【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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本編

第2話:状況把握

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 マンションの廊下のど真ん中で泣きながらうずくまっているのは、間違いなく友人の謙太けんただった。彼があまりにも泣き喚くものだから、近隣の住民が集まってしまっている。

「ケンタ!」
「リュウ! やっと来たァ!」

 久しぶりに会った友人はスーツに薄いコートを羽織っていた。仕事から帰ったばかりだと思われる格好だ。短く刈られた黒髪も人懐こい眼も以前会った時のまま。

 ただ、今の状況だけが異常である。

 涙目でこちらを見上げる謙太の腕の中には赤ん坊が収まっていた。こちらは眠っているが、目の下に涙の筋がある。先程まで泣いていたに違いない。

 住民たちに「お騒がせしてすみません」と頭を下げてお帰りいただき、龍之介りゅうのすけは急いで謙太の手を引いて彼の部屋に逃げるように駆け込んだ。
 ガチャリと鍵を掛け、二人揃って深い溜め息をつく。

「……なんで表に出てんだよ」
「だ、だって、おまえが来るの遅いから」
「三十分掛かるって言ったろ。まだ二十分しか経ってないぞ」
「仕方ないだろ、子どもと二人きりじゃ心細かったんだ」
「二人きり???」

 改めて室内を見回してみれば、この時間帯ならば必ず居るであろう人物の姿が見当たらなかった。

「……ケンタ、寧花ねいかさんは?」
「出てった」

 それを聞いて、ようやく龍之介は理解した。謙太がここまで慌てふためいて取り乱していた理由を。

「えー……つまり、奥さんが子ども置いて家出したってことか?」
「……その通りです」

 今は火曜日の夜九時半。
 謙太はもちろん明日も仕事だ。
 しかし、奥さんがいなければ昼間子どもの面倒を見てくれる人はいない。

「いつから?」
「い、一時間くらい前に、オレが帰ってきたのと入れ替わりで旅行カバン持って出てった」
「連絡は?」
「携帯の電源切られてる」
「寧花さんの実家とか、共通の知り合いとかは」
「……実家には電話したけど繋がらなかった。寧花の友達の連絡先はわからん」

 尋ねる度にしょぼくれていく謙太の姿を見て、龍之介は呆れたように肩をすくめた。

 これは突発的な家出などではない。少なくとも数日前から計画されていたものだ。しかも、実家もグルになっている可能性が高い。

「……とにかく、この子を布団に寝かそう。これパジャマだよな? なら風呂は済んでるはずだ。……ていうか、いま何ヶ月だっけ?」
「二月生まれだから七ヶ月くらい?」
「じゃあ離乳食始まってるな。いま一回食? 二回食? まだミルクは飲んでるか?」
「わ、わからん。寧花がぜんぶやってて」
「休みの日に見たことくらいあるだろ」
「うーん、休みはずっと寝てるから……」

 このやり取りだけで謙太の奥さんが何故出て行ったのかを完全に理解してしまい、龍之介は頭を抱えた。

 この男、父親としての自覚がない。

 育児を妻に丸投げし、我が子の現在の状態すら把握していないのだ。

 龍之介は数回顔を合わせただけの寧花に心から同情した。そして、目の前にいる友人に対し、ふつふつと怒りを燃やした。
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