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第36話:独占欲
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
「今日晩メシどっかで適当に食べてきて」
「珍しいな。夜に出掛けんの?」
「お客さんとこのお店にな。新メニューの写真撮ったり打ち合わせしたりするついでにメシ食ってくる」
「ふーん」
龍之介の仕事はフリーのWEBデザイナーだ。地元の小さな会社を始め、商店街の個人商店や飲食店などを顧客に持っている。対応が早く、同業と比較しても安価なためリピート率が非常に高い。
龍之介の人当たりの良さも関係している。特に年配の女性からの受けが良く、時折その繋がりで新規のお客を紹介してもらっている。
「写真もリュウが撮んの?」
「モノによってはプロに頼むけど、簡単なものならな。自分で撮って加工した方が安く出来るから」
「なるほど」
一人で作業することで経費を抑える努力をしている。ちなみにホームページにSNSを組み合わせることで新商品やセールの宣伝などは龍之介を通さなくても顧客自身で手軽に更新出来るよう、その辺りのアドバイスも行なっている。
「今の人はスマホで調べてからでないと知らない店には入らないからな。それが小さな個人店なら尚更。まずは何の店だか知ってもらわないと」
仕事柄パソコンは使うものの、サイトの作成や画像の加工などはやったことがない。謙太は改めて龍之介の仕事の凄さを理解した。
しかし。
「一人でメシかあ……」
「同僚と飲みにいけば?」
「ええ~……」
「我儘言うな。はよ仕事行け」
ぐずる謙太を玄関まで追い立てる。
「気を付けてな」
「ん、リュウも」
見送りの際のハグにキスが加わった。
名残惜しそうに身体を離し、謙太は肩を落として出勤していく。龍之介は扉が閉まった後もしばらく玄関から離れられずにいた。
こんな日に限ってキッカリ定時で上がれてしまい、謙太は憂鬱な気持ちで電車に乗っていた。
会社の近くに繁華街があるが立ち寄る気にもなれず、つい真っ直ぐ帰ってきてしまった。引っ越して以来、最寄り駅付近の飲食店を利用したことがない。
「はあ、どっか適当な店に入るか……」
久々に侘しい一人飯になりそうだ、と謙太は深い溜め息をついた。
駅の改札を出て辺りを見回し、めぼしい店を探していると、見慣れた人影が目に入った。
龍之介だ。
小さな洋風居酒屋の前でカメラを構え、外観写真を撮っている。龍之介の仕事現場を見るのは初めてで、謙太は離れた場所からその様子を眺めていた。
角度や立ち位置を変えて何度もシャッターを切り、その度に店主と思われる男性にデジタルカメラの画面を見せている。龍之介の肩越しに三十代後半くらいの渋めの男性店主が覗き込む。顔と顔の位置が近い。
それを見た瞬間、謙太の足は勝手に走り出していた。
「リュウっ!」
「あれ、ケンタ」
店主とやや密着したまま龍之介が顔を上げた。焦った表情の謙太とは対照的に笑顔である。これは顧客の前だからか、それとも出先で謙太に会えたからか。
「纏くん、お友達?」
「えーと、同居人です」
店主の質問に答える際に振り向こうとした龍之介を謙太の手が止めた。そのまま後ろを向くと店主の顔が更に近くなるからだ。
「……なんだよ。まだ仕事中だぞ」
困ったように小声で窘める龍之介。
確かに邪魔しているのは分かるが、謙太はそれどころではなかった。
「あのっ、ここ、メシ食えますか?」
「うん? もちろん」
「食事したいんだけど、今からいっすか」
「おや、嬉しいね」
これ以上龍之介と他の男がくっついている姿を見たくないが、目を離すのはもっと嫌だ。その一心で謙太はこの店で食事を取ることに決めた。
元々一人で食べる予定だったのだ。それが偶然龍之介の顧客の店になっただけ。
新メニューの撮影も終わり、龍之介が謙太の隣に座った。撮影用の料理をそのまま食べさせてもらうのだ。カウンター席のみの小さな店だ。厨房からの距離も近い。
「最近食べに来てくんなかったから飽きられたかと思ってたよ」
「すみません。自炊することが増えたので」
謙太と暮らし始める前はちょくちょく来店していたということだ。昔の話とはいえ、謙太は店主に対して悔しい気持ちを感じていた。
「今度からはコイツと一緒に来ます」
「待ってるよ、二人とも」
そんなモヤモヤした気持ちは龍之介のこのひと言で吹き飛ばされた。その気持ちを知ってか知らずか、店主は笑いながらカウンター越しに謙太の肩を気安く叩いた。
「今日晩メシどっかで適当に食べてきて」
「珍しいな。夜に出掛けんの?」
「お客さんとこのお店にな。新メニューの写真撮ったり打ち合わせしたりするついでにメシ食ってくる」
「ふーん」
龍之介の仕事はフリーのWEBデザイナーだ。地元の小さな会社を始め、商店街の個人商店や飲食店などを顧客に持っている。対応が早く、同業と比較しても安価なためリピート率が非常に高い。
龍之介の人当たりの良さも関係している。特に年配の女性からの受けが良く、時折その繋がりで新規のお客を紹介してもらっている。
「写真もリュウが撮んの?」
「モノによってはプロに頼むけど、簡単なものならな。自分で撮って加工した方が安く出来るから」
「なるほど」
一人で作業することで経費を抑える努力をしている。ちなみにホームページにSNSを組み合わせることで新商品やセールの宣伝などは龍之介を通さなくても顧客自身で手軽に更新出来るよう、その辺りのアドバイスも行なっている。
「今の人はスマホで調べてからでないと知らない店には入らないからな。それが小さな個人店なら尚更。まずは何の店だか知ってもらわないと」
仕事柄パソコンは使うものの、サイトの作成や画像の加工などはやったことがない。謙太は改めて龍之介の仕事の凄さを理解した。
しかし。
「一人でメシかあ……」
「同僚と飲みにいけば?」
「ええ~……」
「我儘言うな。はよ仕事行け」
ぐずる謙太を玄関まで追い立てる。
「気を付けてな」
「ん、リュウも」
見送りの際のハグにキスが加わった。
名残惜しそうに身体を離し、謙太は肩を落として出勤していく。龍之介は扉が閉まった後もしばらく玄関から離れられずにいた。
こんな日に限ってキッカリ定時で上がれてしまい、謙太は憂鬱な気持ちで電車に乗っていた。
会社の近くに繁華街があるが立ち寄る気にもなれず、つい真っ直ぐ帰ってきてしまった。引っ越して以来、最寄り駅付近の飲食店を利用したことがない。
「はあ、どっか適当な店に入るか……」
久々に侘しい一人飯になりそうだ、と謙太は深い溜め息をついた。
駅の改札を出て辺りを見回し、めぼしい店を探していると、見慣れた人影が目に入った。
龍之介だ。
小さな洋風居酒屋の前でカメラを構え、外観写真を撮っている。龍之介の仕事現場を見るのは初めてで、謙太は離れた場所からその様子を眺めていた。
角度や立ち位置を変えて何度もシャッターを切り、その度に店主と思われる男性にデジタルカメラの画面を見せている。龍之介の肩越しに三十代後半くらいの渋めの男性店主が覗き込む。顔と顔の位置が近い。
それを見た瞬間、謙太の足は勝手に走り出していた。
「リュウっ!」
「あれ、ケンタ」
店主とやや密着したまま龍之介が顔を上げた。焦った表情の謙太とは対照的に笑顔である。これは顧客の前だからか、それとも出先で謙太に会えたからか。
「纏くん、お友達?」
「えーと、同居人です」
店主の質問に答える際に振り向こうとした龍之介を謙太の手が止めた。そのまま後ろを向くと店主の顔が更に近くなるからだ。
「……なんだよ。まだ仕事中だぞ」
困ったように小声で窘める龍之介。
確かに邪魔しているのは分かるが、謙太はそれどころではなかった。
「あのっ、ここ、メシ食えますか?」
「うん? もちろん」
「食事したいんだけど、今からいっすか」
「おや、嬉しいね」
これ以上龍之介と他の男がくっついている姿を見たくないが、目を離すのはもっと嫌だ。その一心で謙太はこの店で食事を取ることに決めた。
元々一人で食べる予定だったのだ。それが偶然龍之介の顧客の店になっただけ。
新メニューの撮影も終わり、龍之介が謙太の隣に座った。撮影用の料理をそのまま食べさせてもらうのだ。カウンター席のみの小さな店だ。厨房からの距離も近い。
「最近食べに来てくんなかったから飽きられたかと思ってたよ」
「すみません。自炊することが増えたので」
謙太と暮らし始める前はちょくちょく来店していたということだ。昔の話とはいえ、謙太は店主に対して悔しい気持ちを感じていた。
「今度からはコイツと一緒に来ます」
「待ってるよ、二人とも」
そんなモヤモヤした気持ちは龍之介のこのひと言で吹き飛ばされた。その気持ちを知ってか知らずか、店主は笑いながらカウンター越しに謙太の肩を気安く叩いた。
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