88番目のモブメイド、憧れの悪役令嬢になる ~え、待って! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてない!

とんこつ毬藻

文字の大きさ
57 / 58
エピローグ モブメイドの進む道

57 わたしの進むべき道

しおりを挟む
「きゃあああああ、アイゼン王子ぃいいい、格好いいーーー!」

 氷上を華麗に滑り、旋回しつつ氷刃ひょうじんを放つ氷上の貴公子プリンス。対するは、自身の持つ闘気を爆発させ、熱き炎を滾らせる正義の騎士。二人の刃が中央でぶつかり合い、爆風と同時、両者後ろへと飛び上がる。どうやら、今日の訓練はこれで終わりらしい。

 訓練場でフレイア騎士団長と刃を交えるアイゼン王子は、あの頃・・・より格段に強くなっていた。氷魔法を自在に操り、高速移動で迫るアイゼンの刃はフレイア騎士団長へ時折届くようになっていた。それでも剣術や闘気の量は圧倒的にフレイアの方が上。フレイアに勝つのはまだまだ先になるだろうが、あの時、屋敷の炎を全て消し去ったアイゼン王子はまさに救世主だった。

「アイゼン王子、すぐ、回復しますわ」
「ありがとう、ミランダ」

 この世界線のミランダは、とても大人しく、穏やかで、憎しみや妬みと言った負の感情を全く知らないかのように純粋な子だった。アイゼンは真っ直ぐな彼女のひたむきさに惹かれ、今ではこうして付き合っているらしい。

 模擬戦闘訓練の観戦が終わった後、メイド達は王宮の厨房へと移動する。既に翠髪のツインテールを弾ませ、エプロン姿のフィリーナ王女がわたし・・・を待ち構えていた。 

「さぁ、プリムラ・・・・! ヴァイオレッタ様へ今日も星林檎ステラアップルのタルトを作るわよ!」
「うん、よろしくね。フィリーナ」

 そう、歴史が改変されたあと、フィリーナ王女は何故かわたしに懐いていたのだ。わたしが厨房へ入った瞬間、あろうことか、モブメイドであるわたしへ腕を絡ませ駆け寄って来たくらい。ヴァイオレッタ様の事は、お姉様ではなく、ヴァイオレッタ様と呼んでいるみたい。

 どうやらこの世界線で、わたしは王宮一のお菓子作り職人メイドであり、先生になってしまっているらしく、フィリーナにとって、わたしはお菓子作りの師匠であり、同年代のお友達になっているみたい。

 みんなで星林檎ステラアップルのタルトを作り、食卓へと並べていく。訓練を終えたアイゼン王子と執務を終えたクラウン王子、そして、ヴァイオレッタ様もやって来る。

「今日の星林檎ステラアップルのタルトも素敵ね、プリムラ」
「ありがとうございます、ヴァイオレッタ様」

「ヴァイオレッタ様、わたくしも一緒に作りましたのよ!」
「ありがとう、フィリーナ」

 ヴァイオレッタ様にお礼を言われ、鼻高々のフィリーナ王女。柔らかく焼き上がった星林檎ステラアップルは甘く、幸せ成分をわたしの中へ運んでくれる。ローザ達の淹れてくれたロイヤルミルクティーも優しい味だ。ヴァイオレッタ様もクラウン王子も、アイゼン王子もフィリーナ王女もみんな笑顔。嗚呼、これが本当に求めていた平穏な日常なのね。

 すると、星林檎のタルトを少し早く食べ終えたクラウン王子が、ゆっくり席を立つ。

「おっと、このあとブラックシリウス国の王子ジルバートの謁見があるんだった。美味しかったよ、プリムラ。俺はひと足早く失礼するよ」
「あ、はい。いってらっしゃいませ」

 あれ? その名前に何故か既視感を覚えるわたし。ジルバート……それまで国交を絶っていたブラックシリウス国の王子が、直接王様へ謁見を果たし、クラウン王子とヴァイオレッタ様の〝婚姻の儀〟と同時に、クイーンズヴァレー王国は〝ブラックシリウス国との国交正常化〟もめでたく発表したのである。

 ジルバート……どうしてその名前が引っ掛かるんだろう? ブラックシリウス国の王子なんて知らない筈なのに、どうして喉の奥に何かつっかえているような感覚を覚えるのだろう? 気になったわたしは、謁見の間、外の回廊にて、ジルバート王子と王様達の謁見が終わるのをそっと待つ。

 そして、彼が謁見の間から出て来たところで、思い切って声を掛ける。

「あ、あの……! ジルバート・シリウス様……ですよね?」
「お前は……?」

 突然目の前に現れたモブメイドに、一瞬、逡巡するような表情をした王子だったが、すぐに切れ長の瞳でわたしを真っ直ぐ見据える。

「えっと。わ、わたしはクラウン・アルヴァート様の許嫁、ヴァイオレッタ・ロゼ・カインズベリー様に仕えるメイド、プリムラ・ホワイト・ミネルバと言います」 
「プリムラ……そうか。プリムラ、プリムラか」

 何故かジルバート王子はわたしの名前を噛み締めるかのように何度も、何度も反芻しているようだった。どうしてだろう、初対面なのになんだか懐かしい気がする。

「突然出て来てすいません。何故か、王子様へご挨拶をしておかないといけない気がして……あれ? あれ?」

 わたしの視界が突然滲む。どうして涙が流れるんだろう。止めどなく零れ落ちる雫。眼前の王子はとっても懐かしいのに、何も思い出せないからなのか? わたしはわたし自身の感情がわからなくなって零れ落ちる雫をそのままに困惑してしまう。

「プリムラ。その名前を聞けただけでも充分だ。俺様はブラックシリウス国の王子――ジルバート・シリウス。国交正常化に伴い、これからこの国へ来る事もあるだろう。また逢おう、プリムラ」

 わたしの頭を軽くぽんぽんと叩き、わたしの前から去ろうとするジルバート。ふと、脳裏に教会の映像が浮かぶ? これは、昔のわたし。そうか、聖女の力を継承したわたしは、教会で育ったんだった。わたしが泣いていた時、いつも頭を軽く撫でてくれた男の子。その男の子の名前は……。

「カイト……カイト!」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍
恋愛
「小娘を、ひっ捕らえよ!」 没落令嬢イシュカ・セレーネはランドリック王国の王宮術師団に所属する水術師だが、宰相オズウェン公爵によって、自身の娘・公爵令嬢シャーロットの誘拐罪で王宮追放されてしまう。それはシャーロットとイシュカを敵視する同僚の水術師ヘンリエッタによる、退屈しのぎのための陰湿な嫌がらせだった。 あっという間に王都から追い出されたイシュカだが、なぜか王太子ローク・ランドリックによって助けられ、「今度は俺が君を助けると決めていたんだ」と甘く告げられる。 ロークとは二年前の戦争終結時に野戦病院で出会っていて、そこで聖女だとうわさになっていたイシュカは、彼の体の傷だけではなく心の傷も癒したらしい。そんなイシュカに対し、ロークは甘い微笑みを絶やさない。 あわあわと戸惑うイシュカだが、ロークからの提案で竜神伝説のある辺境の地・カスタリアへ向かう。そこは宰相から実権を取り返すために、ロークが領主として領地経営をしている場所だった。 王宮追放で職を失ったイシュカはロークの領主経営を手伝うが、ひょんなことから少年の姿をした竜神スクルドと出会い、さらには勝手に聖女と認定されてしまったのだった。 毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。 恋愛小説大賞にエントリーしました。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...