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エピローグ モブメイドの進む道
58 プリムラとして
しおりを挟むその名を呼んだ瞬間、彼はその場に立ち尽くす。ゆっくりと振り返るカイト。それまで感情をあまり表に出した事のない彼の瞳に雫が溜まっていた。自然と駆け寄るわたしとカイト。その場で抱き合う二人。
「この世界線にカイトは存在しないんだ。悪魔アスタロトは俺の肉体と、メフィストの魂を引き換えに、俺の願いを成就した。同時に俺は皆の記憶から抹消された。だから、プリムラ。お前が俺を思い出すなんて……有り得ないんだ」
「でも、あなたはカイトだもの。教会で一緒に過ごしたカイト。そして、わたしを陰からずっと守ってくれた、カイトだもの」
「プリムラ……プリムラ!」
カイトという存在は既に抹消され、この世界で彼の真実を覚えているのはわたし一人。でも、大丈夫。わたしがあなたを忘れる事はない。あなたはわたしを守ってくれたかけがえのない人だから。
自分の名と記憶を取り戻した聖女プリムラと、聖女を生涯守ると誓った騎士カイトは、こうして時を超えて再会を果たす。
そして、一週間後――
「プリムラ、本当に行くのね」
「はい、行って参ります。ヴァイオレッタ様」
「気をつけて行くんだぞ。またいつでも帰って来い」
「はい、クラウン王子」
ヴァイオレッタ様、クラウン王子、アイゼン王子、メイドの先輩、同僚達。皆が見送る中、わたしは一人一人に挨拶を済ませる。そして、彼の下へと向かう。
「行くぞ、プリムラ」
「では、救世の旅へ、行って参ります」
そう、忘れてはならない事があったのだ。わたしはこの世界でただ一人。聖女の力を継承する存在なのだ。だからこそ、聖女としての使命を果たさないといけない。わたしは聖女として、カイトはその守り手として世界に潜む闇を晴らすため、旅に出る事にしたのだ。本当はヴァイオレッタ様の傍でずっと仕えていたい気持ちもあったが、わたしの知らない間に世界が闇に覆われ、また破滅に向かってしまっては、歴史が繰り返されてしまう。
幸い実の妹である神殿のミレイ侯爵令嬢は、次期聖女として仕事を全うしてくれている。彼女も実は改変前の記憶を保持しており、聖女の魔力を通じて先日話し掛けてくれたのだ。『クイーンズヴァレー王国は大丈夫だから、世界を見て来て欲しい』と。まずは神殿のあるセイヴサイド領で彼女と女子会を果たした後、世界を見て廻ろうと思う。
セイヴサイド領へ向かう馬車に乗り、わたしはヴァイオレッタ様より貰った女神水晶《ミューズクリスタル》の首飾りをそっと握る。
大丈夫、わたしにはカイトが傍に居るから。
「いやぁ、プリムラ。楽しみね~~。セイヴサイド領。甘いものはあるのかしら~~♡」
「って、どうしてフィリーナ王女がついて来てる訳!?」
「当然じゃない! プリムラが居なくなったら、誰が私へ甘い物を作ってくれますの?」
いやいや、どうして救世の旅にフィリーナ王女が一緒な訳。どうやら王宮執事のスミスさんにはちゃんと許可を取ったらしい。
「ヴァイオレッタ様ノ命ニヨリ、ワタシモイル。ダカラ、問題ナイ」
「えええええ? ブルーム! いつの間に!?」
わたしの影が蠢いたかと思うと、蒼い髪のブルームが眼前に現れる。まぁ、フィリーナ王女もアイゼン王子と同じく、魔法の才能はあるみたいだし、護衛としてはブルームほど有能なメイドは他に居ない。カイトと二人きりには当面ならないでしょうけど、旅は、賑やかな方がいいよね、きっと。
「楽しそうだな、プリムラ」
「ええ、とっても」
世界にどれだけ闇が潜んでいても、わたしはきっと大丈夫。
だって、わたしにはこんなに温かい仲間が居るんだから――
完
◆◇◆◇◆
88番目のモブメイド=「モブメイド令嬢」いかがでしたでしょうか?
アルファポリス様の恋愛小説大賞へ初エントリーという事で、異世界恋愛長編を投稿させていただきました。
モブメイド=プリムラの聖女としての旅が始まるという事で、まだまだ物語は続いていきそうですが、物語は一旦これにて完結となります。王子との胸きゅん展開はもちろん、死に戻りや入れ替わりなど、途中途中伏線も散りばめつつお届けしておりましたので、ドキドキワクワクしつつ、楽しんでいただけたなら幸いです。
恋愛小説大賞も面白いと思っていただけましたら、是非投票よろしくお願いします。
今後もファンタジー作品や異世界恋愛作品まで、色々チャレンジしていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
とんこつ毬藻
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