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Side I 7
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真夏のエアコン代を惜しんで透さんがリビングで過ごすことが増えた。
俺は下心もあって、自室じゃなくてその隣のダイニングテーブルで課題に取り組む。
特に色っぽい話も湿っぽい話もせず、友達とするような無難な会話だけをぽつぽつ交わす。
透さんは、仕事以外では基本的に外出しない。
休日もずっと家で携帯ゲームをするとか、なにか家事をするとかして過ごす。
それはなんとなくだけど世界に対して警戒しているからだと思われた。
「そういえばお前、サークルとかバイトとかいいの?」
ふと、寝ころんでいた透さんがスマホから顔を上げて言った。
相変わらず物件探しは難航しているらしい。
「うん。両方やってない」
「いいの? ガクチカとかいうやつ」
「まあ…、課題はちゃんとやってるし。
ええと、キモがられるかもしれないけど透さんが出てくまではこっち優先したいので」
「キモいな。…とは言っても、見つからないのおれも普通に焦ってるんだけど。
次のヒートに間に合うかな…」
「間に合わなければ俺またビジホ行くからいいよ」
「実家が太いと言うことが違ぇ…。両親α?」
「うん。二人ともガンガン働いてるから金だけはある。
ただ私生活が残念でさあ…俺がいなくなって生活回ってんのか心配…」
「ふ、だからお前料理得意なんだ」
「さすがに家政婦雇ってるといいんだけど、家に他人入れるの抵抗あるみたいだからねぇ」
ノートパソコンに打ち込んでいたレポートの手を止めて、
俺は空になったマグカップを持って立ち上がり、
ついでに透さんの傍にあるグラスを持ってキッチンに行って冷蔵庫から出した麦茶を入れて
また元通りのルートで着席した。
「透さんってこの家住む前までどこに住んでたの?」
「無理言って職場の仮眠室に住み込みしてた。
18までΩの保護施設にいて、普通は成人すると追い出されるんだけど、
金貯まるまではって紹介されたとこにね。
大目に見てもらってたけどさすがに追い出されそうだったから正直助かった」
やはりΩの需要に合う物件が少ないのだろう。
Ωはその特性上なかなか安定職に就きづらく、低所得な者が多い。
それも相まって高校卒業後はαと番う流れが自然とできているのだ。
話を聞いていると彼の職場のΩも既婚者が多く、
彼の年齢で独り身というのはかなり珍しいようだった。
それにそもそも、番なしの不安定な状態で生活することが難しい。
「大変だな…。あの、ほんとに俺ビジホ行くから、ここにいていいからね。
焦って変なとこ住まれるほうが心配。
いや、俺と住んでるのも危ないのかもしんないけど」
いったいどの口で心配を、と内心自虐しながら言うと、透さんは「紳士だな」と少し笑った。
ローズマリーの匂いが少し強くなった気がした。
あ、やばい、と思って俺は急いでノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「いつき?」
「ちょっと、部屋戻るね…」
そして足早に部屋に戻ると、意識してドアを音を立てずに閉める。
性欲で高ぶった神経がイライラを冗長させている自覚がある。
意識して大人しく鎮めないと、今だって大きな音を立てて壊れんばかりの勢いで閉めていただろう。
ノートパソコンを机に置いてベッドに座って、
スウェットの前を寛げ、痛いくらいにそそり立った自身をしごいた。
脳裏に、あのとき横たわっていた白い肢体を思い描く。
暴きたい。
口を吸ったらどんな顔をするのか。
腕を強く押し付けて、上からあのきれいな顔を眺めたい。
独占欲のままにうなじに嚙みついて自分のものにしたい。
胸の飾りをいじったらどんな声を上げるのだろう。
それで、足を割り開いて、湿った秘部を。
あっと言う間に吐精した。
透さんに会うまで自分が特別性欲が強かったと思ったことはない。
むしろ周りに比べたら落ち着いたほうで、
今まで付き合った彼女たち、αもβもΩもいたが、
それに対してもこれほど強い衝動を抱いたことはなかった。
ティッシュで手をぬぐいながら俺はベッドのそばの壁にもたれて息を吐く。
…暴力的な性衝動が消えない。
そのことが日に日に俺の罪悪感を膨らませていく。
傍にいたいのは確かだ。しかしそれは確実に俺の精神も肉体も疲弊させた。
冷徹にこちらを見る彼は冷たいガラスの花のような鋭利な美しさを持っていたが、
ここ最近ふとリラックスしたときにはまっさらな生花がほころぶような表情をする。
それが俺の中の彼を愛おしいと思う気持ちと、
めちゃくちゃにしてやりたい気持ちの両方を暴走させては頭をおかしくさせる。
このままだとどこかで正気を失ってしまうのではないかという恐怖に、常に緊張の糸を張っていた。
自分にこんな衝動があるなんて知らなかった。
そういうニュースをスマホ越しに見ては
酷いやつもいたものだと他人事のようにスワイプしてきたが、
これではまるで他人事ではない。
「どうしたらいいんだ…」
抑制剤の効き目が日に日に弱くなるのを感じている。
ヒートでもないのに、身体が彼を求めている。
こんなものが本能だというのか。だとしたら彼がこれを嫌悪する気持ちも痛いほどわかる。
手放すのが最善だということは、わかってる。
無理やりされたことがあるというのがどこまでを指すのかはわからないが
いずれにしても俺のこの感情が彼をひどく傷つけ、怖がらせる要素にしかならないことは明白だった。
でも、それでも。
たまに見せる笑い顔、くつくつとしのぶような声が脳裏によみがえる。
大事にしたいのも、優しくしたいのも、本当だ。
離れたくない。傍にいたい。これだって本能だ。
どちらの気持ちにも嘘はない。優劣も、ない。
吐精したことで、身体が一気に弛緩して眠気が襲ってくる。
よほど気を張っていたんだなと気づいて自嘲気味に笑った。
せめて、彼がここを出て行くまではこの暴力性を隠し通して、笑顔で見送りたい。
そう願いながらベッドに横たわり、意識を飛ばした。
俺は下心もあって、自室じゃなくてその隣のダイニングテーブルで課題に取り組む。
特に色っぽい話も湿っぽい話もせず、友達とするような無難な会話だけをぽつぽつ交わす。
透さんは、仕事以外では基本的に外出しない。
休日もずっと家で携帯ゲームをするとか、なにか家事をするとかして過ごす。
それはなんとなくだけど世界に対して警戒しているからだと思われた。
「そういえばお前、サークルとかバイトとかいいの?」
ふと、寝ころんでいた透さんがスマホから顔を上げて言った。
相変わらず物件探しは難航しているらしい。
「うん。両方やってない」
「いいの? ガクチカとかいうやつ」
「まあ…、課題はちゃんとやってるし。
ええと、キモがられるかもしれないけど透さんが出てくまではこっち優先したいので」
「キモいな。…とは言っても、見つからないのおれも普通に焦ってるんだけど。
次のヒートに間に合うかな…」
「間に合わなければ俺またビジホ行くからいいよ」
「実家が太いと言うことが違ぇ…。両親α?」
「うん。二人ともガンガン働いてるから金だけはある。
ただ私生活が残念でさあ…俺がいなくなって生活回ってんのか心配…」
「ふ、だからお前料理得意なんだ」
「さすがに家政婦雇ってるといいんだけど、家に他人入れるの抵抗あるみたいだからねぇ」
ノートパソコンに打ち込んでいたレポートの手を止めて、
俺は空になったマグカップを持って立ち上がり、
ついでに透さんの傍にあるグラスを持ってキッチンに行って冷蔵庫から出した麦茶を入れて
また元通りのルートで着席した。
「透さんってこの家住む前までどこに住んでたの?」
「無理言って職場の仮眠室に住み込みしてた。
18までΩの保護施設にいて、普通は成人すると追い出されるんだけど、
金貯まるまではって紹介されたとこにね。
大目に見てもらってたけどさすがに追い出されそうだったから正直助かった」
やはりΩの需要に合う物件が少ないのだろう。
Ωはその特性上なかなか安定職に就きづらく、低所得な者が多い。
それも相まって高校卒業後はαと番う流れが自然とできているのだ。
話を聞いていると彼の職場のΩも既婚者が多く、
彼の年齢で独り身というのはかなり珍しいようだった。
それにそもそも、番なしの不安定な状態で生活することが難しい。
「大変だな…。あの、ほんとに俺ビジホ行くから、ここにいていいからね。
焦って変なとこ住まれるほうが心配。
いや、俺と住んでるのも危ないのかもしんないけど」
いったいどの口で心配を、と内心自虐しながら言うと、透さんは「紳士だな」と少し笑った。
ローズマリーの匂いが少し強くなった気がした。
あ、やばい、と思って俺は急いでノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「いつき?」
「ちょっと、部屋戻るね…」
そして足早に部屋に戻ると、意識してドアを音を立てずに閉める。
性欲で高ぶった神経がイライラを冗長させている自覚がある。
意識して大人しく鎮めないと、今だって大きな音を立てて壊れんばかりの勢いで閉めていただろう。
ノートパソコンを机に置いてベッドに座って、
スウェットの前を寛げ、痛いくらいにそそり立った自身をしごいた。
脳裏に、あのとき横たわっていた白い肢体を思い描く。
暴きたい。
口を吸ったらどんな顔をするのか。
腕を強く押し付けて、上からあのきれいな顔を眺めたい。
独占欲のままにうなじに嚙みついて自分のものにしたい。
胸の飾りをいじったらどんな声を上げるのだろう。
それで、足を割り開いて、湿った秘部を。
あっと言う間に吐精した。
透さんに会うまで自分が特別性欲が強かったと思ったことはない。
むしろ周りに比べたら落ち着いたほうで、
今まで付き合った彼女たち、αもβもΩもいたが、
それに対してもこれほど強い衝動を抱いたことはなかった。
ティッシュで手をぬぐいながら俺はベッドのそばの壁にもたれて息を吐く。
…暴力的な性衝動が消えない。
そのことが日に日に俺の罪悪感を膨らませていく。
傍にいたいのは確かだ。しかしそれは確実に俺の精神も肉体も疲弊させた。
冷徹にこちらを見る彼は冷たいガラスの花のような鋭利な美しさを持っていたが、
ここ最近ふとリラックスしたときにはまっさらな生花がほころぶような表情をする。
それが俺の中の彼を愛おしいと思う気持ちと、
めちゃくちゃにしてやりたい気持ちの両方を暴走させては頭をおかしくさせる。
このままだとどこかで正気を失ってしまうのではないかという恐怖に、常に緊張の糸を張っていた。
自分にこんな衝動があるなんて知らなかった。
そういうニュースをスマホ越しに見ては
酷いやつもいたものだと他人事のようにスワイプしてきたが、
これではまるで他人事ではない。
「どうしたらいいんだ…」
抑制剤の効き目が日に日に弱くなるのを感じている。
ヒートでもないのに、身体が彼を求めている。
こんなものが本能だというのか。だとしたら彼がこれを嫌悪する気持ちも痛いほどわかる。
手放すのが最善だということは、わかってる。
無理やりされたことがあるというのがどこまでを指すのかはわからないが
いずれにしても俺のこの感情が彼をひどく傷つけ、怖がらせる要素にしかならないことは明白だった。
でも、それでも。
たまに見せる笑い顔、くつくつとしのぶような声が脳裏によみがえる。
大事にしたいのも、優しくしたいのも、本当だ。
離れたくない。傍にいたい。これだって本能だ。
どちらの気持ちにも嘘はない。優劣も、ない。
吐精したことで、身体が一気に弛緩して眠気が襲ってくる。
よほど気を張っていたんだなと気づいて自嘲気味に笑った。
せめて、彼がここを出て行くまではこの暴力性を隠し通して、笑顔で見送りたい。
そう願いながらベッドに横たわり、意識を飛ばした。
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