【完結】断罪待ち悪役令息と絶対断罪しない王太子殿下

みやこ嬢

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王太子と共に工事現場の視察にやってきました

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 王太子であるローガン様は貴族学院を卒業後に国王陛下の補佐となった。幾つか仕事を任され、実際に国政に携わっている。

 貴族学院入学時からの友人で、現在側近を務める私が個人的に軍務大臣と親交があるためか、軍関連の仕事を増やされたらしい。

 父が内務大臣を務めているので内政関連の仕事も回されている。これはローガン様にではなく私に対するものだ。父はいずれ跡を継いでほしいと考えているようだが、私にはそのつもりはない。直接言われたことも一度や二度ではない。だが、その度に「ローガン様に仕えているので」と断ってきた。

 しかし、父は引き下がらない。ローガン様を通じて少しずつ自分の仕事を私に回すという暴挙に出たのだ。表向きはローガン様に割り振られており、私が逃げればローガン様の仕事が増えてしまう。ただでさえも多忙な王太子殿下に押し付けるわけにもいかず、嫌々関わるという日々が続いていた。

 今日の視察も本来は内務大臣である父の仕事だ。肩書きも権力もない私が一人で見て回っても意味がないので、ローガン様が足を運んでくれることになったという経緯である。

 王宮前に用意されていた馬車に乗り込み、視察先へと移動する。狭い馬車の中、肩が触れそうなくらいの座席に座る。隣を見れば、ローガン様は車窓から見える景色を眺めていた。

「おっと」

 車輪で小石を跳ねてしまったのか、車体が大きく揺れた。バランスを崩したローガン様の体を咄嗟に腕を伸ばして支える。昨夜以来の接触に私の胸が高鳴った。

「大丈夫ですか、ローガン様」
「ああ」

 すぐに体を離して座り直したが、動悸はなかなか治らなかった。

 それにしても、あの程度の揺れでローガン様が体勢を崩すなんて珍しい。私ほどではないが、幼い頃から鍛えているので体幹は安定している。滅多なことでは揺らがないはずなのだが。

「これはこれはローガン殿下! 本日はわざわざこのようなむさ苦しい場所にお越しいただき誠に恐縮でございます」

 王都郊外に流れる川のそばで小太りの中年男が私たちを出迎えた。川沿いにある農村地帯の領主で、護岸工事を請け負っている男爵である。あまり節制には興味がないようで、腹回りの上着のボタンが弾け飛びそうになっていた。すらりとしたローガン様と並ぶと体型の差がよくわかる。

「現場を見たい。すまないが案内を頼む」
「ははーっ、もちろんでございます!」

 男爵はローガン様の数歩前を歩き、時々振り返りながら工事現場の中を案内していった。事前に視察が来ると知っていたからか、案内された経路は足元に板が敷かれており、ローガン様の靴が泥で汚れないように配慮されている。それは問題ないのだが、私には他に気になることが幾つかあった。

 まず、作業員たちが一様に痩せ細っていて覇気がまったく感じられない。肉体労働なのだから屈強な男が携わっているものだと考えていたが、どう見ても弱々しくて年老いた者ばかり。

 次に、工事の進み具合が異常に遅い。護岸工事自体は数年前から着工しており、予算もそれなりに割かれている。しかし、作業員たちの数は少なく、使用している道具も古いものばかり。これでは何年かかっても工事が終わりそうにない。

 幸いここ数年は川が氾濫するような災害は起きていないが、もし大きな嵐が来たらどうなることか。

「あっ、大事な書類が」

 私は懐から書類を取り出し、あたかも風で飛ばされたかのようにわざと手を離す。そばで作業していた初老の男が手を止め、わざわざ拾いに行ってくれた。

「ありがとうございます。助かりました」
「いえ。汚れた手で触って申し訳ない」

 書類を私に差し出しながら、初老の男はちらりと文面を見た。数行ほど読んだ辺りでカッと目を見開き、私に顔を向けてくる。男の真剣な表情を見て、私は確信した。

 拾ってもらった書類を笑顔で受け取り、少し先で男爵から説明を受けている最中のローガン様へと歩み寄る。そして、耳元に唇を寄せ、「やはり予想の通りでした」と囁いた。ローガン様は小さく頷き、ギラリと金の瞳を輝かせている。

 さあ、悪者退治の始まりだ。

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