4 / 43
王太子と共に工事現場の視察にやってきました
しおりを挟む王太子であるローガン様は貴族学院を卒業後に国王陛下の補佐となった。幾つか仕事を任され、実際に国政に携わっている。
貴族学院入学時からの友人で、現在側近を務める私が個人的に軍務大臣と親交があるためか、軍関連の仕事を増やされたらしい。
父が内務大臣を務めているので内政関連の仕事も回されている。これはローガン様にではなく私に対するものだ。父はいずれ跡を継いでほしいと考えているようだが、私にはそのつもりはない。直接言われたことも一度や二度ではない。だが、その度に「ローガン様に仕えているので」と断ってきた。
しかし、父は引き下がらない。ローガン様を通じて少しずつ自分の仕事を私に回すという暴挙に出たのだ。表向きはローガン様に割り振られており、私が逃げればローガン様の仕事が増えてしまう。ただでさえも多忙な王太子殿下に押し付けるわけにもいかず、嫌々関わるという日々が続いていた。
今日の視察も本来は内務大臣である父の仕事だ。肩書きも権力もない私が一人で見て回っても意味がないので、ローガン様が足を運んでくれることになったという経緯である。
王宮前に用意されていた馬車に乗り込み、視察先へと移動する。狭い馬車の中、肩が触れそうなくらいの座席に座る。隣を見れば、ローガン様は車窓から見える景色を眺めていた。
「おっと」
車輪で小石を跳ねてしまったのか、車体が大きく揺れた。バランスを崩したローガン様の体を咄嗟に腕を伸ばして支える。昨夜以来の接触に私の胸が高鳴った。
「大丈夫ですか、ローガン様」
「ああ」
すぐに体を離して座り直したが、動悸はなかなか治らなかった。
それにしても、あの程度の揺れでローガン様が体勢を崩すなんて珍しい。私ほどではないが、幼い頃から鍛えているので体幹は安定している。滅多なことでは揺らがないはずなのだが。
「これはこれはローガン殿下! 本日はわざわざこのようなむさ苦しい場所にお越しいただき誠に恐縮でございます」
王都郊外に流れる川のそばで小太りの中年男が私たちを出迎えた。川沿いにある農村地帯の領主で、護岸工事を請け負っている男爵である。あまり節制には興味がないようで、腹回りの上着のボタンが弾け飛びそうになっていた。すらりとしたローガン様と並ぶと体型の差がよくわかる。
「現場を見たい。すまないが案内を頼む」
「ははーっ、もちろんでございます!」
男爵はローガン様の数歩前を歩き、時々振り返りながら工事現場の中を案内していった。事前に視察が来ると知っていたからか、案内された経路は足元に板が敷かれており、ローガン様の靴が泥で汚れないように配慮されている。それは問題ないのだが、私には他に気になることが幾つかあった。
まず、作業員たちが一様に痩せ細っていて覇気がまったく感じられない。肉体労働なのだから屈強な男が携わっているものだと考えていたが、どう見ても弱々しくて年老いた者ばかり。
次に、工事の進み具合が異常に遅い。護岸工事自体は数年前から着工しており、予算もそれなりに割かれている。しかし、作業員たちの数は少なく、使用している道具も古いものばかり。これでは何年かかっても工事が終わりそうにない。
幸いここ数年は川が氾濫するような災害は起きていないが、もし大きな嵐が来たらどうなることか。
「あっ、大事な書類が」
私は懐から書類を取り出し、あたかも風で飛ばされたかのようにわざと手を離す。そばで作業していた初老の男が手を止め、わざわざ拾いに行ってくれた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ。汚れた手で触って申し訳ない」
書類を私に差し出しながら、初老の男はちらりと文面を見た。数行ほど読んだ辺りでカッと目を見開き、私に顔を向けてくる。男の真剣な表情を見て、私は確信した。
拾ってもらった書類を笑顔で受け取り、少し先で男爵から説明を受けている最中のローガン様へと歩み寄る。そして、耳元に唇を寄せ、「やはり予想の通りでした」と囁いた。ローガン様は小さく頷き、ギラリと金の瞳を輝かせている。
さあ、悪者退治の始まりだ。
45
あなたにおすすめの小説
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い
おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。
家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。
でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい!
二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……?
真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ
独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。
基本明るい受け視点。中~長編になります。
何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について
桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。
――それでも、心はまだ、生きたがっていた。
ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。
自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。
貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。
「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」
そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。
ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。
互いに死に場所を探していたふたり。
その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。
しかし、運命は安穏を許さない。
過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。
異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。
だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。
傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。
――これは、「終わり」が定められた者が、
「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
【完結】異世界はなんでも美味しい!
鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ
異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。
頭は良くない。
完結しました!ありがとうございますーーーーー!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる