affection

月那

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confusion

confusion -1-

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 九月に入ると、大学生以外は夏休みも終わって平日が“平日”として機能を始め、ルカのバイトのシフトも安定の基本シフトに戻っていた。
 そうなると、当然家にいる時間というものも増えていて。
 結果、田所家に当たり前に出入りするゆかりとも会うことになるわけで。
 ルカとしては多少の気まずさはあるのだが、ゆかりとしては、その点当然の大人対応で、まるで何もなかったかのように普通に接してくれる。
 勿論、ハグは、ない。
 それには一抹の寂しさを覚える。けれどもそれは本来は一般的な状態だから。
 七海と清華も、恐らくは何かしらの変化を感じてはいるようだが、そこは多少大人になってくれているようで、あえて触れないでくれていた。
「田所くん、今日はもう上がっていいよ」
 店長に言われ、時計を見ると十時を過ぎていた。
 基本シフトは午後五時から十時である。
 本当は深夜帯に入ると多少時給も上がるのだが、オーナーの方針で未成年を深夜帯に入れないと決めているので、稼ぐ為には早朝シフトに入る以外にはない。
 いつものようにバックヤードで余り物(消費期限ギリギリのお弁当とか)を貰って軽く夕食を済ませる。
 すると、扉が開いて深夜シフトの女性が申し訳なさそうにルカに声をかけてきた。
「どしたんスか?」
「店の駐車場のトコでさ、女の子が絡まれてるっぽいんだよね。田所くん、ちょっと見て来てくんないかな? もしヤバそうだったら警察呼ぶんだけど」
 元ヤンと熊さんの息子ではあるが、ルカはあまり腕っぷしに自信がある方ではない。だが、見た通り身長だけはあるので一応それなりに強そうに見えるらしく。
「わかりましたー」
 一抹の不安は覚えつつも、まだ制服のままだったので店員として駐車場に向かう。
 と。
「あれ? 深月?」
 声をかけると、弾かれたように、深月がルカの後ろへと隠れた。
「あー、すみません、このコ俺の連れなんで、お引き取り願えませんかね?」
 どんな悪人かと思っていたものの、深月に声をかけていたのはヘラヘラしたナンパ少年が二人で。ルカよりも年上ではあるだろうが、見るからに大きなルカ――一応バスケなんてやっているので筋肉質ではあるし――にそう言われると、そそくさと逃げ去って行った。
「大丈夫だった?」
 男たちがいなくなると、ルカを見て安心したのか、彼女は涙目になっていて。
「そんなに治安は悪くない場所だけどさ、こんな時間に女の子一人で歩いてたら危ないでしょ? どうしたの?」
「……友達んちに遊びに行ってたんだけど、そこの駅から帰ろうと思って」
 コンビニの前を通って暫く進むと、私鉄の大学前駅があり。そこまでは徒歩十分くらいである。
「わかった。駅まで送るよ」
 言って、とりあえず店内へと彼女を連れて入った。
 深夜帯に女性店員が入っても平気なくらい、この辺りの治安はいいのだが、ナンパに関してはどうしようもない、と思う。
 何しろ彼女は、高校時代にも“イケてる女子”に分類される所謂“可愛い”女の子である。声をかけたくなる男がいるのは避けられないだろう。
 深月を店内で待たせている間に、更衣室で制服を脱いで帰り支度を整えると、深月の存在を気にしているだろう店長と深夜シフトの店員に“詳細は後日”とだけ伝えてとっとと店を出た。
「友達って、うちのガッコ?」
 自転車を押して、駅まで歩く。
「……うん。最近仲良くなって」
「送ってもらえば良かったのに」
「だって、女の子だもん。そしたらまた帰りが一人になっちゃう」
 男だと思っていたので、少し驚く。
 いや、深月はモテるだろうから、既に工大生の彼氏がいても不思議はないと思っているわけで。
「ごめんね、仕事終わって早く帰りたいでしょ」
「いやいや、大丈夫。駅まではすぐそこだし、どうせ通り道だから」
「ルカは、相変わらず優しいね」
「そんなことないよ。あんなトコ見てたらさすがに。男なら送ってくのは当たり前でしょ」
「ありがと」
 少し、安心した様子で。深月が微笑んだ。
「深月の学校は、いつから?」
「最終週からだよ。でも、その前には戻らなきゃだけど」
「一人暮らししてんの?」
「うん。ちょっと実家から通うのは厳しいかなって。うちの親、女の子も独り立ちは必要って考え方だからね」
「そっか。いいね。俺は信用ないから、自宅通学が条件だったし」
「えー、信用ないの?」
「多分ね。信用っていうか、信頼、かなー。自立できると思われてないんだと思う」
 自虐的なことを言うと、深月が笑った。
「ルカ、しっかりしてそうだけど」
「してないよ。基本、家事は親任せだし」
「男の子は仕方ないんじゃない?」
「まあ、時間もないし」
 学校とバイトだけでいっぱいいっぱいになっている、なんてちょっと恥ずかしいかもしれないが。
 くだらない話をぽつぽつしながら歩いていると駅まではすぐだった。
 そして立ち止まった時、
「また、会えるかな?」
深月が言って。
「そうだね、また坂本たちと集まろうか。九月中なら平日の方が集まりやすいかもしれないけど、いいかな?」
 ルカの返答に、深月はちょっと複雑な表情をした。けれど、その意味はわからなくて。
「うん、いいよ。また連絡するね」
「じゃ、気を付けて」
「ありがと。おやすみ」
 駅構内へと階段を上る深月を見送ると、ルカは自転車にまたがり、自宅へと走った。
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