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昔馴染みに身柄を差し出されてしまいました
しおりを挟む大浴場から二階の客室に戻ると、再びステイン先輩が現れた。今度は別の兵士を引き連れている。
「お食事をお持ちしました」
「わざわざすまない。ありがとう」
宿舎には給仕用のカートなどない。ステイン先輩が扉を開けている間、トレイを持った兵士が二人客室内に入ってテーブルに置いた。二人とも緊張した面持ちだ。直接王族に見える機会などないのだから無理もない。配膳を終えると、深々と頭を下げてからすぐに退室していった。
「それではごゆっくり。後でトレイを回収しに参ります」
他の兵士の反応を見てからステイン先輩を見ると、まったく気を張ることなく自然体で行動しているとわかる。身近に軍務大臣のアミル様がいるからだろうか。ローガン様も私も下手にへりくだられるより普通に接してもらうほうが気楽に過ごすことができる。
「さて、いただくとするか」
「ですね」
宿舎の食事は兵士が交代で作っている。王都にある王国軍宿舎には専属の料理人がいるのだが、遠征時の野営や砦に配属された場合には自分たちで食事を作らねばならない。
ほとんどの者が軍に入るまで料理をした経験がなく、たまに酷い食事が出されることもある。焦げたパン、燻製し過ぎたなにか、生焼けの肉、泥水みたいなスープ。食材を無駄にするなと言われ、泣きながら食べた在りし日が懐かしい。
今日は事前に王太子が視察に来るとわかっていたからか、料理が得意な者が腕を奮ってくれたらしい。美味しそうな料理が並んでいる。
柔らかな白パン、ゴロゴロ野菜とベーコンのシチュー、鶏の香草焼きと付け合わせの野菜のソテー。豪華ではないが見た目が良く、食欲をそそる。ローガン様も美味しそうに食べている。
「厨房も見学したい」
「明日ついでに見させてもらいましょう」
食事後、トレイを回収しに来た兵士にローガン様が直接「美味かった」と言うと、「料理担当に伝えます!」と笑顔で答えて退室していった。こういった気遣いができる御方なのだ。兵士たちのモチベーションが上がることだろう。
入浴と食事が終わり、あとは寝るだけとなった。私はローガン様と同じ客室内にある寝室を使わせてもらう予定だ。寝室には寝台が二つあるので問題ない。
さて寝ようとしたところで客室の扉がノックされた。なんだろうと思い応答すると、訪ねてきた人物はステイン先輩だった。
「王太子殿下。側近のかたをお借りしてもよろしいでしょうか」
「ヴァインをか?」
私にではなくローガン様にお伺いを立てるステイン先輩。ローガン様は目を丸くした後、困ったように笑った。
「俺に許可を取る必要などない。ベリーニ隊長はヴァインと旧知の仲なのだと聞いている。積もる話もあるだろうから、ゆっくり話をするといい」
「は。ありがとうございます」
「えっ、ちょっと、ローガン様」
当事者である私を抜きにして行なわれるやり取りに戸惑っているうちに話がついてしまった。確かに積もる話はあるが、ローガン様のそばを離れてよいものかという迷いがあった。
「王太子殿下の部屋は宿舎でもっとも安全な位置にあります。同じ階には他の兵士もおりますし、わたしの部屋は客室の隣です。なにかあってもすぐに駆けつけられますよ」
「そうだぞヴァイン。俺のことは気にするな」
断る口実を先回りして潰され、私は頷いた。
「では、ローガン様。先におやすみください」
「わかった。ゆっくり話をしてこい」
笑顔で見送られ、私はステイン先輩に連れられて隣の部屋へお邪魔した。
あっさり身柄を差し出され、少々、いやかなりショックを受けている。ローガン様は厚意で昔馴染みと話す時間を作ってくださったのだ。私を邪険にしているわけではない。移動から現地にいる時まで四六時中一緒にいるから、たまには一人の時間が欲しくなったのかもしれない。
「さ、入れよヴァイン。……って、なんて顔してんだ」
「えっ?」
部屋の前で振り返ったステイン先輩がギョッとした顔で私を見ている。そんなに酷い顔をしていたのだろうか、私は。
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