46 / 101
【3】Astrophyllite
13
しおりを挟む
近くにいた三年生男子に声を掛けると、訝しげに眉根を寄せられた。
「……ちょっと、待ってろ」
そんなにおかしいかな、自分がここにいるのは、と翔が不思議に感じる。
ネクタイさえ外しているから、翔が二年であることもわからないハズなのに、まるで“なんでヨソの二年がここにいるんだ?”と具体的に訝っているようで。
「おーい、皇。楠本がなんか、呼んでるぞ」
当たり前に名指しされ、驚く。
え? なんで? カッターシャツに名前なんか、書いてねーぞ?
しかも二年だとナめられないよう、努めて堂々としていたつもりなのに。
「うわ、まじか。すげーな……」
言いながら近づいてきたのは、色黒でガタイのいい男で。
自分と身長こそ殆ど変わらないが、恐らく筋肉のせいで体重はきっと多いだろうと思った。
まるで彬とは印象が違うけれど、並ぶときっとうまく収まるのだろうと思えるのは、その顔が何故か優しそうな雰囲気でしかも整っているせい。
ふにゃふにゃと笑いながら、
「楠本翔。俺に、何か用?」
きっちりつるっとフルネームで呼ばれて、まじまじと皇を見た。
「なんで俺の名前、知ってんの?」
「うっわ。天然だ」
「はあ?」
「このガッコで、おまえの名前知らないヤツなんかいねーよ、ばーか」
よりにもよって、ばか、なんて言われてムっとする。
「ま、いいや。可愛いから許しちゃるよ。で、何? わざわざこんなトコまで来て」
「……俺、んな有名なの?」
愕然として問うと、皇はけらけら笑い始めた。
「生徒会やってて、何ゆっちゃってんのかね? ほんと、可愛いなー翔って」
言われて。そう言えば彬も、生徒会だから知っていると言ってたことを思い出した。
この学校、生徒会なんてお飾りみたいなものだから、会長こそいろんなイベントに噛んで忙しく活動しているが、他の役員なんてその手伝いをしているだけなので、翔としては自分が校内に知れ渡っている自覚なんて全然ない。
「まあ、いいや。佐伯皇。俺はあんたに川添彬についていろいろ聞きたいんだ」
「皇でいいよ。あー……彬について、ね。別に何でも話してやるけどさ。ただ俺、この後バイト入ってんだわ」
バイト。
確かに、そうだな、と納得する。
工業科で部活をしていない者はほぼ百パーバイトしているから。
「あー。そっか、そりゃ邪魔、できねーな」
「夜、遅くてもいいなら、全然いいけど?」
「何時?」
「十時まで。優等生くんはもう寝る時間?」
ニヤりと嗤って言われ、
「あいにく、優等生くんは勉強してるんでね」
同じように嗤って返した。
「じゃ、ライン教えろよ。連絡すっから」
「……ま、いっか」ちょっとだけ逡巡するけれど、連絡手段は必要で。
「電話番号とどっちがいんだよ」
「どっちでもいいよ。てか、ラインでいいよ」
喋りながらスマホでライン交換して。
でも全然イヤじゃなかった。
不思議と話しやすい。
工業科の人間と接触することなんて殆どないが、いつだって遠巻きに見られ、逃げられ、確実に一歩引いているのがわかるから、翔としてもそれが当たり前だと思っていて。
なのに、皇は普通に話しているし、自分に対して軽くふざけてくるから、それがなんだか心地よかった。
彬と仲がいいからか、とふと気づく。
“特選科”にしては、彬や自分は恐らく異質なのだろうことはわかっている。
でもそれは親しくならないとわからないことで。
きっと皇は、彬と深い繋がりがある、と翔は確信していた。
「じゃ、バイト終わったら連絡する」
皇以外の者は皆、完全に自分から遠ざかっていたけれど、皇がそう言って手を振り、自分から離れて行くと彼には人が集まっているようだった。
もう用が終わったから、と、とっとと工業科を後にして。
皇の人間性。に感じたのは。
噂では、結構ヤバい連中と付き合いがあり、タバコや飲酒は普通に嗜んでいると聞いた。
それだけでも“優等生”な翔にしてみれば“不良”じゃないか、と思ったけれど、今話をしてみた相手からはそんな素行の悪さなんて全然感じなくて。
偏見も混じっていたのかもしれない、と翔は反省する。
工業科だから、と、ある種のフィルターをかけた状態で話をする人間がいるから、そこには悪意が入る。
でも翔としてはできる限り偏見なんて持ちたくないと思ってる。
だって自分こそが“特選科”というフィルターで偏見を受けているのだから。
それを不快に感じているからこそ、他人に“フィルター”をかけたくなくて。
でも。
特選科特有の上下関係をほぼ無視している態度は、ある程度先輩後輩を重んじる体育会系の人間にしてみればきっと不快なのだろうと。
今日、三年に対して挑むような態度でいた自分を反省する。
それこそが“特選科”の偏見を助長しているのだろうから。
結局遅刻して補講の教室にそっと入りながら、翔は勉強じゃないけれど一つ学習したのだと今日の体験を振り返っていた。
「……ちょっと、待ってろ」
そんなにおかしいかな、自分がここにいるのは、と翔が不思議に感じる。
ネクタイさえ外しているから、翔が二年であることもわからないハズなのに、まるで“なんでヨソの二年がここにいるんだ?”と具体的に訝っているようで。
「おーい、皇。楠本がなんか、呼んでるぞ」
当たり前に名指しされ、驚く。
え? なんで? カッターシャツに名前なんか、書いてねーぞ?
しかも二年だとナめられないよう、努めて堂々としていたつもりなのに。
「うわ、まじか。すげーな……」
言いながら近づいてきたのは、色黒でガタイのいい男で。
自分と身長こそ殆ど変わらないが、恐らく筋肉のせいで体重はきっと多いだろうと思った。
まるで彬とは印象が違うけれど、並ぶときっとうまく収まるのだろうと思えるのは、その顔が何故か優しそうな雰囲気でしかも整っているせい。
ふにゃふにゃと笑いながら、
「楠本翔。俺に、何か用?」
きっちりつるっとフルネームで呼ばれて、まじまじと皇を見た。
「なんで俺の名前、知ってんの?」
「うっわ。天然だ」
「はあ?」
「このガッコで、おまえの名前知らないヤツなんかいねーよ、ばーか」
よりにもよって、ばか、なんて言われてムっとする。
「ま、いいや。可愛いから許しちゃるよ。で、何? わざわざこんなトコまで来て」
「……俺、んな有名なの?」
愕然として問うと、皇はけらけら笑い始めた。
「生徒会やってて、何ゆっちゃってんのかね? ほんと、可愛いなー翔って」
言われて。そう言えば彬も、生徒会だから知っていると言ってたことを思い出した。
この学校、生徒会なんてお飾りみたいなものだから、会長こそいろんなイベントに噛んで忙しく活動しているが、他の役員なんてその手伝いをしているだけなので、翔としては自分が校内に知れ渡っている自覚なんて全然ない。
「まあ、いいや。佐伯皇。俺はあんたに川添彬についていろいろ聞きたいんだ」
「皇でいいよ。あー……彬について、ね。別に何でも話してやるけどさ。ただ俺、この後バイト入ってんだわ」
バイト。
確かに、そうだな、と納得する。
工業科で部活をしていない者はほぼ百パーバイトしているから。
「あー。そっか、そりゃ邪魔、できねーな」
「夜、遅くてもいいなら、全然いいけど?」
「何時?」
「十時まで。優等生くんはもう寝る時間?」
ニヤりと嗤って言われ、
「あいにく、優等生くんは勉強してるんでね」
同じように嗤って返した。
「じゃ、ライン教えろよ。連絡すっから」
「……ま、いっか」ちょっとだけ逡巡するけれど、連絡手段は必要で。
「電話番号とどっちがいんだよ」
「どっちでもいいよ。てか、ラインでいいよ」
喋りながらスマホでライン交換して。
でも全然イヤじゃなかった。
不思議と話しやすい。
工業科の人間と接触することなんて殆どないが、いつだって遠巻きに見られ、逃げられ、確実に一歩引いているのがわかるから、翔としてもそれが当たり前だと思っていて。
なのに、皇は普通に話しているし、自分に対して軽くふざけてくるから、それがなんだか心地よかった。
彬と仲がいいからか、とふと気づく。
“特選科”にしては、彬や自分は恐らく異質なのだろうことはわかっている。
でもそれは親しくならないとわからないことで。
きっと皇は、彬と深い繋がりがある、と翔は確信していた。
「じゃ、バイト終わったら連絡する」
皇以外の者は皆、完全に自分から遠ざかっていたけれど、皇がそう言って手を振り、自分から離れて行くと彼には人が集まっているようだった。
もう用が終わったから、と、とっとと工業科を後にして。
皇の人間性。に感じたのは。
噂では、結構ヤバい連中と付き合いがあり、タバコや飲酒は普通に嗜んでいると聞いた。
それだけでも“優等生”な翔にしてみれば“不良”じゃないか、と思ったけれど、今話をしてみた相手からはそんな素行の悪さなんて全然感じなくて。
偏見も混じっていたのかもしれない、と翔は反省する。
工業科だから、と、ある種のフィルターをかけた状態で話をする人間がいるから、そこには悪意が入る。
でも翔としてはできる限り偏見なんて持ちたくないと思ってる。
だって自分こそが“特選科”というフィルターで偏見を受けているのだから。
それを不快に感じているからこそ、他人に“フィルター”をかけたくなくて。
でも。
特選科特有の上下関係をほぼ無視している態度は、ある程度先輩後輩を重んじる体育会系の人間にしてみればきっと不快なのだろうと。
今日、三年に対して挑むような態度でいた自分を反省する。
それこそが“特選科”の偏見を助長しているのだろうから。
結局遅刻して補講の教室にそっと入りながら、翔は勉強じゃないけれど一つ学習したのだと今日の体験を振り返っていた。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる