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本編
第10話:聞き込み開始
しおりを挟むマザーズバッグに必要なものを詰め込み、出掛ける支度をする。
「まず紙オムツだろ、おしり拭きだろ。使用済みオムツ入れるビニール袋。あと着替え二セット。腹減るかもしれないからミルク用のお湯を水筒に入れて……うーん、何か忘れてる気がする……あっ、母子手帳!」
「え、待って待って。既にカバンがパンパンなんだけど? 更に陽色抱っこしていくんだろ? 総重量何キロだよ!」
「知らないのか。世の母親はみんな出掛ける時にこれくらい持ってんだぞ」
「マジか……」
龍之介が用意した荷物を試しに持ってみて、謙太は思わず天を仰いだ。中身が書類とタブレットPCのみの仕事用カバンとは比べ物にならない重さだったからだ。
続けて抱っこ紐のベルトを調整して装着する。
「エッ、これどうやって外すの?」
「こことここの留め具を外せばいい。ちゃんと陽色の身体をもう片方の手で支えながらだぞ?」
「難易度高い……!」
「たしかに、慣れるまでは使いにくいかもしれん。育児サークルに着いたら係りの人に手伝ってもらえ」
「わ、わかった」
なんとか支度を終え、一緒に部屋を出る。
いつもより目線の高さが違うからか、陽色は抱っこ紐の中でキョロキョロと落ち着かない様子だった。エレベーターで下まで降り、マンションのエントランスを出る。
平日の午前十時少し前。
住宅街は人通りもまばらだ。
「じゃあ、俺は駅だからこっち行くわ。ケンタは市民館だからそっちな。頑張って聞き込みしてこいよ」
「……オレひとりで行くの?」
「陽色が一緒だろ。じゃあな」
マンションを起点に別れ、龍之介は自宅へ、謙太は育児サークルの会場である市民館へと向かった。
龍之介の手には先程謙太から渡された合い鍵がある。どこのゆるキャラかよく分からないキーホルダーがついたそれが何故かとても大事なものに思えて、駅に向かう道中何度もポケットの中で握りしめた。
謙太は重い足取りで市民館へと向かっていた。
平日の昼間である。
普通なら成人男性はみな仕事をしている時間帯だ。それなのに、自分は私服で子どもを抱っこしている。道行く人全員からジロジロ見られているような気がして、謙太はずっと落ち着かなかった。
徒歩十分ほどの場所に市民館はあった。
選挙の投票をする時くらいしか足を踏み入れたことがない場所だ。謙太は恐る恐る自動扉をくぐり、内部へと入った。掲示板の『本日の利用状況』欄に目的の育児サークル名を発見し、ホッと息をつく。
場所を確認してから会場に行くと、そこでは既に数組の親子が遊んでいた。
入り口にいた受付係の年配女性に声を掛けると、陽色に見覚えがあったようで笑顔で出迎えられた。
「あらぁ、今日はパパが一緒なのね! 良かったわね、ひー君」
「えーと、オレは初めて来たんで色々教えてもらっていいですか」
「もちろん! あ、抱っこ紐外せる? 手伝うわね」
人の良さそうな係員に助けられ、無事陽色を下ろすことが出来た。その後、利用者名簿に名前を記入する。
「妻はよくここに来てるんですか」
「ええ、毎週水曜に集まるんだけど、ひー君が生後四ヶ月くらいの頃から毎回来てくれてますよ」
「じゃあ、仲の良い人とか……」
「常連さんとは大体仲良しだけど、一番お話してたのは緒田さんかしら。ほら、あの人」
そう言って教えてもらったのは、陽色と同じ月齢の子どもを持つ母親だった。
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