【完結】断罪待ち悪役令息と絶対断罪しない王太子殿下

みやこ嬢

文字の大きさ
17 / 43

昔馴染みに身柄を差し出されてしまいました

しおりを挟む

 大浴場から二階の客室に戻ると、再びステイン先輩が現れた。今度は別の兵士を引き連れている。

「お食事をお持ちしました」
「わざわざすまない。ありがとう」

 宿舎には給仕用のカートなどない。ステイン先輩が扉を開けている間、トレイを持った兵士が二人客室内に入ってテーブルに置いた。二人とも緊張した面持ちだ。直接王族にまみえる機会などないのだから無理もない。配膳を終えると、深々と頭を下げてからすぐに退室していった。

「それではごゆっくり。後でトレイを回収しに参ります」

 他の兵士の反応を見てからステイン先輩を見ると、まったく気を張ることなく自然体で行動しているとわかる。身近に軍務大臣のアミル様がいるからだろうか。ローガン様も私も下手にへりくだられるより普通に接してもらうほうが気楽に過ごすことができる。

「さて、いただくとするか」
「ですね」

 宿舎の食事は兵士が交代で作っている。王都にある王国軍宿舎には専属の料理人がいるのだが、遠征時の野営や砦に配属された場合には自分たちで食事を作らねばならない。

 ほとんどの者が軍に入るまで料理をした経験がなく、たまに酷い食事が出されることもある。焦げたパン、燻製し過ぎたなにか、生焼けの肉、泥水みたいなスープ。食材を無駄にするなと言われ、泣きながら食べた在りし日が懐かしい。

 今日は事前に王太子が視察に来るとわかっていたからか、料理が得意な者が腕を奮ってくれたらしい。美味しそうな料理が並んでいる。

 柔らかな白パン、ゴロゴロ野菜とベーコンのシチュー、鶏の香草焼きと付け合わせの野菜のソテー。豪華ではないが見た目が良く、食欲をそそる。ローガン様も美味しそうに食べている。

「厨房も見学したい」
「明日ついでに見させてもらいましょう」

 食事後、トレイを回収しに来た兵士にローガン様が直接「美味かった」と言うと、「料理担当に伝えます!」と笑顔で答えて退室していった。こういった気遣いができる御方なのだ。兵士たちのモチベーションが上がることだろう。

 入浴と食事が終わり、あとは寝るだけとなった。私はローガン様と同じ客室内にある寝室を使わせてもらう予定だ。寝室には寝台が二つあるので問題ない。

 さて寝ようとしたところで客室の扉がノックされた。なんだろうと思い応答すると、訪ねてきた人物はステイン先輩だった。

「王太子殿下。側近のかたをお借りしてもよろしいでしょうか」
「ヴァインをか?」

 私にではなくローガン様にお伺いを立てるステイン先輩。ローガン様は目を丸くした後、困ったように笑った。

「俺に許可を取る必要などない。ベリーニ隊長はヴァインと旧知の仲なのだと聞いている。積もる話もあるだろうから、ゆっくり話をするといい」
「は。ありがとうございます」
「えっ、ちょっと、ローガン様」

 当事者である私を抜きにして行なわれるやり取りに戸惑っているうちに話がついてしまった。確かに積もる話はあるが、ローガン様のそばを離れてよいものかという迷いがあった。

「王太子殿下の部屋は宿舎でもっとも安全な位置にあります。同じ階には他の兵士もおりますし、わたしの部屋は客室の隣です。なにかあってもすぐに駆けつけられますよ」
「そうだぞヴァイン。俺のことは気にするな」

 断る口実を先回りして潰され、私は頷いた。

「では、ローガン様。先におやすみください」
「わかった。ゆっくり話をしてこい」

 笑顔で見送られ、私はステイン先輩に連れられて隣の部屋へお邪魔した。

 あっさり身柄を差し出され、少々、いやかなりショックを受けている。ローガン様は厚意で昔馴染みと話す時間を作ってくださったのだ。私を邪険にしているわけではない。移動から現地にいる時まで四六時中一緒にいるから、たまには一人の時間が欲しくなったのかもしれない。

「さ、入れよヴァイン。……って、なんて顔してんだ」
「えっ?」

 部屋の前で振り返ったステイン先輩がギョッとした顔で私を見ている。そんなに酷い顔をしていたのだろうか、私は。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い

おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。 家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。 でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい! 二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……? 真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ 独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。 基本明るい受け視点。中~長編になります。

何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。 ――それでも、心はまだ、生きたがっていた。 ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。 自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。 貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。 「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」 そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。 ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。 互いに死に場所を探していたふたり。 その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。 しかし、運命は安穏を許さない。 過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。 異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。 だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。 傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。 ――これは、「終わり」が定められた者が、 「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...