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断罪してもらえるならむしろ本望なんですよ
しおりを挟むローガン様の代わりにディアナ嬢と対峙しているが、正直つらい。いくら家柄が良くて外見が美しくても思考と言動が異常過ぎて会話が成り立たない。一応説得を試みたが、話が通じる相手なら最初から苦労しないし、ここまで拗らせることもないのだ。
「あたくしとローガン様の仲を引き裂くなんて許せませんわ! 斬り捨てておしまいなさい!」
「えっ、お嬢様?」
「マズいですよ。やめましょう!」
雇われ私兵のほうが理性があるし冷静に状況を把握している。先ほど剣を抜いたのはあくまで脅しのため。大抵の人間は切先を向けられれば降参するが、私が少しも怯まなかったので予定が狂ったのだろう。
私はシュタルク侯爵家の嫡男。
ディアナ嬢はアヴェリシア侯爵家の一人娘。
庶民や下級貴族ならばともかく、アヴェリシア侯爵の権力で揉み消せる相手ではないと理解しているようだ。私兵は私に剣先を向けることすら拒否し始めた。
「この役立たずども! お父様に拾われた恩を忘れたの?」
思い通りに動かない私兵に業を煮やし、ディアナ嬢は剣を奪った。細身とはいえ実戦用の長剣は重い。当然自在に振り回すなんてできるはずもなく、ディアナ嬢は苦戦しながらも両手で剣を構えて私に向けた。
「さあ、死にたくなければローガン様のもとに案内しなさい! 断れば、あなたはここで死ぬだけよ!」
素人に剣を向けられても怖くはない、と考えるのは愚か者の意見である。なにをやらかすかわからない素人のほうが予想ができなくて怖い。私兵たちがなぜ剣を振り回さなかったのか理解していないところも恐ろしい。早速重さに堪え兼ねてフラフラしている。
「はあ、もう面倒くさいですね」
いい加減ディアナ嬢の言い分を聞くのも飽きてきたので、隙をついて剣を奪ってみた。剣の先端をまっすぐ鼻先に突きつけると、彼女は急に喚き始めた。
「あ、あなた、あたくしに危害を加えるつもりですの? そんな真似をして許されるとでも?」
私兵が慌てて間に入ってディアナ嬢を背に庇う。自分は同じことを私にやった癖に白々しい。
「まあ、許されないでしょうね。アヴェリシア侯爵は貴女に甘いようですし。それ以前に、男が女性に対して加害するなんて以ての外でしょう」
実際、ディアナ嬢がここまでおかしくなった原因はアヴェリシア侯爵にある。周りが持て囃さなければ、こんな頭のおかしな勘違い令嬢は生まれなかったはずなのだ。そう考えれば、彼女も被害者と言えるのかもしれない。
「ですが」
私は長剣を利き手に持ち、目の前の私兵とディアナ嬢を見ながら口角を上げた。
「私にはそういうしがらみは一切関係ないんですよね」
言いながら、まず剣を横薙ぎにして私兵二人を倒した。怪我をさせないよう、装備の厚い部分を剣の腹でブン殴って部屋の隅に吹っ飛ばした。壁にぶつかって倒れたまま私兵は動かなくなる。
「ヒッ」
自分を守る肉の盾がなくなり、ディアナ嬢が縮み上がった。
これまで身分をカサにきて周囲を言いなりにしてきた令嬢だ。大抵の主張は通ってきたし、逆らう者はいなかった。唯一思い通りにならなかったのは王太子であるローガン様との関係だけ。
「あ、あたくしに怪我をさせたら、あなたは罪に問われますわよ! それでもよろしいの?」
「構いませんよ、別に。むしろ望むところです」
「なっ……!」
ディアナ嬢は知らない。
私が断罪されたくて仕方がないことを。
貴族令嬢の体に傷をつければ正当な理由があったとしても無罪放免とはいかない。シュタルク侯爵家に類が及ばぬよう、私だけを罰してもらえるようにローガン様にお願いしよう。
そう考えていたのだが。
「あたくしの身になにかあればローガン様が悲しみますわ! あたくしはローガン様の愛する恋人なんですもの!」
この発言だけは聞き捨てならなかった。
「あなたがどうなろうが、ローガン様にとってはどうでも良いことです。二度とそのような嘘を口に出さないでください」
「きゃああ!」
本気で睨みつけたせいか、怯えたディアナ嬢が逃げ出した。腰が抜けたらしく床を這って移動していたのだが、先ほど自分で割った水差しの破片の上を通ってしまったようだ。手足に破片が刺さり、美しいドレスがこぼれた水と傷からあふれた血でみるみる色を変えてゆく。
「ああ、痛い、痛い! ローガン様ぁ、助けてえ!」
どこまでも被害者面するディアナ嬢にはため息しか出てこない。私は壁際でうずくまる私兵に歩み寄った。
「彼女を早く連れ帰ってくださいますか。あまり煩いと手が滑ってしまいそうです」
そう告げながら、私兵の体ギリギリの位置にわざと剣を突き立てた。床板に刺さった剣を見て、私兵が震え上がる。
「は、はいっ!」
「どうかお見逃しを!」
私兵二人はすっかり怯え、何度も頷いている。泣き喚くディアナ嬢を左右から支えながら部屋から出て行った。ほどなくして、宿屋の外から馬車が走り去る音が聞こえてくる。町から出て行く侯爵家の馬車を窓から見送ってから、私も宿屋を後にした。
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