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その日のサークルは朝から坂本が絶好調だった。
いつもは嫌々走る外周も、鼻歌交じりでルカの前を駆け抜けて行き、シュート練習に到ってはとにかく殆ど外すことなく。
「タイキ、どしたの?」
訝しんだタクマに問いかけられ、ルカも首を傾げた。
「わっかんないっす。稀に見る浮かれ調子ですよね」
周囲に気持ち悪がられているにも関わらず坂本はそのまま午前中を走り抜き、その日は午後から別サークルが体育館を使用するということで解散となり、ルカは坂本を昼飯に誘った。
「へへへへへー」
いつもの学食で――基本的に夏休み中もお盆期間以外は開いているので非常に助かる満腹食堂である――大盛中華丼を食べると、坂本にそのゴキゲンの理由を問い質した。
の、結果、この不気味な笑い。
「キモイ」
「いやいや、いやいや。全然ですよ」
「何が!」
にまにま笑っている坂本に、ちょっとイラついて。
「いやー。ちょっとね」
「……話すつもりが、あるのかないのかだけ、まず教えてくれ」
ちょっと、いやかなり。キツめの声でルカが言うと、坂本はコップの水を飲み干した。
「彼女が、できました」
コップを置いた瞬間。の、その答え。
本日の坂本に納得。
「俺の知ってるコ?」
「うん。しいちゃん」
あっさり答える坂本に、愕然。
「え? ちょっと待って。それって、ヨリを戻した、ってこと?」
しいちゃん――篠田志保――は、坂本の高校時代の彼女、であったハズで。
「こないだの合コン?」
にんまりと頷いた坂本に畳みかけると、経緯を話し始めた。
「あの日、結構楽しかったじゃん?」
ルカ、坂本、深月、篠田、入江という元同じ高校組に、佐竹と数人が集まり、ボーリングや卓球のできる複合型遊技場ではしゃぎ、そのままカラオケと夕食。高校生のような合コンだったが、同い年の集まりだけにしっかり盛り上がって。
「で、その後みんなで連絡先交換したろ?」
またやろう。グループライン作ろう。と言い出したのは他ならぬ坂本で。
そういう場での仕切りには定評のある彼らしい手早さであった。
「そしたらさ。すぐにしいちゃんから個人メッセージ入って。二人で会わないかって言われたんだ」
さすがに気まずいかも、と少し不安になりながらも二人きりで会ったら、なんと「また、付き合いたい」と言われたらしい。
「あの頃はさ、やっぱり若かったから結構難しいトコもあったし。でも、まあお互いにちょっと時間経ってさ、大人になったって、感じ?」
大人って…………。
「ほら、しいちゃんってあの頃からキレイ系だったじゃん? で、なんか大学生になって更に艶が増した、的な雰囲気でさー」
まあ、確かに篠田がオトナっぽくなっていたのは、認めるけど。
「篠田はともかく、お前がオトナになってるとは思えねーけど」
「それが! なってるらしいんだよ」
「何? 篠田に言われたのか?」
「そう! 坂本くん前より大人っぽくなってるし、私で良かったらまた改めてどうかな、なんてさー」
口真似をしていたようではあったが、ルカは「何言ってるんだか」としか思えず。
「もーねー。全然オッケー、全然アリ! 年上好きとしても、しいちゃんの大人っぽさがあれば全然オッケ」
「…………幸せそうだな」
ルカの少し呆れている声にも、坂本は全力で頷いた。
聞いているルカとの温度差がかなり激しい。
「まあ、坂本が幸せなら、それで全然いいけど」
「何? 寂しくなっちゃった?」
「んなわけねーだろ」
「いやー、今まで待ってた甲斐があった! こんな嬉しい結末があるから、今まで俺はモテなかったんだな」
勝手に盛り上がる坂本を後目に、ルカは軽くため息を吐いた。
こっちは失恋してクサってるというのに。
まあ。そうは言っても親友坂本の幸せは、全然悪いことではないので。
「良かったな、坂本」
「今度、ルカにもしいちゃんの友達紹介して貰うように頼もうか?」
イラ!
ルカはその言葉にはさすがに不快感を示し、
「いらない」
と短く言い切った。
坂本も、ルカのその返事に自分の浮かれ具合を反省したようで、小さく、ごめん、と謝った。
「……まあ、でも。深月がまた集まりたいって言ってたから」
少し重くなってしまった空気に、気まずさを感じたルカが言う。
「あ、うん。そうだな、あの時も皆でまた集まろうって話したし。ちょっと、また計画立てるよ」
「深月、月末には県外に戻るらしいから。まあ、彼女の予定中心で企画してやって」
「わかった」
多少の気まずさはあったものの、そこは高校時代からの親友である。
次の企画の話や、後期の授業選択の話に戻るとすっかり元の状態に戻り、夕方のルカのバイトまで二人で時間を潰したのだった。
いつもは嫌々走る外周も、鼻歌交じりでルカの前を駆け抜けて行き、シュート練習に到ってはとにかく殆ど外すことなく。
「タイキ、どしたの?」
訝しんだタクマに問いかけられ、ルカも首を傾げた。
「わっかんないっす。稀に見る浮かれ調子ですよね」
周囲に気持ち悪がられているにも関わらず坂本はそのまま午前中を走り抜き、その日は午後から別サークルが体育館を使用するということで解散となり、ルカは坂本を昼飯に誘った。
「へへへへへー」
いつもの学食で――基本的に夏休み中もお盆期間以外は開いているので非常に助かる満腹食堂である――大盛中華丼を食べると、坂本にそのゴキゲンの理由を問い質した。
の、結果、この不気味な笑い。
「キモイ」
「いやいや、いやいや。全然ですよ」
「何が!」
にまにま笑っている坂本に、ちょっとイラついて。
「いやー。ちょっとね」
「……話すつもりが、あるのかないのかだけ、まず教えてくれ」
ちょっと、いやかなり。キツめの声でルカが言うと、坂本はコップの水を飲み干した。
「彼女が、できました」
コップを置いた瞬間。の、その答え。
本日の坂本に納得。
「俺の知ってるコ?」
「うん。しいちゃん」
あっさり答える坂本に、愕然。
「え? ちょっと待って。それって、ヨリを戻した、ってこと?」
しいちゃん――篠田志保――は、坂本の高校時代の彼女、であったハズで。
「こないだの合コン?」
にんまりと頷いた坂本に畳みかけると、経緯を話し始めた。
「あの日、結構楽しかったじゃん?」
ルカ、坂本、深月、篠田、入江という元同じ高校組に、佐竹と数人が集まり、ボーリングや卓球のできる複合型遊技場ではしゃぎ、そのままカラオケと夕食。高校生のような合コンだったが、同い年の集まりだけにしっかり盛り上がって。
「で、その後みんなで連絡先交換したろ?」
またやろう。グループライン作ろう。と言い出したのは他ならぬ坂本で。
そういう場での仕切りには定評のある彼らしい手早さであった。
「そしたらさ。すぐにしいちゃんから個人メッセージ入って。二人で会わないかって言われたんだ」
さすがに気まずいかも、と少し不安になりながらも二人きりで会ったら、なんと「また、付き合いたい」と言われたらしい。
「あの頃はさ、やっぱり若かったから結構難しいトコもあったし。でも、まあお互いにちょっと時間経ってさ、大人になったって、感じ?」
大人って…………。
「ほら、しいちゃんってあの頃からキレイ系だったじゃん? で、なんか大学生になって更に艶が増した、的な雰囲気でさー」
まあ、確かに篠田がオトナっぽくなっていたのは、認めるけど。
「篠田はともかく、お前がオトナになってるとは思えねーけど」
「それが! なってるらしいんだよ」
「何? 篠田に言われたのか?」
「そう! 坂本くん前より大人っぽくなってるし、私で良かったらまた改めてどうかな、なんてさー」
口真似をしていたようではあったが、ルカは「何言ってるんだか」としか思えず。
「もーねー。全然オッケー、全然アリ! 年上好きとしても、しいちゃんの大人っぽさがあれば全然オッケ」
「…………幸せそうだな」
ルカの少し呆れている声にも、坂本は全力で頷いた。
聞いているルカとの温度差がかなり激しい。
「まあ、坂本が幸せなら、それで全然いいけど」
「何? 寂しくなっちゃった?」
「んなわけねーだろ」
「いやー、今まで待ってた甲斐があった! こんな嬉しい結末があるから、今まで俺はモテなかったんだな」
勝手に盛り上がる坂本を後目に、ルカは軽くため息を吐いた。
こっちは失恋してクサってるというのに。
まあ。そうは言っても親友坂本の幸せは、全然悪いことではないので。
「良かったな、坂本」
「今度、ルカにもしいちゃんの友達紹介して貰うように頼もうか?」
イラ!
ルカはその言葉にはさすがに不快感を示し、
「いらない」
と短く言い切った。
坂本も、ルカのその返事に自分の浮かれ具合を反省したようで、小さく、ごめん、と謝った。
「……まあ、でも。深月がまた集まりたいって言ってたから」
少し重くなってしまった空気に、気まずさを感じたルカが言う。
「あ、うん。そうだな、あの時も皆でまた集まろうって話したし。ちょっと、また計画立てるよ」
「深月、月末には県外に戻るらしいから。まあ、彼女の予定中心で企画してやって」
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