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第1話 許嫁と言い張る超絶美少女

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「加賀くんは私の許嫁なの。あまり近づかないでくれる?」

 こんなことになったのは遡る事、約三十分前……

 俺の名前は加賀慶哉《かがけいや》、何の変哲もないただの高校生だ。
 あまり目立つのも好きではなく、この日までは平凡な毎日を送っていた。

「慶哉、また一緒のクラスだな!これからもよろー」

 彼の名前は永峯明琉《ながみねあくる》。
 明琉とは中学生時代からの友人で、今では信頼出来る良い友人である。

「え!慶哉と明琉も同じクラスなの?ラッキ~」

 彼女の名前は西宮香織《にしみやかおり》。
 香織は俺の幼馴染で小学校の頃からの付き合いである。
 俺が明琉と仲良くなった事がきっかけで、香織は明琉とも仲良くしている。

「しかし慶哉羨ましいぜー。あの超絶美少女の高坂茉優《こうさかまゆ》が隣なんてよー」
「高坂茉優?どこかで聞いた覚えが……」

 少し考えていると、目の前を女の子の艶やかな長い黒髪が靡かせた。シャンプーの良い匂いがする。
 そして、その女の子は俺の隣の席に座った。
 この子が高坂さんなのだろうか。
 明琉が言うように超絶美少女でクラスの皆の視線を集めていた。

「えーっと、高……」
「ね~ね~慶哉、始業式終わったらどこか遊びに行こ!」

 香織か、なんと間が悪い……。
 折角勇気を出して高坂さんに声を掛けようとしたのに。

「今日かー、どうしようかな」
「えー、別に少しくらい良いでしょー?」

 香織が俺の腕に抱きつきながら上目遣いで見つめてくる。
 腕にむ、胸が、当たってる……

 そしてとうとうここで現在に至り、事件は起こってしまうのだ。

「加賀くんは私の許嫁なの。あまり近づかないでくれる?」

 その声を上げた主は予想外の人物である。
 隣の席に座っていた超絶美少女の高坂茉優だ。
 この一言でクラスの雰囲気が一気に変わった。
 声はそこまで大きくなかったが、誰もが高坂さんのことを気に掛けていたため、一気に注目を集めた。

「ちょっ、ちょっとこっち来て!」

 耐えきれなくなった俺は高坂さんの手を引っ張り教室を出た。
 この場を離れるのは余計に誤解されるかもしれないが、こうする以外に思いつかなかったのだ。

「助けてくれたのは嬉しいけど別にあそこまで言ってくれる必要はなかったのに」

 人気のなさそうな場所に着いて、そう言うと高坂さんは首を傾げてよく分かってなさそうな表情をした。
 高坂さんは学校の中でも間違いなくトップクラスの美少女なので、何を取っても平凡な俺と変な噂が立つと迷惑に違いない。
 そう思っていたが……

「あー、許嫁のこと?あれなら‴本当‴のことだし別にいいんじゃない?」
「……え?」
「え?」

 俺とこんなにも可愛い女の子が許嫁なんて全く意味がわからない。
 まず、なんで俺に許嫁なんて居るんだ?母さんや父さんから何も聞いてないんだが。

「もしかして何も聞いてないの?」
「うん?」
「じゃあ今、お母さんにでも電話して聞いてみてよ」

 高坂さんがそう催促して来たので、俺は手馴れた操作で母さんに電話を掛けた。

「もしもし、慶哉だけど」
『あら慶ちゃん、どうしたの?』

 高校生になっても慶ちゃん呼びは前からやめて欲しいと言っているのに、一向に辞める気配がないのは何故だろうか。

「急で悪いんだけど……俺って許嫁とか居るの?」
『居るけど、それがどうかしたの?』
「別にどうもしないけど……、因みにその子の名前は?」
『あら、忘れちゃったの?‴高坂茉優‴ちゃんよ』

 その名前を聞いた瞬間に電話を切った。
 しかし忘れたも何も聞いた覚えすらないんだが。

「ね?本当だったでしょ?」

 高坂さんがニヤニヤしながら寄ってきて、急に近づいて来たためか顔と顔が近い。
 高坂さんも予想以上に近かったらしく、顔を紅潮させてすぐに距離を置いた。

「ま、まさか本当だったとは思わなかったなー」

 実を言うと、俺も高坂さんの顔が近すぎてかなりドキドキしていた。
 あんなにも可愛い顔を近くで見てドキドキしない人は誰一人としていないだろう。

「加賀くん」
「は、はい」

 急に名前を呼ばれ、ちょっとビックリする。

「今から学校抜け出してどこかに遊びに行こっか」
「……え?」
「どうせ今日は始業式だけだし、抜け出しても変わらないよ」

 高坂さんの思わぬ一言に吃驚してしまった。

「高坂さん真面目なタイプだと思ってたけど、意外にヤンチャなんだね」
「覚えてない?私小さい頃からヤンチャだったけど」

 俺はこの子と小さい頃に会ったことがあるのか?小さい頃の記憶は大体忘れちゃってるから何も覚えてないんだよな……

「ま、いいや!映画にでも行こ!」

 そう言って高坂さんは俺の手を引いた。
 こんなにも超絶美少女とのデートならしょうがない、千載一遇のチャンスなのだから。
 そうして俺と高坂さんは、雲や教室の皆の視線を気にせず映画館へと向かったのである。
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