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王太子の相手は私、そして王女の相手は…
しおりを挟むミレーナ殿下の爆弾投下により、ただでさえも精神的な打撃を受けていた国王陛下が限界を迎えてしまった。会議室の床にへたり込む姿は国を統べる王とは思えないほど意気消沈している。まあ、落ち込む原因の一端を作ったのは私なのだが。
「あ、あの、ミレーナ殿下。ルインは私の息子なのですが、今のお話は本当なのでしょうか」
先ほどまで私に怒り心頭だった父が混乱している。とりあえず問題が軽そうな話から事態の収束を図ろうとする姿勢はまさに内務大臣らしいと言うべきか。
「ルイン君のお父様はシュタルク侯爵様だったのね! わたし今度ルイン君のおうちに遊びに行く予定なのだけど、お邪魔してもいいかしら?」
問われたミレーナ殿下は満面の笑顔だが、対照的に父の顔色が悪くなっていく。
「あっ、は、はあ、もちろん、わたしは大丈夫なんですが、ええとですね、その~」
こんなしどろもどろな父は初めて見た。なぜなら、恨めしそうな顔の国王が父を睨みつけているからだ。
国王陛下は子煩悩で、とりわけミレーナ殿下を溺愛している。その可愛い愛娘が、まだ学生だというのに突然彼氏を作ったのだ。怒りの矛先を彼氏に向ければ愛娘に嫌われてしまうため、彼氏の父親に向けているのである。理不尽だが、こればかりは理屈ではないのだ。
「シュタルク侯爵よ、おぬしの忠義を疑ったことは一度もない。ないのだが、流石に今日はキレても構わんだろうか」
「……は。いかなる罰をも受ける覚悟です」
しまった。このままではアヴェリシア侯爵より先に父が国外追放されかねない。やらかしたのは私だけで、父やルインにはなんの罪もないのだと伝えねばならない。
「お待ちください陛下。悪いのは私だけです。此度の責任は全て私に取らせてください!」
青い顔をした父の前に立ちはだかり、直接訴える。国王陛下は冷ややかな目を私に向け、大きな溜め息を吐き出してから口を開いた。
「どう責任を取るというのだ。ローガンは妻子を持てぬ体にさせられたのだ。跡継ぎが作れぬようになっては王位を継がせるわけにもいかん。おぬしの首ひとつで片付く問題ではないぞ、ヴァイン・マハド・シュタルクよ」
未成年であるミレーナ殿下の前で『ローガン様が女を抱けない体になった』とは言えないため罪状はボカされているが、聡明で勘の良いミレーナ殿下にはすべてお見通しだったらしい。「ヴァイン様を困らせないで!」と間に入って下さった。
「別にお兄様が子を成せなかったとしても、わたしが産めば問題ないと思うのだけど」
さらりと言ってのけるミレーナ殿下に一同がポカンとした顔になる。私も驚きのあまり反応できずにいた。そんな大人たちに構わず、ミレーナ殿下は言葉を続けた。
「お兄様は誰よりも次期国王にふさわしいとわたしは思ってます。子どもが作れるかどうかで決めることじゃないわ。わたしは国王にはなれないけど、子どもを産むことならできるもの。お兄様にできないことはわたしがやります!」
まだ十代半ば、学生の身でありながら、ミレーナ殿下は生まれながらの王族として覚悟を持っている。一番近くで見てきたからこその言葉に、兄であるローガン様の目から涙がこぼれ落ちた。
ちなみに、国王陛下の目からも涙がとめどなく流れ落ちている。ローガン様のように感動しているからではなく、未成年かつ未婚の愛娘の口から『子どもを産む』発言が飛び出したことで精神が崩壊しかけているのだ。すぐに王宮医師が呼ばれ、国王陛下に気付け薬を処方したがまったく効かなかった。
「とんでもねえことになってんな、ヴァイン」
「ええ。勘当されたら砦で雇ってもらいます」
「ハハッ、そん時に首がついてりゃいいけどな」
ステイン先輩の軽口が笑い話に聞こえないのは気のせいだろうか。
御前会議に参加していた大臣を始めとした重臣たちは解散となり、代わりにルインが王宮へと呼び出された。身支度を整える余裕がなかったらしく、貴族学院の制服姿のままだ。
場所は王宮内にある謁見の間。
国王陛下は憂鬱そうな顔で玉座に座り、下段で膝をつくシュタルク侯爵家の面々を見下ろしている。ルインの付き添いで来た義母上は状況がわからず混乱しているようだった。
「ルイン君、来てくれたのね!」
「ミレーナ様っ」
初めて入る謁見の間の中をキョロキョロと見回していたルインは、ミレーナ殿下の姿を見つけてパッと笑顔になった。ミレーナ殿下はルインのそばに駆け寄り、ぴったり隣に陣取っている。仲が良いのは本当らしいが、国王陛下の顔が怖くなってきた。
果たして我が家は無事に生還できるのだろうか。
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