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【2】Malachite
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「釣れたよ」
特別講義の後、視聴覚室を出た瞬間背後からそんな声がかかり、翔が振り向いた。
「なる。イイコだね」
頭に血が上る。
けれど、彬の何も裏のない風を装った自然な声に、ぐっとそれを抑え込む。
彬の空気に、飲まれてたまるか、という気持ちで。
「……ああ、イイコだよ。だから、何?」
あえて、自然に、返す。
冷静に、冷静に。そんな呪文を頭の中で唱えながら。
「俺ん名前出してしょーさんに話しかけてみ、だって」
ちょっと高めの鼻にかかった声。
そんな、成親の声マネなんてするから、どうしようもなく腹が熱くなる。
ぎり、と奥歯を噛みしめた。
絶対に、ノらない。ノるもんか!
「なる、ヒマなんだって。今度、一緒に遊ぼって約束しちゃったよ」
くふくふと、成親がふざけて甘く笑う様子、までマネするから。
「……っおまえ、顔、貸せ」
つい、言ってしまう。
大丈夫、話をするだけだ。
冷静に、成親が自分のモノだと、話して聞かせてやる、と。
翔の低い声に、彬は「いいよ、いくらでも」とさらりと答えた。
連れ立って新校舎を出る。
口は、開かないけど。
翔は頭の中で、どうやって彬を成親から遠ざけるかだけ考えていた。
「しょおくん、俺んちくる?」
なのに、彬が軽い口調でそんなことを言うから。
「は?」
「ウチでなるのこと、いっくらでもノロケたら? 俺んち、ガッコから近いし。この時間なら誰もいないからゆっくり話せるよ?」
「ふざけてろ。敵のホームにのこのこ出向くばかがいるかよ?」
「家だけに? うまいことゆーねえ」
完全に、年下のこの男の掌中にいるのが、気に入らない。
「しょおくん、そんなに俺のこと気に入らない?」
「ああ、気に入らないね」
「じゃあ、しょおくん。なるより先に、仲良くなろうよ、俺たちが」
本当にふざけたことを言うから、翔は彬の目を見た。
「おまえ、何? 友達が欲しいわけ?」
「しょおくん、なるとおんなじこと、言うねえ」
「はあ?」
「友達なら、欲しいよ。しょおくんみたいに可愛いお友達」
何が言いたいか、さっぱりわからなくて眉根を寄せる。
もう、彬といたらしかめっ面しかできない。
「このガッコの連中、基本的につまんねーんだよ」
目を逸らした彬が、そう言って。
「なんだか知んねーけど、わけのわかんねー特権階級なんかがあっから。めんどくさくてしょーがねえ」
不思議な感覚だった。
今まで散々聴いてきたきた彬の声と、色が違ったから。
「だからさ。なるっていいじゃん」
「やめろ」
「なるがダメなんだったら、しょおくんが俺のオトモダチになってよ」
初めて“年下”みたいな声を、聴いたような気がして。
「俺が……俺がいれば、なるには近付かない……のか?」
彬の腕を掴んで、正面からその目を見た。
人を煽るだけ煽っておいて、喧嘩腰でしか見せなかった彬の目の奥に、一筋の翳りが見えたから。
「なるじゃ、なくても」
「そうだね。誰でもいいわけじゃない。なると引き換えなら、しょおくんが欲しいね」
なるじゃなくても誰だっていいじゃないか、と言いたかったけれど。
翔の“成親”が、どれだけ他の誰の代わりにもならないくらい魅力的なのかを、他の誰でもない自分が、自分こそが知っているから。
彬がその魅力に気付いているとすれば、きっと彬にとっても、他の誰も成親の代わりにはなれない。
「……なるに、近付かないと、約束できるか?」
言うと、彬はニヤリとまた悪い顔をした。
「それは条件次第だね」
「条件?」
耳元に顔を寄せてきた。
「しょおくんのこと、抱かせてよ」
特別講義の後、視聴覚室を出た瞬間背後からそんな声がかかり、翔が振り向いた。
「なる。イイコだね」
頭に血が上る。
けれど、彬の何も裏のない風を装った自然な声に、ぐっとそれを抑え込む。
彬の空気に、飲まれてたまるか、という気持ちで。
「……ああ、イイコだよ。だから、何?」
あえて、自然に、返す。
冷静に、冷静に。そんな呪文を頭の中で唱えながら。
「俺ん名前出してしょーさんに話しかけてみ、だって」
ちょっと高めの鼻にかかった声。
そんな、成親の声マネなんてするから、どうしようもなく腹が熱くなる。
ぎり、と奥歯を噛みしめた。
絶対に、ノらない。ノるもんか!
「なる、ヒマなんだって。今度、一緒に遊ぼって約束しちゃったよ」
くふくふと、成親がふざけて甘く笑う様子、までマネするから。
「……っおまえ、顔、貸せ」
つい、言ってしまう。
大丈夫、話をするだけだ。
冷静に、成親が自分のモノだと、話して聞かせてやる、と。
翔の低い声に、彬は「いいよ、いくらでも」とさらりと答えた。
連れ立って新校舎を出る。
口は、開かないけど。
翔は頭の中で、どうやって彬を成親から遠ざけるかだけ考えていた。
「しょおくん、俺んちくる?」
なのに、彬が軽い口調でそんなことを言うから。
「は?」
「ウチでなるのこと、いっくらでもノロケたら? 俺んち、ガッコから近いし。この時間なら誰もいないからゆっくり話せるよ?」
「ふざけてろ。敵のホームにのこのこ出向くばかがいるかよ?」
「家だけに? うまいことゆーねえ」
完全に、年下のこの男の掌中にいるのが、気に入らない。
「しょおくん、そんなに俺のこと気に入らない?」
「ああ、気に入らないね」
「じゃあ、しょおくん。なるより先に、仲良くなろうよ、俺たちが」
本当にふざけたことを言うから、翔は彬の目を見た。
「おまえ、何? 友達が欲しいわけ?」
「しょおくん、なるとおんなじこと、言うねえ」
「はあ?」
「友達なら、欲しいよ。しょおくんみたいに可愛いお友達」
何が言いたいか、さっぱりわからなくて眉根を寄せる。
もう、彬といたらしかめっ面しかできない。
「このガッコの連中、基本的につまんねーんだよ」
目を逸らした彬が、そう言って。
「なんだか知んねーけど、わけのわかんねー特権階級なんかがあっから。めんどくさくてしょーがねえ」
不思議な感覚だった。
今まで散々聴いてきたきた彬の声と、色が違ったから。
「だからさ。なるっていいじゃん」
「やめろ」
「なるがダメなんだったら、しょおくんが俺のオトモダチになってよ」
初めて“年下”みたいな声を、聴いたような気がして。
「俺が……俺がいれば、なるには近付かない……のか?」
彬の腕を掴んで、正面からその目を見た。
人を煽るだけ煽っておいて、喧嘩腰でしか見せなかった彬の目の奥に、一筋の翳りが見えたから。
「なるじゃ、なくても」
「そうだね。誰でもいいわけじゃない。なると引き換えなら、しょおくんが欲しいね」
なるじゃなくても誰だっていいじゃないか、と言いたかったけれど。
翔の“成親”が、どれだけ他の誰の代わりにもならないくらい魅力的なのかを、他の誰でもない自分が、自分こそが知っているから。
彬がその魅力に気付いているとすれば、きっと彬にとっても、他の誰も成親の代わりにはなれない。
「……なるに、近付かないと、約束できるか?」
言うと、彬はニヤリとまた悪い顔をした。
「それは条件次第だね」
「条件?」
耳元に顔を寄せてきた。
「しょおくんのこと、抱かせてよ」
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