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2-②
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そして、一真の生活は完全に裏返った。
いつものように朝の習慣を終えて同じ時間に家を出る、歩いて学校までの道のりを歩く。
変わらない光景のはずなのに、これまでにないものが一真の感覚に突き刺さる。
路地裏に何かが蠢く気配がする。
打ち捨てられた小ぶりのマンションから何を引きずり込もうとする引力を感じる。
コンクリートの箱の狭間にある小さな雑木林から覗きこまれる感覚を覚える。
自分が歩んでいる道の下から引きずり込まれるような嫌悪を抱く。
『ようこそ、世界の裏側へ。温かな陽だまりの陰にある魔境へ。幻想達の妄執が集う場所へ。もう逃げられないよ』
回が言っていたそんな言葉を思い出す。
そうか、自分はもう今までの世界とは別の何かに立っているのだ、日常という世界ではなく。
もっと深く、遠く、決して離れることが叶わないその場所で生きていくしかないのだとようやく理解した。
理解して、それでも歩んでいくしかないのだと一真はいつものように背筋を伸ばして歩き出す。
道行く生徒たちの挨拶にいつものように笑顔で返し、知り合いがいればちょっとした雑談をして。
近く始まる文化祭の段取りに思いをはせながらどこまでもいつものように能 一真としてあることを心に決めた。
◇
「フェリシア・アールグレンと申します。皆様、どれぐらいの期間、共に学べるかはわかりませんがよろしくお願いいたします」
絹のように滑らかそうでまっすぐ伸びた金の長髪、意思は強そうだが決して他者を威圧しない柔らかくパッチリした瞳。整った顔立ちは精巧な人形のように隙が無い。
特筆した特徴のない我が学校の制服も彼女、フェリシアとやらが着ると深窓の令嬢のように映える。
男子生徒は皆、例外なく浮足立っており女生徒は憧れや嫉妬の視線を飛び交わせてひそひそやっていた。
そんなざわつくクラスの中で、両手を重ね慎み深く礼をするその女学生を見て一真は朝の覚悟を無言で粉々に叩き割っている。
誰だあいつは、転校生が来るなんて聞いてない。
生徒会長である自分が知らないまま、しかも自分と同じクラスに突然、転入生が入ってくるなどありえるのか?
先生からは何も聞いてないし、生徒の中でも噂すら聞いたことがない。
特にあんな美人がやってくるとなれば手続きなどの関係で学校に来た際、その姿を見る者が一人ぐらいはいてもいい。
そこから尾ひれの付いた噂でも流れていいだろうに。
まるで降って湧いたかのようにいきなり現れたフェリシアは一真からすればひたすら違和感だけが残る異物。
そうだ、こういう時こそ回の出番だろう、昨日みたいにペラペラと解説してくれ、あの女は誰なのか。
期待を込めてちらりと視線をやれば呑気にふわふわしているだけ、フェリシアには何の興味も抱いていないようだ。
肝心な時になんて役に立たない奴。
「フェリシアはご両親の仕事の都合で一時的に日本に来たそうだ、状況次第ではまたすぐに転校することになるかもしれん」
先生の言葉がなおさら混乱を深める、そんな一時的な滞在がわかりきっていて編入を受け入れたのか。
新設とは言え進学校、卒業までいるとしてもそう簡単に編入を受け入れるわけがないのに。
「とにかく、皆、仲良くやるように。フェリシア、席はあそこの空いた場所を使ってくれ。
能、お前は生徒会長なんだから、転入生の面倒を頼むぞ」
一真は「はい」と力なく頷くしかない、フェリシアがゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。
窓際の一番後ろ、一真の隣にやんわり腰を下ろし微笑んだ。
「能さんで、大丈夫ですか?しばらくよろしくお願いしますね」
異国から来たとは思えないほどに流暢な日本語での挨拶。
「あ…うん、よろしく。能、能 一真。能でも一真でも好きに呼んでいいよ。そっちはフェリシアさんでいいのかな?」
フェリシアはええと軽く頷いた、その瞬間、窓からの光が逆光となって一真からはフェリシアの顔が見えづらくなる。
黒く塗りつぶされたようなその顔がこの世のものではない気がして一真は思わず身震いするのだった。
◇
昼休み、フェリシアと並んで一真は校内を案内していた。
やはりと言うべきか、男女構わず視線が突き刺さる。
皆、はじめて知ったかのように驚いてフェリシアを見ていたが、それを変に思う者はいないようだった。
男性教師の一人が驚いたように見えたのはまさかだろう、まさかだと笑ってほしい。
文化祭の準備で段ボールやらなんやらが規則性なくそこらに広がっている特別教室棟。
次に体育館、保健室、図書室や購買部、食堂などの学生生活に必要な施設を巡り。
「ここ、生徒会室。僕は大体、ここにいるから用事があったり困ったことがあれば遠慮なく」
そして最後に屋上へと案内した。
特に何があるわけでもないが風が気持ちよくて一真はよくここで一人、考え事にふけったりする。
「教室にも生徒会室にもいなければここでボケっとしてることも多いから。
とりあえず、一通りの案内はおしまい、後は生活しているうちに必要なことはわかると思う。
フェリシアさんなら友達とかすぐできるだろうし、いろいろ教えてもらえるよ」
「ありがとう、能さん。助かりました」
そうお辞儀をして、おもむろにフェリシアは一真に身を寄せる、端正な顔が間近に迫って心臓が思わず跳ねた。
「ねえ、それにしても、私たちってはじめて会った気がしないと思いません?きっと、良い友達になれると思うのですけれど。あなたが最初の友達になってくれれば、私も嬉しい。」
耳元で甘く囁くように告げられる言葉、しかし得体のしれない女からだと思うと一真からすれば悪魔の誘惑だ。
これでも数年前までは悪魔さんの誘惑に抗い続けてきた実績がある、そう簡単に靡くと思わないでほしい。
『あーっ!何この女!いきなりそんなに急接近なんて!一真もそんな奴、きっぱり突き放しちゃえばいいんだよ!』
元悪魔さんの声が元気に響き渡る、今までずっとスルーしてたくせにいきなりなんだ。
確かに意味不明な存在だし言動だが生徒会長としては編入したての生徒を放っておくわけにはいかない。
「あーうん、じゃあ友達になろうか、はい握手」
一真はやんわりフェリシアの肩を押し返し、手を差し出した。
離れた瞬間、横目で少しだけ見えた彼女の顔は能面のように感情が抜け落ちていたような気がしたが。
正面から見ると何事もなかったかのように柔らかい微笑みに戻っている。錯覚だったのだろう。
「ええ、では、お友達ですね」
結ばれた手を軽く振って一真は足早に屋上を後にする。
離れていくその背を見送るフェリシア。
彼女の目は――細く、鋭く。そのまま視線で焼き尽くせそうなほど熱く、どこまでも真っ直ぐに向けられていた。
◇
それから2週間ほどが過ぎた。
9月も終わりに近づき文化祭の準備も最後の追い込みを見せる10月に入ろうとしている。
そんな中、フェリシアは一真が思っていた以上に完璧に馴染んでいた。
授業では落ち着いた声で紡がれる完璧な日本語でどんな質問にも難なく答えてしまう。
一度、定期的に行われる小テストにいきなり挑戦させられたのだが全教科満点。
これだけの才女であるならば編入を受け入れるのもわからなくはない。
能力、美貌、そして財力もありそうだ。
何気なく使っている日用品も一般庶民の一真には見たことがない物ばかりである。
人として持てるものを全て持っているのではと思わせる、まさに才色兼備のお嬢様。
しかしそれを鼻にかけず、どんな時でもゆったりと誰に対しても人当たりがよい。
最初は嫉妬や劣等感を感じていたような者達も今ではすっかり毒気を抜かれたのか、積極的に関わろうとする者と完全に距離を置く者とに分かれた。
来たばかりでよくわからないはずの文化祭の準備にも精力的に取り組んでくれている、
面倒を見るどころかむしろ自分が面倒を見られる側になったような時もあった。
とは言え、相変わらず一真はフェリシアと精神的には一定の距離を置いている。
いきなり現れた異物感はいまだ消えないし、どうにも作られたような態度に思えてならないこともある。
完璧すぎて、隙が無さすぎて、それが逆に違和感なのだ。
もっと困り顔でも見せて、はじめての生活に馴染もうと頑張る姿でも見せられたらすぐさま手のひら返すのだが。
本当に最初から学校の一員だったかのようなその有様が逆にどこまでも不気味に映る。
「それって嫉妬じゃね?生徒会長、その座を追われそうで焦り心頭ってか?」
昼休み。
文化祭関係の業務がひと段落ついて屋上で一緒にパンをかじっていた翔にそんなことを話してみれば、即座に笑われてご無体なことを言われた。
「どうかな。これまでそういう感情とは無縁だったからね、万年最下位争いの翔と違って」
冗談を交わし合いながら、翔は言葉を続ける。
「お前さあ、もっと楽しめよ。健全な男子学生としてフェリシアちゃんは最高だろ。お淑やかで優雅な仕草、決して陰気じゃない奥ゆかしい雰囲気。それに反するような暴力的でボンキュッボンなボディのギャップ。
すでに十人ぐらいが無謀にも告白して玉砕してるんだぞ。
生徒会長の立場で誰よりも長く近くにいることが多いくせに。チクショウ、俺に譲れよ生徒会長の座!」
血の涙でも流しそうな迫力の翔をスルーしながら一真は黙々とパンを食べるだけ。
翔はため息つきながら今度は真剣な顔で一真を見た。
「…やっぱりというか、あんな超絶美人が現れても全然、揺れないのな。やっぱまだ霧野のこと引きずってんのか?」
ぴたりと、一真の動作が止まる。
霧野 舞(きりの まい)、一真と翔にとって小学時代から付き合いのある幼馴染。
元々は活発でスポーツ万能、素朴だが明るく愛嬌のある女の子。
一真が長く共にいる中で自然と淡い思いを抱いた彼女は高校になってあっさり彼氏を作った。
中学生まではしなかった化粧やおしゃれにも目覚めて、髪を染めたりもし始めて、どんどん一真の知らない誰かになっていく。
だがそれはしょうがないことだ、思いを伝えることもなく一方通行なままで放置した自分の落ち度。
彼女が幸せならそれでいいのだと、今ではたまに遠くからその姿を眺めるだけ。
それは一真の中ではもう終わったことではある、思いはあるが振り向かせようとは思わない。
一真の気もそぞろな態度は過去の無様な恋の話でもなく、かと言ってフェリシアへの違和感などでもなく、もっと別で切実な事情があった。
「まあ、引きずってはいるけど、そうじゃないんだよ」
「じゃあなんだよ?」
一真は曖昧に微笑んで誤魔化すしかなかった。
いつものように朝の習慣を終えて同じ時間に家を出る、歩いて学校までの道のりを歩く。
変わらない光景のはずなのに、これまでにないものが一真の感覚に突き刺さる。
路地裏に何かが蠢く気配がする。
打ち捨てられた小ぶりのマンションから何を引きずり込もうとする引力を感じる。
コンクリートの箱の狭間にある小さな雑木林から覗きこまれる感覚を覚える。
自分が歩んでいる道の下から引きずり込まれるような嫌悪を抱く。
『ようこそ、世界の裏側へ。温かな陽だまりの陰にある魔境へ。幻想達の妄執が集う場所へ。もう逃げられないよ』
回が言っていたそんな言葉を思い出す。
そうか、自分はもう今までの世界とは別の何かに立っているのだ、日常という世界ではなく。
もっと深く、遠く、決して離れることが叶わないその場所で生きていくしかないのだとようやく理解した。
理解して、それでも歩んでいくしかないのだと一真はいつものように背筋を伸ばして歩き出す。
道行く生徒たちの挨拶にいつものように笑顔で返し、知り合いがいればちょっとした雑談をして。
近く始まる文化祭の段取りに思いをはせながらどこまでもいつものように能 一真としてあることを心に決めた。
◇
「フェリシア・アールグレンと申します。皆様、どれぐらいの期間、共に学べるかはわかりませんがよろしくお願いいたします」
絹のように滑らかそうでまっすぐ伸びた金の長髪、意思は強そうだが決して他者を威圧しない柔らかくパッチリした瞳。整った顔立ちは精巧な人形のように隙が無い。
特筆した特徴のない我が学校の制服も彼女、フェリシアとやらが着ると深窓の令嬢のように映える。
男子生徒は皆、例外なく浮足立っており女生徒は憧れや嫉妬の視線を飛び交わせてひそひそやっていた。
そんなざわつくクラスの中で、両手を重ね慎み深く礼をするその女学生を見て一真は朝の覚悟を無言で粉々に叩き割っている。
誰だあいつは、転校生が来るなんて聞いてない。
生徒会長である自分が知らないまま、しかも自分と同じクラスに突然、転入生が入ってくるなどありえるのか?
先生からは何も聞いてないし、生徒の中でも噂すら聞いたことがない。
特にあんな美人がやってくるとなれば手続きなどの関係で学校に来た際、その姿を見る者が一人ぐらいはいてもいい。
そこから尾ひれの付いた噂でも流れていいだろうに。
まるで降って湧いたかのようにいきなり現れたフェリシアは一真からすればひたすら違和感だけが残る異物。
そうだ、こういう時こそ回の出番だろう、昨日みたいにペラペラと解説してくれ、あの女は誰なのか。
期待を込めてちらりと視線をやれば呑気にふわふわしているだけ、フェリシアには何の興味も抱いていないようだ。
肝心な時になんて役に立たない奴。
「フェリシアはご両親の仕事の都合で一時的に日本に来たそうだ、状況次第ではまたすぐに転校することになるかもしれん」
先生の言葉がなおさら混乱を深める、そんな一時的な滞在がわかりきっていて編入を受け入れたのか。
新設とは言え進学校、卒業までいるとしてもそう簡単に編入を受け入れるわけがないのに。
「とにかく、皆、仲良くやるように。フェリシア、席はあそこの空いた場所を使ってくれ。
能、お前は生徒会長なんだから、転入生の面倒を頼むぞ」
一真は「はい」と力なく頷くしかない、フェリシアがゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。
窓際の一番後ろ、一真の隣にやんわり腰を下ろし微笑んだ。
「能さんで、大丈夫ですか?しばらくよろしくお願いしますね」
異国から来たとは思えないほどに流暢な日本語での挨拶。
「あ…うん、よろしく。能、能 一真。能でも一真でも好きに呼んでいいよ。そっちはフェリシアさんでいいのかな?」
フェリシアはええと軽く頷いた、その瞬間、窓からの光が逆光となって一真からはフェリシアの顔が見えづらくなる。
黒く塗りつぶされたようなその顔がこの世のものではない気がして一真は思わず身震いするのだった。
◇
昼休み、フェリシアと並んで一真は校内を案内していた。
やはりと言うべきか、男女構わず視線が突き刺さる。
皆、はじめて知ったかのように驚いてフェリシアを見ていたが、それを変に思う者はいないようだった。
男性教師の一人が驚いたように見えたのはまさかだろう、まさかだと笑ってほしい。
文化祭の準備で段ボールやらなんやらが規則性なくそこらに広がっている特別教室棟。
次に体育館、保健室、図書室や購買部、食堂などの学生生活に必要な施設を巡り。
「ここ、生徒会室。僕は大体、ここにいるから用事があったり困ったことがあれば遠慮なく」
そして最後に屋上へと案内した。
特に何があるわけでもないが風が気持ちよくて一真はよくここで一人、考え事にふけったりする。
「教室にも生徒会室にもいなければここでボケっとしてることも多いから。
とりあえず、一通りの案内はおしまい、後は生活しているうちに必要なことはわかると思う。
フェリシアさんなら友達とかすぐできるだろうし、いろいろ教えてもらえるよ」
「ありがとう、能さん。助かりました」
そうお辞儀をして、おもむろにフェリシアは一真に身を寄せる、端正な顔が間近に迫って心臓が思わず跳ねた。
「ねえ、それにしても、私たちってはじめて会った気がしないと思いません?きっと、良い友達になれると思うのですけれど。あなたが最初の友達になってくれれば、私も嬉しい。」
耳元で甘く囁くように告げられる言葉、しかし得体のしれない女からだと思うと一真からすれば悪魔の誘惑だ。
これでも数年前までは悪魔さんの誘惑に抗い続けてきた実績がある、そう簡単に靡くと思わないでほしい。
『あーっ!何この女!いきなりそんなに急接近なんて!一真もそんな奴、きっぱり突き放しちゃえばいいんだよ!』
元悪魔さんの声が元気に響き渡る、今までずっとスルーしてたくせにいきなりなんだ。
確かに意味不明な存在だし言動だが生徒会長としては編入したての生徒を放っておくわけにはいかない。
「あーうん、じゃあ友達になろうか、はい握手」
一真はやんわりフェリシアの肩を押し返し、手を差し出した。
離れた瞬間、横目で少しだけ見えた彼女の顔は能面のように感情が抜け落ちていたような気がしたが。
正面から見ると何事もなかったかのように柔らかい微笑みに戻っている。錯覚だったのだろう。
「ええ、では、お友達ですね」
結ばれた手を軽く振って一真は足早に屋上を後にする。
離れていくその背を見送るフェリシア。
彼女の目は――細く、鋭く。そのまま視線で焼き尽くせそうなほど熱く、どこまでも真っ直ぐに向けられていた。
◇
それから2週間ほどが過ぎた。
9月も終わりに近づき文化祭の準備も最後の追い込みを見せる10月に入ろうとしている。
そんな中、フェリシアは一真が思っていた以上に完璧に馴染んでいた。
授業では落ち着いた声で紡がれる完璧な日本語でどんな質問にも難なく答えてしまう。
一度、定期的に行われる小テストにいきなり挑戦させられたのだが全教科満点。
これだけの才女であるならば編入を受け入れるのもわからなくはない。
能力、美貌、そして財力もありそうだ。
何気なく使っている日用品も一般庶民の一真には見たことがない物ばかりである。
人として持てるものを全て持っているのではと思わせる、まさに才色兼備のお嬢様。
しかしそれを鼻にかけず、どんな時でもゆったりと誰に対しても人当たりがよい。
最初は嫉妬や劣等感を感じていたような者達も今ではすっかり毒気を抜かれたのか、積極的に関わろうとする者と完全に距離を置く者とに分かれた。
来たばかりでよくわからないはずの文化祭の準備にも精力的に取り組んでくれている、
面倒を見るどころかむしろ自分が面倒を見られる側になったような時もあった。
とは言え、相変わらず一真はフェリシアと精神的には一定の距離を置いている。
いきなり現れた異物感はいまだ消えないし、どうにも作られたような態度に思えてならないこともある。
完璧すぎて、隙が無さすぎて、それが逆に違和感なのだ。
もっと困り顔でも見せて、はじめての生活に馴染もうと頑張る姿でも見せられたらすぐさま手のひら返すのだが。
本当に最初から学校の一員だったかのようなその有様が逆にどこまでも不気味に映る。
「それって嫉妬じゃね?生徒会長、その座を追われそうで焦り心頭ってか?」
昼休み。
文化祭関係の業務がひと段落ついて屋上で一緒にパンをかじっていた翔にそんなことを話してみれば、即座に笑われてご無体なことを言われた。
「どうかな。これまでそういう感情とは無縁だったからね、万年最下位争いの翔と違って」
冗談を交わし合いながら、翔は言葉を続ける。
「お前さあ、もっと楽しめよ。健全な男子学生としてフェリシアちゃんは最高だろ。お淑やかで優雅な仕草、決して陰気じゃない奥ゆかしい雰囲気。それに反するような暴力的でボンキュッボンなボディのギャップ。
すでに十人ぐらいが無謀にも告白して玉砕してるんだぞ。
生徒会長の立場で誰よりも長く近くにいることが多いくせに。チクショウ、俺に譲れよ生徒会長の座!」
血の涙でも流しそうな迫力の翔をスルーしながら一真は黙々とパンを食べるだけ。
翔はため息つきながら今度は真剣な顔で一真を見た。
「…やっぱりというか、あんな超絶美人が現れても全然、揺れないのな。やっぱまだ霧野のこと引きずってんのか?」
ぴたりと、一真の動作が止まる。
霧野 舞(きりの まい)、一真と翔にとって小学時代から付き合いのある幼馴染。
元々は活発でスポーツ万能、素朴だが明るく愛嬌のある女の子。
一真が長く共にいる中で自然と淡い思いを抱いた彼女は高校になってあっさり彼氏を作った。
中学生まではしなかった化粧やおしゃれにも目覚めて、髪を染めたりもし始めて、どんどん一真の知らない誰かになっていく。
だがそれはしょうがないことだ、思いを伝えることもなく一方通行なままで放置した自分の落ち度。
彼女が幸せならそれでいいのだと、今ではたまに遠くからその姿を眺めるだけ。
それは一真の中ではもう終わったことではある、思いはあるが振り向かせようとは思わない。
一真の気もそぞろな態度は過去の無様な恋の話でもなく、かと言ってフェリシアへの違和感などでもなく、もっと別で切実な事情があった。
「まあ、引きずってはいるけど、そうじゃないんだよ」
「じゃあなんだよ?」
一真は曖昧に微笑んで誤魔化すしかなかった。
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