悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

文字の大きさ
26 / 60

第26話 教会でひと騒動

しおりを挟む
 さっきまでの喧騒が嘘のように静かで自然豊かな空間。
 交易都市ガノス内でもあまり知られていない癒しスポットだ。

 少し離れた場所に教会がある。

 あそこで少し休ませてもらおうと近づいていったら、

「さっさとガキを出さんかいゴルァ!」
「ぶっ殺すぞオラァ!」

 とても教会とは思えない怒号が響いてきた。
 見ると、教会の入り口には武器を持ったふたりの大男が立っていて、彼らの視線の先には両手をいっぱいに広げて何かを守っているシスターの姿が。

「あれは……」

 シスターの背後には彼女の足にしがみついている十歳前後の少年が。
 男たちが出せと言っていたのはあの子のことか?

 しかし……お世辞にも大の男が武器を持っておまけにふたりがかりという攻勢をかけるほどの価値があるとは思えない。
 
 少年の格好はあまりにもみすぼらしかった。
 着ているのはそこら辺に落ちているような布を適当に切り合わせたような物で、とても服とは呼べない代物。
 髪はボサボサで顔や体は汚れまくっている。

 名のある貴族の御子息というなら、さらって身代金を要求するとかできるだろうに、なぜあんな子どもを付け狙っているんだ?

 正直、あまりこういった面倒ごとにはかかわりたくないのだが、正義感が爆発しかけているルチーナの圧が背後からビンビン伝わってくる。

「……ルチーナ、俺は――」
「分かりました。助けにまいりましょう」

 まだ何も言いきってないのにルチーナは駆けだす。
 あれはもう無理だな。
 仮に俺が無言でその場を去ろうとしても突っ込んでいただろう。

 ……まあ、いい。
 聖職者に恩を売っておくというのも後々いい方向に転がるかもしれないしな。
 言ってみれば先行投資というヤツだ。
 ついでにルチーナとコニーの好感度もあげておくとするか。

「神聖な教会の前で野蛮な行為はやめていただこうか」

 本日の日替わり武器である鞭を手にしたルチーナとともに、男たちへと対峙する。

「なんだぁ、てめぇは」
「邪魔すると痛い目に遭うぜぇ、兄ちゃん」
「ほぉ、ならば遭わせてもらおうか、その痛い目とやらに」
「こいつ……調子に乗ってんじゃねぇよ!」

 スキンヘッドの大男が俺に向かって剣を振るう――が、男の武器はルチーナの華麗な鞭さばきによって取り上げられた。

「あっ」
「隙あり!」

 間の抜けた声を出す男の腹に前蹴りを叩き込む。

「ごはっ!?」

 悶え苦しむ男を尻目に、今度はボーッと横に突っ立っている男の喉元に剣を添える。

「は、速ぇ……」

 立ち尽くしているというより、こちらのスピードについてこられなかった男の顔はすぐに汗でびっしょりとなる。

「失せろ」
「お、俺たちを誰の配下だと――」
「失せろと言ったはずだ」
「ひいっ!?」

 男を睨みつけると、血相を変えて逃げだした。
 俺に蹴りを食らった方の男も「覚えていやがれ」と小声で呟きながらヨチヨチと赤子のような足取りで去っていく。

 これにて一件落着か。

「あ、ありがとうございました!」
「なに、礼には及びませんよ。我々は当然のことをしたまでです」

 ペコペコと頭を下げるシスターへ、ルチーナはそう告げる。

 いや、なんでおまえがそれを言っちゃうんだよ!
 そういうのは俺の役目だろ!
 あと、そこで何か金銭を要求しろ!

 俺が心の中でツッコミを入れていると、そこへ助けた少年が駆け寄ってくる。

「お兄ちゃんたち、強いんだね!」
「ふっ、まあな」
「オークションの人たちも倒せるかな!」
「誰が相手だろうとこのレーク・ギャラードに敗北の二文字は――オークション?」

 そんなイベントがあるのか?
 それに、倒せるというのはどういう意味だ?

 不思議に思い、少年から詳しい話を聞いてみると……恐るべき事実が判明する。

 あのザルフィンとかいうヤツがやろうとしていたオークションというのは、この少年のように身寄りのない子どもたちを集め、商品とし、貴族や金持ちたちへ売りさばくというものだった。

「ひ、ひどい……」
「人を人と思わぬ外道の所業……許せませんね」

 コニーはドン引きし、ルチーナの怒りのボルテージが高まっていく。
 シスターに至っては気絶しそうな勢いだ。

 少年もオークションに出品される予定だったが、隙をついて逃げてきたらしい。

「お願いします! 他のみんなも助けて!」

 泣きじゃくる少年。
 そして突き刺さる女性陣の視線。

 この状況から俺の出した答えは――

「分かった。引き受けよう」

 ザルフィンとの対立だった。

「「レーク様!」」

 コニーとルチーナの好感度はさらにアップし、シスターも感動のあまりとうとう本当に気絶してしまった。

 それにしても……身寄りのない子どもたち、か。
 これはいいことを聞いた。

 俺は商人。
 慈善事業などに興味はない。
自分の利益とならないことには1%の力も使いたくないところだが、この閃きで俄然ヤル気が出てきた。

 ザルフィンというヤツも俺の商売の邪魔になりそうだし、早いうちに手を打っておくのもいいだろう。

 裏闘技場やベッカード家の件は失敗に終わったが、今度はそうはいかん。

 必ず成功させてみせる!
 
 ……あと、学園の購買で売る商品を買って帰らないとな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~

陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。 アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

処理中です...