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第三幕(最終章)真実追究編

50 時を超えて

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 その後、ワタクシは王様と王妃様と謁見し、無事帰還した事を報告する。勿論瞳の色を目視し、お二人が操られていないかは確認済だ。そして、クラウン王子から内密な話という事で、ブラックシリウス国の件を報告する。近日中に王子自ら挨拶に来たいとの申し出があったと。ジルバートには一旦自国へ戻り、父親である国王に交渉して貰っている。彼の事だ。きっとうまくやってくれるだろう。

 尚、悪魔の呪縛から逃れたマーガレット王女も、フレイア騎士団長も操られている振りをして貰っていたのだが、残念ながら黒幕が以降二人へ接触してくる事はなかった。ワタクシがフレイア騎士団長に殺されかけた事実を伏せる事で、向こうが操っている騎士団員を使い、ワタクシを暗殺した罪を擦り付けて来るかと思いきや、そんな動きも無く、むしろ騎士団員達は悪魔の呪縛から解放されたようだ。

 彼女は・・・一旦何を考えているのだろう?

 黒幕の目星はついている。後は確実な証拠が欲しいだけ。だが、黒幕と接触していた記憶は全部抹消されており、マーガレット王女も、フレイア騎士団長も、最近直接指示を出した人物については憶えがないようだった。

「まずはその、ブラックシリウス国の王子と話す必要はあるが、クイーンズヴァレー王国創立五百年の記念式典のタイミングには、お前たちの〝婚姻の儀〟と〝ブラックシリウス国との国交正常化〟。二つの発表をする方向で進めよう」
「ありがとうございます、父上」

「よいよい。これからのクイーンズヴァレー王国も益々安泰じゃな」
「ええ。二人共、素敵な未来を築いてくださいね」

「ありがとうございます。王様、王妃様」

 王子様、王妃様との謁見を無事に終え、あとは来るべき時に備えて準備をするのみ。アイゼン王子はフレイア騎士団長と戦闘の訓練中。それからフィリーナ王女様には、いま聖女の神殿があるセイヴサイド領へ出向いて貰っている。何せワタクシは既に、聖女の力を継承してしまっているのだ。ワタクシが直接出向いてもよかったのだが、何せ時間がない。フィリーナ王女を通じ、女子会・・・の名目で、この時代の聖女様を連れて来る作戦だ。フィリーナ王女とマーガレット王女まで同席する会ならば、きっと聖女様も断る事は出来ないだろうという計画である。

 その翌日、ローザとブルームが自室へワタクシを呼びにやって来た。あの時、ブルームには本当心配をかけてしまった。ジルバートが敵でない事はローザとブルームには伝えてある。加えて二人には、背後に悪魔が潜んでいる事も説明済だ。

「ヴァイオレッタ様。本日ご主人様――グランツ侯爵がメイド全員を呼んでおられます。何やら重要なお話があるそうで、ヴァイオレッタ様も同席して欲しいのだと」
「え? お父様が? 一体何のお話でしょう?」
 
 前世ではこのタイミングで呼び出される事などなかった筈。まぁ、前世の今頃はもう、マーガレット王女とクラウン王子は逢瀬おうせを重ねており、追放直前、破滅寸前の頃だったので、それどころじゃなかったとも言える。

「馬車は用意してあるそうです。準備出来次第、参りましょう」
「分かったわ。では、少し用事を済ませてから参ります。昼刻より向かいましょう」
「畏まりました」

 クラウン王子の部屋はすぐ近くのため、カインズベリー侯爵家へ向かう旨を伝えておく。アイゼン王子にも、もしこちらへ出向く事があれば伝えて欲しいと。

 そして、そのまま客人が宿泊する王宮の別棟へと向かう。
 今、とある人物に、王宮に宿泊して貰っているのだ。

「おはようミランダ、今日もいい天気ね」
「ヴァイオレッタ様! 本来ならばこちらが挨拶へ出向くべきところをありがとうございます!」

「気を使わなくていいのよ。それより、アイゼン王子との関係は順調?」
「もう……揶揄わないで下さい」

 いつも頬を赤く染めてくれるので、ミランダ令嬢は本当分かりやすいわね。さてさて、冗談を言っている場合ではないわね。カインズベリー侯爵家へ向かう前に、彼女には聞かなければならない事があるのだ。

「ミランダ。グランツ侯爵へ呼ばれたの。うちのメイド全員一緒よ。午後よりカインズベリー侯爵家へ向かうわ」
「え?」

 一瞬、逡巡する様子を見せた彼女は、真剣な眼差しでワタクシへこう告げる。

「あの……差し出がましいかもしれませんが……ヴァイオレッタ様……行かない方がいいと思います」
「その根拠は?」

「いえ……悪魔が潜んでいるんですよね。しかもグランツ侯爵はミュゼファイン王国の侯爵とあの社交界以来、商談をしているんですよね? もしかすれば……罠かもしれません」
「それだけなら根拠は薄いわね。他にも何かあるんでしょう?」

「それは……」
「もう……気づいているんでしょう……いえ、気づいている・・・・・・んですよね?」

 あの時、彼女がマーガレット王女へ平手打ちをした時、感じた既視感。私から何度も奪ったという台詞。あの必死の形相。その様子を見た時……ワタクシは気づいた。いえ……わたしは気づいてしまったんだ。

「あの……何の事でしょうか?」
あの時と同じ・・・・・・平手打ち。お見事でしたわ」

 わたしがそう告げた時、ゆっくりと息を吐くミランダ伯爵令嬢。気づけば彼女の瞳から雫が零れている。嗚呼、今ワタクシはヴァイオレッタなの。涙を流してはいけないわ。

「ずっと……ずっと今までワタクシを演じてくれてありがとう、モブメイドちゃん」
「ヴァイオレッタ様……やはりヴァイオレッタ様なのですね!」
 
 吸い寄せられるかのように互いの顔に手を添える。そして、そのまま互いの温もりを確かめ合う二人。

「ありがとう、モブメイドちゃん、今まで本当頑張ったわね」
「えぐっ、えぐっ……うわーーーん。ヴァイオレッタ様ぁあああああ! 逢いたかったですぅうううう」

 そう、いま目の前に居るミランダ伯爵令嬢の中身はヴァイオレッタ様だったのだ。ミランダ姿のヴァイオレッタ様とヴァイオレッタ姿のわたしは、泣きながら抱き合う。

 ご主人様とそのメイドが時を超えて再会した瞬間だった――
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