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本編
第11話:寧花の悩み
しおりを挟む育児サークルの係員に教えてもらった女性の側に行き、謙太は思い切って声を掛けた。
「あの、はじめまして。陽色の父親です」
「あらァ、ひー君のパパ? どうも、はじめまして~」
緒田さんは人当たりの良さそうな女性だ。彼女の息子は陽色の姿を見つけると嬉しそうに這い寄ってきた。仲が良いのは本当らしい。
「今日ひー君ママは?」
「えっと、ちょっと体調崩してて。なので代わりに連れて来ました」
「良いパパね~! うちのダンナなんて、頼んでも育児サークルなんか来てくれないわよ」
それを聞いて、謙太は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。何故なら彼も今朝龍之介から聞くまで、近所の市民館でこういった集まりがあることすら知らなかったのだから。
「お子さん、陽色と同じ月齢なんですか」
「そうよ~今八ヶ月。誕生日も二日違いでね」
「へえ……」
少し離れた場所で遊ぶ様子を眺めていると、緒田さんの子どものほうがひと回り大きいような気がした。
「……うちの陽色が小さいのかな」
謙太の呟きに緒田さんは笑みを消した。
「ひー君ママも気にしてたわ。六ヶ月検診でも身長体重が小さめなのを指摘されてね、病院で検査するって言ってたもの」
「え、知らなかった」
「結局異常はなかったそうだから、パパには言わなかったのかも」
「そうなんですね。いや、最近妻の元気がなかったから、どうしたのかと思って」
「成長は個人差あるからね~。一人目の子どもだから、お医者さんから何か言われたら気にしちゃうわよね~」
更に話をした結果、緒田さんは寧花と連絡先の交換はしていなかった。毎週必ず育児サークルで顔を合わせるのだから特に必要なかったのだろう。
聞き込みの目的は果たせなかったが、寧花が悩みを抱えていたことだけは分かった。
それから一時間ほど遊ばせた後、育児サークルが終了し、謙太は帰路についた。抱っこ紐の再装着は緒田さんが手際良く手伝ってくれた。
マンションに帰ると、まだ龍之介は戻っていなかった。
がらんとした部屋に陽色と二人きりという状況に謙太は慣れていない。とりあえず抱っこ紐を外して陽色を下ろし、ひと息つく。
「……リュウ、早く帰ってこないかなぁ」
自然と洩れた呟きに、謙太は思わず口を覆った。
違うだろう。
帰ってきてほしいのは寧花のはずだ。
それなのに、何故。
ピンポーン。
玄関のチャイムの音にビクッと体を揺らし、慌ててインターホンを確認する。そして、モニター画面に映し出された見慣れた友人の姿に、謙太はホッと表情を緩めた。
「合い鍵渡しただろ! 勝手に入ってこいよ」
「そーゆーわけにはいかないだろ」
玄関のドアを開けて出迎えると、大きな旅行カバンを抱えた龍之介が立っていた。
彼の家までの距離を考えれば、帰って荷物をまとめ、すぐに戻ってきてくれたのだと分かった。謙太は嬉しくなって、龍之介の手から旅行カバンを奪い取ってリビングまで運んだ。
「昼メシどーすっか」
「駅で弁当買ってきた」
「マジか。やった!」
「陽色はおかゆな。冷凍庫にストックあったから、それ使わせてもらおう」
しかし、部屋に入るなり龍之介の表情が変わった。
「……おまえ、出先でオムツ替えた?」
「あ、替えてない」
「陽色うんち漏れてるぞ。服まで濡れてる」
「え? ……ああーッ! ホントだ!!」
弁当にありつけたのは陽色の着替えと部屋の換気を済ませてからだった。
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