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第一幕 モブメイド令嬢誕生編
19 星降祭《ステラフェスタ》前編
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星降祭当日――星飾りに彩られた街並みは光の魔法で夜も輝いている。中央広場にはお祭りを祝おうと人々が集まり、用意されたご馳走を食べつつ、女神ミューズ様へ感謝の祈りを捧げている。この後、星降りの刻には流星群が降り注ぎ、夜空の宝石箱を見上げながら、皆来年の平穏を願うのだ。
王宮ではこの日、社交界や晩餐会が開かれている訳ではないため、王家の者と、お城で働く執事やメイド、騎士、そして、近親の貴族で大広間にて星降祭りのお祝いが開かれていた。クラウン、アイゼン、フィリーナも全員揃っている。
「探したぞ、ヴァイオレッタ。まさか貴族の令嬢が厨房で菓子作りをしていたとは想像もしていなかったぞ」
「サプライズをしたいって、ローザへ言ってお願いしたのよ。ちなみにフィリーナも一緒よ」
ワタクシが隣の席で貴族の者と話をしていたフィリーナへ目配せをすると、こちらの様子に気づいたフィリーナが駆け寄って来た。
「お兄様~~! あとで私がお姉様と一緒に作った星林檎のタルトを食べてくださいませ!」
「お、おう。いいぞ」
「では、お姉様、お兄様、また後程~~」
話が途中だったのだろう。彼女は自席へと帰っていった。ワタクシとフィリーナの距離が大幅に縮まっている様子に驚くクラウン。
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
「ふふふ、それは秘密よ」
そりゃあ先日までワタクシの事を魔女だ魔性の女だと敵対していた子がお姉様と呼んでいたなら、兄も驚くわよね。
まぁ、魔法でもなんでもなく、甘いもので彼女の胃袋と心を鷲掴みにしただけなんだけど。クラウンと話をしていると、ワタクシの下にも騎士団長や国の宰相と、次々にお偉い方が挨拶へやって来た。これは美味しい料理の味を堪能するのはもう少し先になりそう。
「ヴァイオレッタ、虹色鶏のロースト、持って来てやったぞ」
「あら、気が利くわね、アイゼン」
料理を諦めかけていたワタクシの下へアイゼンが薄切りにした虹色鶏のロースト肉をお皿に盛った状態で持って来てくれた。七面鳥の変種と言われる虹色鶏のお肉は、焼くと断面が七色に輝く事から、虹色鶏と言われている。貴族の間では、この星降祭の日に虹色鶏のお肉を食べると幸運が訪れると言われているのだ。
「アイゼン、俺の分は無いのか?」
「兄様は執事のスミスがアイコンタクト一つで持って来るでしょう?」
「あら、一枚食べます、クラウン王子」
この国では齢十六で成人として認められるため、既に十八であるワタクシとクラウンは談笑しつつ赤ワインを嗜んでいる。アイゼンは先日十六になったばかりだが、まだ飲む事に慣れていないため、ジュースを飲んでいるようだった。
お肉に赤ワイン。美味しいご馳走に、スイーツ。煌びやかな装飾にピアノの演奏。王宮の生活はこんなにも華やかななのかと感動すら覚える。一介のモブメイドだった頃は社交界や晩餐会でも裏方へ廻っていたため、この特別な雰囲気に気分も高揚してしまう。
それに、遠縁の王族貴族の紳士も淑女も、騎士団長も、挨拶に来る者ほとんどが美男美女ばかりなのだ。王宮のメイドさんもこの場には参加しているが、モブメイド視点から見ても、メイドさんですら美しく、気品に溢れている。あ、メイドさんの一人と目が合っちゃった。軽く会釈されたので返しておく。
星降りの刻までにはまだ時間があったため、高揚した熱を少し覚ますためにバルコニーへと移動したワタクシ。誰も居ない事を確認し、ワタクシは小声で呟く。
「はぁ、こんな美男美女ばかりの空間にずっと居たら、胸が苦しくなっちゃうわ。ヴァイオレッタ様は凄いなぁ~。あんな美男美女に迫られても華麗に躱していたもの。この先の王宮生活が思いやられるわ~」
ひょんなことからヴァイオレッタ様になってしまったわたし。この先訪れる危機を回避するためには、わたしは88番目のモブメイドではなく、ヴァイオレッタ様として生きて行かなければならないのだ。
火照った頬に当たる冷たい夜風が心地いい。星降りの刻には、皆で中庭へ移動し、流星群を眺めるらしいので、もう少ししたら戻る事にしよう。
「こんなところで夜風に当たっていると風邪引くぞ」
「え? あ、そうですね。すぐ戻りま……えっ!?」
誰かが後ろから抱き締められた状態で、耳元で囁いて来たため、てっきりクラウン王子かと思った……のだが、黒い礼装と、外套に身を包んだその男は、ワタクシが叫声をあげる前にワタクシの口元を塞いだのだった。
王宮ではこの日、社交界や晩餐会が開かれている訳ではないため、王家の者と、お城で働く執事やメイド、騎士、そして、近親の貴族で大広間にて星降祭りのお祝いが開かれていた。クラウン、アイゼン、フィリーナも全員揃っている。
「探したぞ、ヴァイオレッタ。まさか貴族の令嬢が厨房で菓子作りをしていたとは想像もしていなかったぞ」
「サプライズをしたいって、ローザへ言ってお願いしたのよ。ちなみにフィリーナも一緒よ」
ワタクシが隣の席で貴族の者と話をしていたフィリーナへ目配せをすると、こちらの様子に気づいたフィリーナが駆け寄って来た。
「お兄様~~! あとで私がお姉様と一緒に作った星林檎のタルトを食べてくださいませ!」
「お、おう。いいぞ」
「では、お姉様、お兄様、また後程~~」
話が途中だったのだろう。彼女は自席へと帰っていった。ワタクシとフィリーナの距離が大幅に縮まっている様子に驚くクラウン。
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
「ふふふ、それは秘密よ」
そりゃあ先日までワタクシの事を魔女だ魔性の女だと敵対していた子がお姉様と呼んでいたなら、兄も驚くわよね。
まぁ、魔法でもなんでもなく、甘いもので彼女の胃袋と心を鷲掴みにしただけなんだけど。クラウンと話をしていると、ワタクシの下にも騎士団長や国の宰相と、次々にお偉い方が挨拶へやって来た。これは美味しい料理の味を堪能するのはもう少し先になりそう。
「ヴァイオレッタ、虹色鶏のロースト、持って来てやったぞ」
「あら、気が利くわね、アイゼン」
料理を諦めかけていたワタクシの下へアイゼンが薄切りにした虹色鶏のロースト肉をお皿に盛った状態で持って来てくれた。七面鳥の変種と言われる虹色鶏のお肉は、焼くと断面が七色に輝く事から、虹色鶏と言われている。貴族の間では、この星降祭の日に虹色鶏のお肉を食べると幸運が訪れると言われているのだ。
「アイゼン、俺の分は無いのか?」
「兄様は執事のスミスがアイコンタクト一つで持って来るでしょう?」
「あら、一枚食べます、クラウン王子」
この国では齢十六で成人として認められるため、既に十八であるワタクシとクラウンは談笑しつつ赤ワインを嗜んでいる。アイゼンは先日十六になったばかりだが、まだ飲む事に慣れていないため、ジュースを飲んでいるようだった。
お肉に赤ワイン。美味しいご馳走に、スイーツ。煌びやかな装飾にピアノの演奏。王宮の生活はこんなにも華やかななのかと感動すら覚える。一介のモブメイドだった頃は社交界や晩餐会でも裏方へ廻っていたため、この特別な雰囲気に気分も高揚してしまう。
それに、遠縁の王族貴族の紳士も淑女も、騎士団長も、挨拶に来る者ほとんどが美男美女ばかりなのだ。王宮のメイドさんもこの場には参加しているが、モブメイド視点から見ても、メイドさんですら美しく、気品に溢れている。あ、メイドさんの一人と目が合っちゃった。軽く会釈されたので返しておく。
星降りの刻までにはまだ時間があったため、高揚した熱を少し覚ますためにバルコニーへと移動したワタクシ。誰も居ない事を確認し、ワタクシは小声で呟く。
「はぁ、こんな美男美女ばかりの空間にずっと居たら、胸が苦しくなっちゃうわ。ヴァイオレッタ様は凄いなぁ~。あんな美男美女に迫られても華麗に躱していたもの。この先の王宮生活が思いやられるわ~」
ひょんなことからヴァイオレッタ様になってしまったわたし。この先訪れる危機を回避するためには、わたしは88番目のモブメイドではなく、ヴァイオレッタ様として生きて行かなければならないのだ。
火照った頬に当たる冷たい夜風が心地いい。星降りの刻には、皆で中庭へ移動し、流星群を眺めるらしいので、もう少ししたら戻る事にしよう。
「こんなところで夜風に当たっていると風邪引くぞ」
「え? あ、そうですね。すぐ戻りま……えっ!?」
誰かが後ろから抱き締められた状態で、耳元で囁いて来たため、てっきりクラウン王子かと思った……のだが、黒い礼装と、外套に身を包んだその男は、ワタクシが叫声をあげる前にワタクシの口元を塞いだのだった。
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