた。
二人としても優志の案は是非とも採用したいものだった。バルザの方は人間時代が何者であったのか不明だが、エルズベリー家当主のように国政への影響力が強い人物を失うのは避けたいところだ。
それでも二人が諸手を挙げて賛同しない理由は二つある。
一つはゼイロの口にした優志の戦闘力に関して。
確かに、優志の回復水によって生み出された剣は、魔人となったベイルを元に戻したことからそうした効果が含まれているということが発覚している。
だが、あの時は魔人の動きが安積の能力によって封じられていたためできた、いわばまぐれに近い勝利だとゼイロは捉えていた。
この先に待ち構えている魔人の数は決して一人や二人じゃない。
どれほどの規模になるか皆目見当がつかない中で、戦闘素人の優志を前線に送りだすというのは考えづらかった。
そしてもう一つの存在が――優志の存在そのものにある。
優志自身はまだ自覚していないが、騎士団を束ねるアデムゼイロの中では、すでにその存在価値は他の勇者たちと同格にまでランクアップしていた。
フィルス国王陛下もそうだが、次期国王候補であるベルギウスも優志には特別な態度を見せている。スキルの有用性もさることながら、そのスキルを使って人々を癒しているという人間性――彼もまた、決して失ってはならぬ存在だと感じていた。
二人が優志に直接それを告げないのは、そうした周囲からの評価が彼にとって足かせとなってしまう場合があるかもしれないという配慮からくるものであった。
だが、思ったよりもこの宮原優志という男は危なっかしい行動を取る。自身の存在価値を知ることでそのような行動が減少するかもしれないという考えもあったのだが、アデムとゼイロはそれをしなかった。
「君の活躍には期待している。……だが、君にはサポート役として他の勇者たちを支えてやってもらいたい」
アデムからの提案に、ゼイロも続いた。
「彼らはまだ若いし、同じ世界から来た大人である君は、いてくれるだけで精神的に楽なはずだからな」
「……分かりました」
優志としても、二人が自分を前線に出させたくない理由に見当はついている。
ただ、最初はそれを押し切ってでも戦う意志を貫こうとしたが、少し落ち着いて考え直したことで冷静な判断を下すことができた。
自分は弱い。
それに、魔人相手に効果のある攻撃を仕掛けられたとしても、魔獣に関してはどうなるか分からない。魔人以外には効果がないとするなら、もはや優志はただのお荷物だ。
なので、ここは退き、後方サポートに力を入れることにした。
アデムに挨拶を済ませた優志が戻ってくると、そこに駆け寄ってくる数人の人影が目に入った。合計で七人。優志と同じくこの世界に召喚され、今日まで勇者として魔王軍と戦ってきた若者たちだった。
「お久しぶりです、優志さん!」
「元気そうで何よりですよ」
「俺は初めましてですね。橘っていいます」
まず先頭に出て挨拶をしたのは戦勝パレードで顔を合わせた三上。その後から、国王の風呂造りの際に会った真田。そして初めて顔を合わせる橘が自己紹介をする。
優志は個別に返事をしてから、全体を見回して語る。
「みんなも無事でよかった」
「なんとか助け合ってここまで来られましたよ」
「あとは魔王だけでしょ? うちらの力でとっとと倒してやろうじゃない」
「ヤル気を見せることは結構だが、調子に乗ってポカするなよ」
「その時は私の召喚獣が援護するから平気だよ」
武内、安積、上谷、そして美弦の四人も士気は上々だった。
これで、召喚された勇者が全員そろった。
一行は十分な休息をとった後――最終決戦地である魔王城へ向けて出発した。
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