【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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第X X話・過去との決別 1

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──こんなはずじゃなかった。

 彼女は泣き止まない幼い我が子を抱きながらスマホの画面を睨みつけた。夫から届いた短いメッセージには『今日も接待』『先に寝てて』と書いてある。

「これでどう寝ろって言うのよ!」

 生後半年の我が子はとにかく手が掛かる。ベビーベッドを嫌い、抱いて揺らし続けねばすぐに泣く。彼女が自由になれる時間などほとんどない。

 恋人と別れ、親に勧められた相手と見合い結婚をして、可愛い子どもに恵まれた。夫は上場企業に勤めており、収入も家柄も申し分ない。

 だが、家庭をかえりみることはなかった。

 初めての出産は実家に頼りきり。
 夫が子どもの機嫌が良い時に数分抱っこするくらいで、それ以外は何もしない。

 里帰りから自宅に帰った今、彼女はひとりで頑張るしかなかった。

 ふと、前の恋人を思い出す。

 彼はいつでも彼女を優先してくれた。とても大事にしてくれた。思いやりがあり、面倒見も良かった。

 しかし、彼には重大な欠陥があった。
 先天的に子どもが作れない体質だったのだ。

 跡継ぎが欲しいから彼と別れた。今でもその選択に後悔はない。彼と一緒にいたら子どもに恵まれないからだ。

 でも、

「そうだわ。龍之介りゅうのすけくんなら……」

 眞耶まやは腕の中の我が子を見つめながら、アハハ、と乾いた笑い声を上げた。





 平日の昼間。
 龍之介が仕事部屋でパソコン作業をしていると、スマホに着信があった。連絡先未登録の番号からだ。

 フリーランスという仕事柄、既存の顧客が知人に龍之介の連絡先を教えることもある。いきなり知らない人から問い合わせの電話やメールが来ることも珍しくはない。

 今回もそうだろう、と龍之介は軽い気持ちで通話ボタンを押して応答した。


『……龍之介くん?』

 名前を呼ばれ、思わずスマホを耳から離す。

「え、あ、なんで……」

 声を聞いただけですぐ分かった。電話の相手は眞耶だった。二年前、無精子症を理由に龍之介を捨てた元恋人。

 彼女との別れは龍之介のトラウマになっていた。捨てられてしばらくの間は何も出来ず、勤め先の会社も辞めて引きこもった。スマホも解約し、住む場所も変えた。時間を掛け、ようやく普通の生活が送れるようになったところだ。

 それなのに、何故今ごろになって。

「どうして、この番号を……」
『パパに頼んで調べてもらったの』
「……っ」

 龍之介は唇を噛んだ。眞耶の父親から手切金を無理やり握らされた時のことを思い出し、額に嫌な汗が浮かぶ。

『あの時はごめんなさい。私、龍之介くんにちゃんと謝りたくて。良かったら一度会って話さない?』
「……は、話すことなんか」

 きっぱり拒絶したいのに、龍之介はそれ以上言葉を続けられなくなった。

 一時は本気で結婚を考えた相手だ。声を聞いているだけで色んな思い出が蘇ってくる。邪険に扱うなど出来るはずがない。
 眞耶はそんな龍之介の性格を知った上で、一方的に会う約束を取り付けた。



 
 帰宅した謙太けんたは、龍之介の様子がいつもと違うことにすぐ気付いた。

「どうした、体調悪い?」
「あ、いや……なんでもない」

 そう答えてはいるが、夕食はほとんど食べていなかったし、ぼんやりと考え事をしている。思い詰めたような表情に、謙太は不安を覚えた。

「リュウ、困ってるならオレに話せ」
「ケンタ……」

 何度も問われ、龍之介は重い口を開いた。

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