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「まあ、そうやって確実に指摘してくれるからブラッシュアップもやりやすいわけだけど。あいつ、あれでよく三年に睨まれないよなー、ってちょっと怖いよ」
そんな風に辰巳は言うけれど、羽山には裏表があるわけでなく、悪い点をしっかり突く代わりに褒めるのも手放しだから、憎めない存在であることは誰もがわかっていて。
例えばソロを担当する者には、練習には細かい点まで嫌味なくらいこだわるくせに、本番の舞台で多少のミスがあっても、終わったソロプレイヤーに対しては極上の笑顔を見せて「カッコ良かった。最高だった」と褒めちぎるのだ。それはもう、ずっと昔から応援していたファンのように嬉しそうに。
緊張しながらも本気で頑張って、それを楽しんで演奏した相手に対しては、最大の敬意を払うから。
褒められた瞬間、そいつは大抵オちる。そして近藤がジェラってブスくれて、羽山によしよしされてやっと落ち着く、という流れはもうテッパンな光景。
「大抵毎年ウチには可愛いのが一人二人入ってくるんだよ。それこそ女の子みたいなのが。で、そいつをマスコット代わりにみんなで可愛がるのがいいんだけど。今年はさ、涼と恵那二人も入って来たからなー」
奏がへらへら笑う。わざとドラムロールのように“ダラララララ、ダン”なんてスティックで叩きながら、言うから「は? 俺? 何それ?」と恵那が眉を寄せた。
「徹たちはさ、恵那の中身がこーゆーガサツなのを知ってたからあんまし食いつかなかったけど、知らない人間からしてみれば、姫が二人だぜ? ちょっとアタリじゃんって思ったんだけどね」
辰巳が言うと、
「まあ、俺と奏は恵那の口の悪さも、可愛げのなさも知り尽くしてるからな。見た目こそ“姫”扱いできるくらい綺麗ドコロではあるけど、さすがにこいつを可愛いとはもう思えない」と徹が首を振る。
「辰巳にも教えといてやるけどさ、恵那はあの土岐を泣かしてたからな? 見るからにキン肉マンな土岐を、こいつは殴るわ蹴るわでいつだって泣かしてたらしい」
奏が言いながら「恐ろしいヤツだよ」と目の前で掌をひらひらさせる。
「てか、土岐って弟なんだろ? 人間としてどーなんだっつの」
徹の呆れ返った表情には「ただの兄弟喧嘩だし」と口を尖らせた。
「だから、もおどー考えたって恵那を“可愛い”なんて思えねーっつかさ。やっぱ、今年の姫は断然佐竹だよなー」徹がしみじみと言って。
「ああ、あれはもう、どこからどう見ても姫だな」辰巳が頷く。
「姫、姫言ってたらあいつ拗ねるから。あんまし言わないでやってよ」
苦笑いしながら恵那がフォローすると
「わかってる、わかってる。恵那はとりあえず、護ってやれな?」と徹が肩を叩いた。
「あー、明日のOBのダメ出しっスね。覚悟しときマスよ」
「羽山のダメ出しみたいに丁寧じゃねーからな。思いつくままに結構キツイ言い方するから、一年のフォローはおまえに任せる」
ここの吹奏楽部の居心地の良さが、これで伺えるというヤツだ。ある程度、やっぱり経験豊富な先輩や、ボランティアで指導してくれるOBの先輩は、厳しいけれど絶対的に優しさをもっていて。
言うべきところは言うし、その発言に妥協の文字はない。ダメなところはクソミソに言うけれど、それをどう改善すべきかのヒントはきちんと与える。自分でどう改善するかを、きちんと本人に考えさせる。言い方が悪い時だってあるだろうが、それに対してのフォローは忘れない。
そして、改善されればそれはもう、誰のものでもない本人の身になっているのだ。
「そんなこと言って、俺が泣いたら誰がフォローしてくれんスか?」
恵那がくふくふ笑ってふざけると。
「俺たちがちゃんと可愛がってやんよ」ニヤ、と三人が返すから。
「しょーがねーな。じゃあ明日の夜は先輩んトコいってぴーぴー泣いてやりますよ」
「おお、おお。待ってるよ。ぎゅーってしてちゅーってしてやるから」
奏が言うと。
「いや、俺はいいわ」徹が首を振り。
「俺もそこは遠慮しとく。奏、頼んだ」
「ちょいまて。俺が俺がで、どうぞどうぞのお約束だろーがよ、ここは!」奏が慌てると、
「だから! 先輩ら、揃いも揃ってなんで俺をフるんだっつの。ちったー可愛がれよな」いつものように恵那がムクれて。
四人集まってはこうやって下らないことをやって、それが心地良くて恵那はいつだってこの先輩たちと遊んでいるわけだけれど。
実際にパート練習となれば空気は違うわけで。
そんな風に辰巳は言うけれど、羽山には裏表があるわけでなく、悪い点をしっかり突く代わりに褒めるのも手放しだから、憎めない存在であることは誰もがわかっていて。
例えばソロを担当する者には、練習には細かい点まで嫌味なくらいこだわるくせに、本番の舞台で多少のミスがあっても、終わったソロプレイヤーに対しては極上の笑顔を見せて「カッコ良かった。最高だった」と褒めちぎるのだ。それはもう、ずっと昔から応援していたファンのように嬉しそうに。
緊張しながらも本気で頑張って、それを楽しんで演奏した相手に対しては、最大の敬意を払うから。
褒められた瞬間、そいつは大抵オちる。そして近藤がジェラってブスくれて、羽山によしよしされてやっと落ち着く、という流れはもうテッパンな光景。
「大抵毎年ウチには可愛いのが一人二人入ってくるんだよ。それこそ女の子みたいなのが。で、そいつをマスコット代わりにみんなで可愛がるのがいいんだけど。今年はさ、涼と恵那二人も入って来たからなー」
奏がへらへら笑う。わざとドラムロールのように“ダラララララ、ダン”なんてスティックで叩きながら、言うから「は? 俺? 何それ?」と恵那が眉を寄せた。
「徹たちはさ、恵那の中身がこーゆーガサツなのを知ってたからあんまし食いつかなかったけど、知らない人間からしてみれば、姫が二人だぜ? ちょっとアタリじゃんって思ったんだけどね」
辰巳が言うと、
「まあ、俺と奏は恵那の口の悪さも、可愛げのなさも知り尽くしてるからな。見た目こそ“姫”扱いできるくらい綺麗ドコロではあるけど、さすがにこいつを可愛いとはもう思えない」と徹が首を振る。
「辰巳にも教えといてやるけどさ、恵那はあの土岐を泣かしてたからな? 見るからにキン肉マンな土岐を、こいつは殴るわ蹴るわでいつだって泣かしてたらしい」
奏が言いながら「恐ろしいヤツだよ」と目の前で掌をひらひらさせる。
「てか、土岐って弟なんだろ? 人間としてどーなんだっつの」
徹の呆れ返った表情には「ただの兄弟喧嘩だし」と口を尖らせた。
「だから、もおどー考えたって恵那を“可愛い”なんて思えねーっつかさ。やっぱ、今年の姫は断然佐竹だよなー」徹がしみじみと言って。
「ああ、あれはもう、どこからどう見ても姫だな」辰巳が頷く。
「姫、姫言ってたらあいつ拗ねるから。あんまし言わないでやってよ」
苦笑いしながら恵那がフォローすると
「わかってる、わかってる。恵那はとりあえず、護ってやれな?」と徹が肩を叩いた。
「あー、明日のOBのダメ出しっスね。覚悟しときマスよ」
「羽山のダメ出しみたいに丁寧じゃねーからな。思いつくままに結構キツイ言い方するから、一年のフォローはおまえに任せる」
ここの吹奏楽部の居心地の良さが、これで伺えるというヤツだ。ある程度、やっぱり経験豊富な先輩や、ボランティアで指導してくれるOBの先輩は、厳しいけれど絶対的に優しさをもっていて。
言うべきところは言うし、その発言に妥協の文字はない。ダメなところはクソミソに言うけれど、それをどう改善すべきかのヒントはきちんと与える。自分でどう改善するかを、きちんと本人に考えさせる。言い方が悪い時だってあるだろうが、それに対してのフォローは忘れない。
そして、改善されればそれはもう、誰のものでもない本人の身になっているのだ。
「そんなこと言って、俺が泣いたら誰がフォローしてくれんスか?」
恵那がくふくふ笑ってふざけると。
「俺たちがちゃんと可愛がってやんよ」ニヤ、と三人が返すから。
「しょーがねーな。じゃあ明日の夜は先輩んトコいってぴーぴー泣いてやりますよ」
「おお、おお。待ってるよ。ぎゅーってしてちゅーってしてやるから」
奏が言うと。
「いや、俺はいいわ」徹が首を振り。
「俺もそこは遠慮しとく。奏、頼んだ」
「ちょいまて。俺が俺がで、どうぞどうぞのお約束だろーがよ、ここは!」奏が慌てると、
「だから! 先輩ら、揃いも揃ってなんで俺をフるんだっつの。ちったー可愛がれよな」いつものように恵那がムクれて。
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