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flashback
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「美紅の父親ってのは、だからまあ気にしなくて、いい。それで、その静子さんってのが、まあちょっとした問題のある人で」
「問題?」
「一応、美紅を高校へ行かせる、ところまでは育て上げてくれたんだけど、ね」
「…………それって美紅がヤンキー化した原因って奴?」
熊さんが苦笑して頷いた。
「ちょっとね、男の人にだらしない人って言うのかな。美紅を追い出して男連れ込んで、結果追い出された美紅が居場所なくして非行化した、というのが簡単な経緯というか」
口下手で、オブラートに包めない親父が、なんとか包んだ説明。
ならば。
現実に美紅がどんな状況だったのか。どんな過去を持っているのか。
ルカは想像した。
不良相手に大立ち回りして、そんなエネルギーを生み出す程の鬱屈を。
美紅が経験した事実を、しかしこの愛情たっぷり安穏な生活をしているルカには到底想像しきれず。
「ゆかりちゃんはね。そんな美紅のことをずっと護ってくれたんだよ。美紅が何で暴れるのか、美紅が何でこんな目に遭っているのか。その原因を、ゆかりちゃんが一番心配してくれて」
美紅が“私の恩人、大恩人”そう言って、ゆかりを家族のように大切にしているのは。
自分の一番最低な時間を、一番近くで一番の味方として支えてくれた人物だから。
「おばあちゃんが、美紅の行ってた学校のスクールカウンセラーってのをやっていたのは、まあ偶然なんだけど。ゆかりちゃんがそこに相談してくれたのと、僕が美紅を補導したのが同時期で」
そのまま。
熊さんは何故か美紅を見染めて、カウンセラーなおばあちゃん(ものすっごい豪快な人である)が、なんと美紅を「うちのヨメに貰います!」と。
勿論その際にいろいろあったことはあったのだろう。
けれど、結果、美紅は高校を中退し、熊さんの嫁になり、ルカを産む。そして今に至る。
それは幸せな結末。この現状の美紅のこの上ない幸せな生活。
「だからね。ゆかりちゃんの、言いたいことがわかるんだ」
「え?」
「ゆかりちゃんが、まあ例えばルカのことを本気で好きになったら、だ。あり得ないけど」
……いや、その、はい。わかってるけど。
「でも、もしそうなったら、彼女は、自分が七海ちゃんのことを傷付けるかもしれない、ってきっと思っているんだろう」
ごめんね、七海のことは絶対になくしたくないの。
そんな、ゆかりの言葉を、思い出した。
「美紅の過去を誰よりも知ってるゆかりちゃんだから。あの子は、きっと誰にも靡かない」
後頭部を強打される、という感覚で。父のセリフがルカを直撃した。
「自分が、七海ちゃんより大切な存在を作る、なんてあり得ないから」
「……うん、わかる」
「お前がフられるってのは、でも、ひょっとしたら、ゆかりちゃんはお前のこと、好きになりそうだったのかもしれないね」
「…………」
「あり得ないけど」
だから! わかってるから! 抉らないで欲しい。
「ただね。でもね。ルカは息子だからね。ゆかりちゃんの」
「…………」
慰めなのだろうが、全然慰めにはなっていないのだが。
「もう、お前が産まれた時から、美紅と一緒にゆかりちゃんがお前のことを大事に大事に育ててくれたのは確かなんだから。本当に、美紅の息子だけど、お前はゆかりちゃんの息子なんだから」
「だから傍にはいられるよって言いたいわけ?」
「そう。嫌か?」
脱“息子”と、思っていたから。
ルカは父親の言葉に、項垂れるように頷いた。
「いいじゃん、息子で」
「良くない!」
「七海ちゃんの次に、大事にされてる、ってことだよ?」
「大事にされるより、俺が大事にしたいの」
言ったルカに、父は鼻で笑う。その表情が「ガキだね」と言っていて。
「ま、今はね。ちょっと顔を合わせ辛いだろうけどね」
「…………会えないよ」
「うん、わかる。でも、ちょっと時間経ったらさ、会ってあげなよ」
「…………ゆかりちゃんが、会ってくれないよ」
「そんなことないさ。息子に会いたくない母親がどこにいる?」
息子。
うん、だよね。もう、それだけだよね、俺の存在って。
「大丈夫だよ。ゆかりちゃんは大人だし、賢い子だから。ちゃんと切り替えてくれるから」
そう。自分さえ切り替えられるなら。
ちゃんと“親子”のように、気持ちを切り替えられたなら。きっとその時には。
「多少時間がかかるかもしれないけど。お前も、大人になりなさい」
父親が。
父親として。
言ってくれたその言葉は、ゆかりへの想いをいつか昇華してくれるのだろう。
今は、まだ無理だけれど。
「問題?」
「一応、美紅を高校へ行かせる、ところまでは育て上げてくれたんだけど、ね」
「…………それって美紅がヤンキー化した原因って奴?」
熊さんが苦笑して頷いた。
「ちょっとね、男の人にだらしない人って言うのかな。美紅を追い出して男連れ込んで、結果追い出された美紅が居場所なくして非行化した、というのが簡単な経緯というか」
口下手で、オブラートに包めない親父が、なんとか包んだ説明。
ならば。
現実に美紅がどんな状況だったのか。どんな過去を持っているのか。
ルカは想像した。
不良相手に大立ち回りして、そんなエネルギーを生み出す程の鬱屈を。
美紅が経験した事実を、しかしこの愛情たっぷり安穏な生活をしているルカには到底想像しきれず。
「ゆかりちゃんはね。そんな美紅のことをずっと護ってくれたんだよ。美紅が何で暴れるのか、美紅が何でこんな目に遭っているのか。その原因を、ゆかりちゃんが一番心配してくれて」
美紅が“私の恩人、大恩人”そう言って、ゆかりを家族のように大切にしているのは。
自分の一番最低な時間を、一番近くで一番の味方として支えてくれた人物だから。
「おばあちゃんが、美紅の行ってた学校のスクールカウンセラーってのをやっていたのは、まあ偶然なんだけど。ゆかりちゃんがそこに相談してくれたのと、僕が美紅を補導したのが同時期で」
そのまま。
熊さんは何故か美紅を見染めて、カウンセラーなおばあちゃん(ものすっごい豪快な人である)が、なんと美紅を「うちのヨメに貰います!」と。
勿論その際にいろいろあったことはあったのだろう。
けれど、結果、美紅は高校を中退し、熊さんの嫁になり、ルカを産む。そして今に至る。
それは幸せな結末。この現状の美紅のこの上ない幸せな生活。
「だからね。ゆかりちゃんの、言いたいことがわかるんだ」
「え?」
「ゆかりちゃんが、まあ例えばルカのことを本気で好きになったら、だ。あり得ないけど」
……いや、その、はい。わかってるけど。
「でも、もしそうなったら、彼女は、自分が七海ちゃんのことを傷付けるかもしれない、ってきっと思っているんだろう」
ごめんね、七海のことは絶対になくしたくないの。
そんな、ゆかりの言葉を、思い出した。
「美紅の過去を誰よりも知ってるゆかりちゃんだから。あの子は、きっと誰にも靡かない」
後頭部を強打される、という感覚で。父のセリフがルカを直撃した。
「自分が、七海ちゃんより大切な存在を作る、なんてあり得ないから」
「……うん、わかる」
「お前がフられるってのは、でも、ひょっとしたら、ゆかりちゃんはお前のこと、好きになりそうだったのかもしれないね」
「…………」
「あり得ないけど」
だから! わかってるから! 抉らないで欲しい。
「ただね。でもね。ルカは息子だからね。ゆかりちゃんの」
「…………」
慰めなのだろうが、全然慰めにはなっていないのだが。
「もう、お前が産まれた時から、美紅と一緒にゆかりちゃんがお前のことを大事に大事に育ててくれたのは確かなんだから。本当に、美紅の息子だけど、お前はゆかりちゃんの息子なんだから」
「だから傍にはいられるよって言いたいわけ?」
「そう。嫌か?」
脱“息子”と、思っていたから。
ルカは父親の言葉に、項垂れるように頷いた。
「いいじゃん、息子で」
「良くない!」
「七海ちゃんの次に、大事にされてる、ってことだよ?」
「大事にされるより、俺が大事にしたいの」
言ったルカに、父は鼻で笑う。その表情が「ガキだね」と言っていて。
「ま、今はね。ちょっと顔を合わせ辛いだろうけどね」
「…………会えないよ」
「うん、わかる。でも、ちょっと時間経ったらさ、会ってあげなよ」
「…………ゆかりちゃんが、会ってくれないよ」
「そんなことないさ。息子に会いたくない母親がどこにいる?」
息子。
うん、だよね。もう、それだけだよね、俺の存在って。
「大丈夫だよ。ゆかりちゃんは大人だし、賢い子だから。ちゃんと切り替えてくれるから」
そう。自分さえ切り替えられるなら。
ちゃんと“親子”のように、気持ちを切り替えられたなら。きっとその時には。
「多少時間がかかるかもしれないけど。お前も、大人になりなさい」
父親が。
父親として。
言ってくれたその言葉は、ゆかりへの想いをいつか昇華してくれるのだろう。
今は、まだ無理だけれど。
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