【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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第X X話・過去との決別 2

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 週末、数駅離れた町に二人はやってきた。駅前の喫茶店で眞耶と会う約束をしている。謙太は付き添いとして同席することにした。

 元恋人と二人きりにしたくないだけだが、それ以上に龍之介が心配だった。どんな話であれ、トラウマの元凶と会うのだ。また精神的にダメージを負いかねない。

「龍之介くん。この人だぁれ?」
「……友だち。いま一緒に住んでる」
「ふぅん。まぁいいけど」

 龍之介の隣に陣取る謙太。
 同居の友人と聞いて、眞耶はすぐ興味を失った。

 今日の彼女は長い髪をゆるく巻き、膝下丈の淡い色のワンピースを着ている。子どもは預けてきたのか、この場にはいなかった。

「眞耶、話って……」

 龍之介は目の前のテーブルに置かれたコーヒーをスプーンで混ぜ続けている。視線はずっと下に向けられ、正面に座る彼女を見ようともしない。龍之介がかなり無理をしてこの場にいると謙太は感じた。

 当時の経緯は軽く聞いただけだが、彼女が龍之介を捨てた理由は知っている。

 謙太はまっすぐ彼女を見据えた。
 細身で可愛らしい女性である。
 とても半年前に子どもを産んだとは思えない。

「あのね、私、夫とうまくいってないの」

 カップを持ち上げ、ふうと息を吹き掛けてコーヒーを冷ましながら眞耶は話し始めた。

「だから、夫と別れて龍之介くんとやり直したくて」

 思いがけない言葉に、龍之介と謙太が同時に「はぁ?」と声を上げた。龍之介は席についてから初めて顔を上げ、正面に座る眞耶の顔をまじまじと見つめた。

 彼女は悪びれることもなく、当たり前の提案だと言わんばかりに堂々としている。

「ダンナさんに浮気でもされたんすか」

 謙太が尋ねると、眞耶は首を横に振った。

「家庭を顧みないだけよ。子どもの世話を私に丸投げして、たまに抱っこするだけで父親面してるの。さいあく」

 その回答に謙太は呻いた。寧花ねいかとの結婚生活がまさにそうだったからだ。性格や価値観の不一致は離婚事由に成り得る。

「……子どもは?」
「今日は実家に預けてる。離婚したら、もちろん私が引き取るわ」

 先日小児科で偶然遭遇した際に、彼女は赤ちゃんを抱いていた。龍之介を捨てた後すぐ結婚した今の夫との間に生まれた子だ。
 乳幼児の場合、よほど非がない限り母親が引き取ることになる。眞耶の返答には納得できた。

「だから、もう跡継ぎ問題で悩まなくていいのよ。龍之介くんとの結婚に何の障害もなくなったの」

 嬉しそうに微笑む眞耶に、龍之介は絶句した。

「もともと嫌いで別れたんじゃないもの。子どもが出来ないことだけが問題だったんだから」

 ブライダルチェックで無精子症と診断されるまで、龍之介と眞耶は仲睦まじい恋人同士だった。
 検査結果を見た途端に別れを切り出し、縋る龍之介に手切金まで渡して縁を切った。その後、眞耶は親がセッティングした見合い相手とすぐに結婚し、子どもを授かった。

 全ては子どもが欲しかったから。

 もう子どもは生まれた。あとは夫をすげ替えれば眞耶は幸せになれる。

「前に会った時、龍之介くんはお友達の子どもを病院に連れてきてたでしょ? あれを見て『やっぱり龍之介くんしかいない!』って思ったの」

 陽色ひいろが熱を出した時のことだ。あの時、謙太は職場に呼び出され、龍之介が代わりに連れて行った。

 小児科の待合室で二年ぶりに再会した。
 お互い幼な子を連れて。

「うちの夫だったら子どもが熱を出しても病院に付き添いもしないわ。その点、龍之介くんは昔から面倒見が良かったもの。子どものお世話も出来るし、すぐに良いパパになれるわ」

 眞耶が夫を責める言葉を吐くたびに、謙太はかつての自分を責められているようで辛くなった。それ以上に、彼女に龍之介の存在を思い出させたのが自分の愚行のせいだと分かり、唇を噛む。

 龍之介は呆然と眞耶を見つめていた。
 持っていたスプーンが手から落ち、コーヒーがテーブルにはねた。顔色が悪い。先ほどから一言も発していない。

 これ以上、眞耶の話を聞かせるのは無理だと謙太は判断した。

「……リュウ、大丈夫か?」

 小声で話し掛けると、龍之介は謙太のほうを向くことなく、無言で小さく首を横に振った。いつの間にかテーブルの上に置いていた手が下に下ろされ、隣に座る謙太の服の裾をぎゅっと掴んでいる。

「悪いけど、その話はお断りします!」

 そう断った上で、謙太は龍之介の肩を抱いて席を立った。

「あなたには関係ないでしょ。私と龍之介くんの話なのよ」

 単なる付き添いに過ぎない謙太に場を仕切られ、眞耶は明らかに気分を害した。表情は変わらないが、声がやや冷ややかになっている。

「見て分かんねーのかよ。リュウはあんたとこれ以上話をしたくねえんだ」
「龍之介くんのことは私が一番よく分かってるわ。部外者のくせに口を挟まないで!」

 眞耶の声を聞くたびにビクッと肩を揺らす龍之介。限界が近い。

「全っ然分かってねーよ」

 飲み物代をテーブルに叩きつけ、憤る眞耶を置き去りにして、謙太は龍之介を喫茶店から連れ出した。

 駅前の雑踏に紛れ、肩を抱いたまま歩く。道の先にベンチを見つけて龍之介を座らせた。目の前に膝をつき、手を握って見上げる。

「勝手に出てきちゃったけど良かった?」
「う、うん」
「リュウ、大丈夫か」
「……だ、大丈夫」

 弱々しい声で答える龍之介の顔色はまだ悪かった。



 

 

 










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