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26話・頼ってほしい
しおりを挟むアルケイミアからの追っ手は神官長から依頼されたと聞き、ルーナは不安に陥った。俯くルーナの手を取り、ティカが勢いよくテーブルを叩く。
「考えてもわからないことはこの際置いておきましょう! 今後どうするか決めるほうが先ですよ!」
仕切り直す快活な声に、ラウリィは目を細めた。大人しくて落ち込みがちなルーナと、無愛想で口数が少ないリヒャルト。言葉だけでは沈んだ空気を変えられなかった。しかし、ティカの明るさが周囲だけでなくこの先の道を照らしてくれたようにラウリィには感じられた。
「実は、僕たちの隊は数日後には王都に帰還する予定なんだよね」
「そうでしたの」
「都市と街道警備が終わる時期だからな。次の隊に引き継ぎを済ませたら任務完了だ」
シュベルトの王都を守るように四方に配置された都市に拠点を置き、周辺地域の魔獣退治や街道警備に従事することが騎士団の主な任務だ。王都警備や他の都市担当と約五十日ごとに隊を入れ替えている。
「では、ここでお別れですね」
当たり前のようにルーナが言うと、リヒャルトが眉間のしわを深くした。不機嫌さを隠しもせず舌打ちをする。
「おまえたちも王都に来い」
「え、でも」
突然の誘いに困惑するルーナに、リヒャルトは更に追い打ちをかける。
「この先、女だけで転々としながら生きていくつもりか? 追われる身で」
「……っ」
指摘され、ルーナは何も言えなくなった。
これまでの道中、危険な目に遭わなかったのは運が良かったからではない。シュベルトの主な街道が騎士団によって警備されているからだ。昨夜のように夜間に移動する場合、本来は別途護衛を頼まねば安全は確保できない。
今後も自分たちだけで逃げ続けるつもりならば、生活費だけでなく護衛依頼料も稼ぐ必要がある。女が二人だけで誰にも頼らず生きていくためには乗り越えねばならない壁が幾つも存在しているのだ。
「アルケイミアの神官長が遣わした追っ手だろうが隣国の王都では好き勝手な真似はできん。それに、小さな街にいるより見つかりにくいはずだ」
「そうそう。ほとぼりが冷めるまで僕たちを頼ればいいんだよ。せっかく知り合えたんだからさ」
それに、とラウリィは言葉を続ける。
「まだ治癒のハンカチの交渉がまったく進んでないんだよね。少しは前向きに考えてくれる気になった?」
すっかり忘れていた、とルーナとティカは顔を見合わせた。数秒真顔で見つめ合った後、ふふっと笑う。
「私たちを助けたって面倒事に巻き込まれるだけですのに。アルケイミアとの関係が悪くなってしまうかもしれませんのよ?」
ルーナを匿っていると明らかになればアルケイミアに対する敵対行為と見做され、下手をすれば外交問題にも発展しかねない。ハンカチの取り引きを断り、その日のうちに逃げた理由は、彼らを自分の問題に巻き込みたくなかったからだ。
念を押すようにルーナが問うと、リヒャルトとラウリィも数秒顔を見合わせた後、ハハッと笑った。
「最初に面倒事に首を突っ込んだのはおまえだろう。見ず知らずの怪我人に情けをかけて」
「リヒャルトを助けてもらった御礼、まだしてないからね。僕たちにも動くだけの理由がある。だから、遠慮せず頼ってほしい」
二人の青年の眼は真っ直ぐだ。真摯な言葉に、ルーナの心が大きく揺さぶられる。男はみな恐ろしい存在だと思い込んでいたけれど、この二人なら信じられる気がした。
「よろしくお願いいたします」
ルーナが立ち上がって深々と頭を下げ、ティカも一瞬遅れて隣で頭を下げる。ラウリィは頭を上げさせ、握手を求めた。男性恐怖症気味のルーナに代わり、ティカがその手を取ってブンブンと上下に振り、満面の笑顔で誤魔化す。
こうして、ルーナの王都行きが決まった。
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