悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

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第25話 ザルフィンの目論見

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 あの状況で熟睡は無理だろうと思っていたが、疲労もあってか意外とすんなり寝入った。
 
「レーク様、そろそろ支度をしませんと朝市が終わってしまいます」
「む? そうだったな――って、うん?」

 ルチーナに起こされ、ベッドから出ようとするとなぜか強い力で引き戻される。
 原因は俺の腕にしがみついているコニーだった。

「コニー、放せ。というか起きろ。朝市へ行くぞ」
「ふへへ……レーク様ぁ……そんなところにそんな大きな物は入らないよぉ……」

 なんか凄い寝言だな。
 というか、夢の中の俺はコニーのどこに大きな物をねじ込もうとしているんだ!?
 
 気にはなるところだが、朝市の様子をチェックしておきたいので頬をペチペチと叩きながら声をかける。

「寝ぼけている暇はないぞ、コニー。起きて支度しろ」
「ふへっ? ――あっ! お、おはようございます、レークしゃま!」

 ようやく目を覚ましたコニーはドタドタと慌ただしくベッドから飛び起きて洗面所へ。

「何をあんなに慌てているんだ?」
「女性にはいろいろとあるものですから。それより、今日のお召し物です」
「ああ」

 ちょうどコニーは洗面所にいるから、ササッと着替えてしまおう。
 学園の制服は着づらいが、普段着はそうでもないから助かる。

 前世でも、洒落っ気とは無縁の生活をしていたからな。
 数少ない貴重な休日は基本的に上下揃いのジャージを着用して引きこもっていたし。

 ただ、こちらの世界ではファッションにも気を遣わないとな。

 何せ俺が目指すのは世界最強のハーレム商会。

 そのトップに君臨する俺がダサダサでは締まらないからな。
 顔立ちも前世より数段グレードアップしているし……この辺も転生特典ってヤツなのか?

 ――っと、いかんいかん。

 今は朝市だ。

 学園の購買で売る商品をチェックしたり、卒業後にここで店を構える前の下見をしたり、とにかくどれほどの活気があるのか見定めておかなくては。


  ◇◇◇


 支度を整え、軽く朝食を済ませてから宿屋を出た。
 すると、まだ早朝という時間帯にもかかわらず昨日よりも人の数がめちゃくちゃ多い。

 中央通りは埋め尽くされ、前進するのさえ苦労しそうだ。

「コニー、離れないように手をつなごう」
「は、はい」
「レーク様、私は?」
「ルチーナはひとりでも――いや、そうだな。手をつなごう」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 ふたりは俺の差し出した手を握る。
 ……さすがに両手が塞がったままでは何かと不便なのだが、ふたりが満足そうなのでヨシとするか。

 朝市では売れ筋をチェックしたり、どんな店がどれくらい出ているのかなど基本的な確認作業を行った。

 こういうのはうちの商会もチェックをいれているのだろうけど、やはり自分の目で見ておきたいという気持ちもある。

 文章で理解するのと実際に目の当たりにするのでは印象も変わってくるからな。

 朝市の賑わいはまったく衰える気配もなく、一時間も経つ頃にはさらに人が増えていった。
 さすがにこれだけの数だと人酔いをしそうだと思っていたら、俺よりも先にコニーが音を上げてしまった。

「うぅ……ちょっと気分悪いかも……」
「大丈夫ですか、コニーさん」
「ず、ずびばぜん……なんだか……酔っちゃったみだいで……」

 いかん。
 コニーがいろんな意味で限界だ。

 こんな人通りの多いところでぶちまけられては朝市を出禁になりかねない。

 調べたかったことは粗方片づいたし、少し早いが退散するとしよう。

「ルチーナ、この先に静かな教会があったはずだ。そこで休憩しよう」
「かしこまりました」
「あうぅ……」

 青ざめるコニーの肩を抱き、群衆から遠ざかるように路地裏へ。
 建物が密集しているせいでなかなか日の光が届かず、昼でも薄暗い道を抜けると、そこには一面の緑が広がっていた。
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