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第28話:風邪 2
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
出勤する謙太を見送ったあと、龍之介はすぐに寝室に戻り、窓を開けて空気を入れ替えた。
ベッドは二つある。
謙太に風邪を移さぬよう、仕事部屋のベッドで休むことに決めた。ヘッドボードにはスポーツ飲料を置き、いつでも飲めるようにしておく。タオルでくるんだ氷枕を頭の下になるように置いて横になった。
少し動いたからか、さっき計った時より体温が上がっている。薬が効くまで時間が掛かる。大人しく目を閉じて布団をかぶり、身体を休めた。
一人暮らしで体調を崩したのは一度や二度ではない。その度に独りで乗り越えてきた。身体が弱ると人恋しくはなるが、治るまで眠ってしまえば関係ない。
ただ、今の龍之介は一人では眠れない。
目を閉じているだけで頭は起きている。
ぼんやりしていると、不意に過去のことを思い出す。一番鮮明に思い出されるのはやはり二年前の出来事で、その度にうとうとしかけていた意識が覚醒してしまう。
これまで使ってきたベッドなのに、謙太が買った新しいベッドに慣れたせいか狭く感じた。一人で暮らしていた時に戻ったような感覚に襲われる。
──独りはいやだ。
暗い気持ちに引き摺られないよう楽しい記憶を呼び起こそうとすると、そこには必ず謙太がいた。
性格は真逆なのに初めて会った頃から妙に気が合った。高校の三年間は大体一緒にいた。大学が違っても毎週のように予定を合わせて遊んだ。卒業間近、恋人と別れた頃に少し間が空いたくらいで、就職してからは月一で飲む仲になった。
でも、謙太が結婚してからはほとんど会わなくなった。
それが今、色々あって一緒に暮らしている。
『色々』の部分を思い出すと後悔ばかりで、龍之介は口の端を歪めて笑った。
自分がもっと上手く立ち回れば、謙太は離婚せずに済んだんじゃないか。
龍之介の中にあるその思いは未だに消えていない。
バタバタと外から慌ただしい足音が響く。仕事部屋は玄関のすぐ脇にあり、マンションの共有通路の音が聞こえやすい。
その大きな足音に目を開けて窓を見れば、すっかり日は落ちていた。いつのまにか薬が効いて眠ってしまっていたらしい。
横になったまま龍之介がぼんやりしていると、玄関のドアがガチャガチャと音を立てたあと勢いよく開いた。騒音の主はまず奥の寝室に向かい、その後で仕事部屋にやってきた。
「……リュウ、起きてる?」
「おまえがうるさくて目が覚めた」
「わ、悪い」
言いながら、謙太はベッドの脇に腰を下ろした。心配そうに覗き込んでくるから、気恥ずかしさで龍之介は顔を背けた。
「寝室にいなかったからびっくりした」
「同じ部屋じゃ風邪移るだろ」
「オレ移ってもいいよ」
「ばか。誰が看病すると思ってんだ」
以前、謙太が高熱を出した時も龍之介が看病した。その時のことを思い出し、二人で苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、リュウの看病はオレがやんなきゃな」
「……唐揚げ弁当だけはやめろよ」
口頭での指導のもと、夕食の卵とじうどんは謙太が作った。ぬるくなった氷枕も作り直した。それ以外にも甲斐甲斐しく世話を焼いた。
夜に別々の部屋で寝ようとしたが断固拒否されため、お互いマスクを着用の上で寝室のベッドで寝た。
一緒に眠ると悪夢を見ずに済む。
それが何よりの看病だと龍之介は思った。
出勤する謙太を見送ったあと、龍之介はすぐに寝室に戻り、窓を開けて空気を入れ替えた。
ベッドは二つある。
謙太に風邪を移さぬよう、仕事部屋のベッドで休むことに決めた。ヘッドボードにはスポーツ飲料を置き、いつでも飲めるようにしておく。タオルでくるんだ氷枕を頭の下になるように置いて横になった。
少し動いたからか、さっき計った時より体温が上がっている。薬が効くまで時間が掛かる。大人しく目を閉じて布団をかぶり、身体を休めた。
一人暮らしで体調を崩したのは一度や二度ではない。その度に独りで乗り越えてきた。身体が弱ると人恋しくはなるが、治るまで眠ってしまえば関係ない。
ただ、今の龍之介は一人では眠れない。
目を閉じているだけで頭は起きている。
ぼんやりしていると、不意に過去のことを思い出す。一番鮮明に思い出されるのはやはり二年前の出来事で、その度にうとうとしかけていた意識が覚醒してしまう。
これまで使ってきたベッドなのに、謙太が買った新しいベッドに慣れたせいか狭く感じた。一人で暮らしていた時に戻ったような感覚に襲われる。
──独りはいやだ。
暗い気持ちに引き摺られないよう楽しい記憶を呼び起こそうとすると、そこには必ず謙太がいた。
性格は真逆なのに初めて会った頃から妙に気が合った。高校の三年間は大体一緒にいた。大学が違っても毎週のように予定を合わせて遊んだ。卒業間近、恋人と別れた頃に少し間が空いたくらいで、就職してからは月一で飲む仲になった。
でも、謙太が結婚してからはほとんど会わなくなった。
それが今、色々あって一緒に暮らしている。
『色々』の部分を思い出すと後悔ばかりで、龍之介は口の端を歪めて笑った。
自分がもっと上手く立ち回れば、謙太は離婚せずに済んだんじゃないか。
龍之介の中にあるその思いは未だに消えていない。
バタバタと外から慌ただしい足音が響く。仕事部屋は玄関のすぐ脇にあり、マンションの共有通路の音が聞こえやすい。
その大きな足音に目を開けて窓を見れば、すっかり日は落ちていた。いつのまにか薬が効いて眠ってしまっていたらしい。
横になったまま龍之介がぼんやりしていると、玄関のドアがガチャガチャと音を立てたあと勢いよく開いた。騒音の主はまず奥の寝室に向かい、その後で仕事部屋にやってきた。
「……リュウ、起きてる?」
「おまえがうるさくて目が覚めた」
「わ、悪い」
言いながら、謙太はベッドの脇に腰を下ろした。心配そうに覗き込んでくるから、気恥ずかしさで龍之介は顔を背けた。
「寝室にいなかったからびっくりした」
「同じ部屋じゃ風邪移るだろ」
「オレ移ってもいいよ」
「ばか。誰が看病すると思ってんだ」
以前、謙太が高熱を出した時も龍之介が看病した。その時のことを思い出し、二人で苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、リュウの看病はオレがやんなきゃな」
「……唐揚げ弁当だけはやめろよ」
口頭での指導のもと、夕食の卵とじうどんは謙太が作った。ぬるくなった氷枕も作り直した。それ以外にも甲斐甲斐しく世話を焼いた。
夜に別々の部屋で寝ようとしたが断固拒否されため、お互いマスクを着用の上で寝室のベッドで寝た。
一緒に眠ると悪夢を見ずに済む。
それが何よりの看病だと龍之介は思った。
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