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22 サイズを測ろう??
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晩餐を終え、イグニスに続いて部屋に戻る。侍従たちはすでに湯浴みの用意をしていた。イグニスが浴室を使っている間、ルルシェは自室で待つことにする。王子ひとりに三人も侍従がいるのでルルシェの仕事なんかないのだ。
やがて「おやすみなさいませ」と声がし、二つのドアが開閉する音。静かな室内にノックが響いて「おまえも風呂に入れ」と言われる。ルルシェは着替えを持って浴室へ向かった。
「うわぁ、すごいお湯の量。気持ち良さそう……!」
これなら全身をくまなく洗えそうだ。誰かの目を気にすることもなく服を脱ぎ、のんびりと体を洗う。広い浴室にたくさんのお湯、いい香りの石鹸。部屋を移ってよかった。
布で体を拭き、寝間着を身につけて浴室を出る。イグニスは何かの本を読んでいた。邪魔しないように一礼して室内を通り過ぎようとすると、「ちょっと待て」と声をかけられる。
「なんですか?」
「サイズを測ろう」
いつの間にかイグニスの手には巻尺が握られていた。しゅるっと伸ばしながら近寄ってくる。
「サイズって何の……」
「おまえの下着と服を作るために採寸するんだ。その男用の下着を見ていると萎える。俺の前では、女性用のものを身につけるようにしろ」
(はぁあ!?)
あなたが勝手に萎えてるだけでしょ、ひとのせいにしないでよと思う。が、協力すると言った手前、反論しにくい。
「あの、でも……女性の下着を誰かに見られたら困りますし」
「着るのは夜だけでいい。女に慣れるために協力しろと言っただろ」
「……分かりました」
イグニスはルルシェを守るために部屋を移してくれたのだし、こちらからも協力する姿勢を見せるべきだろう。ルルシェは観念し、両手を上げてサイズを測れる体勢をとった。
「……服の上からだと体の輪郭が分からない。下着になれよ」
「ええぇ? 今はコルセットをつけていないから、服を脱いだら胸が見えてしまいます」
「今さら別にいいだろ」
「嫌です!」
(仁王立ちで人前に胸をさらすなんて、そんな滑稽で恥ずかしい格好をするの絶対やだ。馬鹿みたいじゃないの!)
頑として動こうとしないルルシェの様子にイグニスは考え込み、衣装棚から薄絹のショールを取り出した。紺色の生地で、つる草の模様がある。
「ほら、これで体を隠せばいいだろ」
「……はぁい」
(透けてるけど、模様があるから体は見えにくいかも)
ルルシェはイグニスに背を向けて服を脱ぎ、体にうすっぺらいショールを巻きつけた。後ろに回ったイグニスがルルシェの肩幅を測って紙に数字を書く。
イグニスはルルシェの周りをうろうろしながら胸囲やウエスト、ヒップ、袖丈と背丈など細かく調べた。彼はいつも仕立て屋を呼んで服を作らせているから、どこをどう測ればいいか分かっているのだろう。服を母任せにしていたルルシェはよく知らないのでイグニスの言う通りにしていた。
「おまえの服は内密に作らせるようにするから安心しろ」
「はあ」
ようやく測定が終わったようだ。もう着替えてもいいのかとイグニスの様子を伺うと、彼もルルシェをじっと見ている。
(まだ何か用があるの?)
ルルシェは無言で見つめ返した。距離が近いので見上げるような角度がつらい。
「なに――」
イグニスが黙ったままなので「なにか?」と聞こうと思ったのに、彼は何も言わないまま唇を重ねてきた。長い腕が、肩と腰を抱きしめている。
嫌悪はなかったが驚きを隠せず、目を開けたままイグニスの顔を凝視した。伏せた睫毛は意外と長く、綺麗な顔をしているのだと改めて気づく。
唇を離した彼は、ルルシェを見つめながらしみじみと言った。
「……不思議なものだな。九年前、広間のすみに父親と立っていた小さな少年が、こんなに美しい女になるとは……」
(それはお互い様でしょ)
イグニスの腕の中で、ルルシェも九年前を思い出した。
十四歳のイグニスはまだあどけなく、格好いい王子さまというよりはやんちゃな男の子のようだった。あの少年とこんな関係になるなんて、夢にも思っていなかったのに。
イグニスはついばむように何度か口付けし、最後に熱っぽくかすれた声で「もう休め」と言う。ルルシェは着替えてから自分の部屋に戻った。
(一緒に寝ようと言われなくてよかった……)
朝に目が覚めて、至近距離に王子がいるというのは心臓に悪い。寝てる間に蹴ったりしていないかと心配になるし。
翌朝、目を開けたとき一瞬どこにいるのか分からなかった。体を起こしてからようやく「そういえば部屋を移ったんだっけ」と思い出し、そろそろと身を起こす。
何日かたつと部屋にも慣れ、快適に過ごせるようになっていった。
やがて「おやすみなさいませ」と声がし、二つのドアが開閉する音。静かな室内にノックが響いて「おまえも風呂に入れ」と言われる。ルルシェは着替えを持って浴室へ向かった。
「うわぁ、すごいお湯の量。気持ち良さそう……!」
これなら全身をくまなく洗えそうだ。誰かの目を気にすることもなく服を脱ぎ、のんびりと体を洗う。広い浴室にたくさんのお湯、いい香りの石鹸。部屋を移ってよかった。
布で体を拭き、寝間着を身につけて浴室を出る。イグニスは何かの本を読んでいた。邪魔しないように一礼して室内を通り過ぎようとすると、「ちょっと待て」と声をかけられる。
「なんですか?」
「サイズを測ろう」
いつの間にかイグニスの手には巻尺が握られていた。しゅるっと伸ばしながら近寄ってくる。
「サイズって何の……」
「おまえの下着と服を作るために採寸するんだ。その男用の下着を見ていると萎える。俺の前では、女性用のものを身につけるようにしろ」
(はぁあ!?)
あなたが勝手に萎えてるだけでしょ、ひとのせいにしないでよと思う。が、協力すると言った手前、反論しにくい。
「あの、でも……女性の下着を誰かに見られたら困りますし」
「着るのは夜だけでいい。女に慣れるために協力しろと言っただろ」
「……分かりました」
イグニスはルルシェを守るために部屋を移してくれたのだし、こちらからも協力する姿勢を見せるべきだろう。ルルシェは観念し、両手を上げてサイズを測れる体勢をとった。
「……服の上からだと体の輪郭が分からない。下着になれよ」
「ええぇ? 今はコルセットをつけていないから、服を脱いだら胸が見えてしまいます」
「今さら別にいいだろ」
「嫌です!」
(仁王立ちで人前に胸をさらすなんて、そんな滑稽で恥ずかしい格好をするの絶対やだ。馬鹿みたいじゃないの!)
頑として動こうとしないルルシェの様子にイグニスは考え込み、衣装棚から薄絹のショールを取り出した。紺色の生地で、つる草の模様がある。
「ほら、これで体を隠せばいいだろ」
「……はぁい」
(透けてるけど、模様があるから体は見えにくいかも)
ルルシェはイグニスに背を向けて服を脱ぎ、体にうすっぺらいショールを巻きつけた。後ろに回ったイグニスがルルシェの肩幅を測って紙に数字を書く。
イグニスはルルシェの周りをうろうろしながら胸囲やウエスト、ヒップ、袖丈と背丈など細かく調べた。彼はいつも仕立て屋を呼んで服を作らせているから、どこをどう測ればいいか分かっているのだろう。服を母任せにしていたルルシェはよく知らないのでイグニスの言う通りにしていた。
「おまえの服は内密に作らせるようにするから安心しろ」
「はあ」
ようやく測定が終わったようだ。もう着替えてもいいのかとイグニスの様子を伺うと、彼もルルシェをじっと見ている。
(まだ何か用があるの?)
ルルシェは無言で見つめ返した。距離が近いので見上げるような角度がつらい。
「なに――」
イグニスが黙ったままなので「なにか?」と聞こうと思ったのに、彼は何も言わないまま唇を重ねてきた。長い腕が、肩と腰を抱きしめている。
嫌悪はなかったが驚きを隠せず、目を開けたままイグニスの顔を凝視した。伏せた睫毛は意外と長く、綺麗な顔をしているのだと改めて気づく。
唇を離した彼は、ルルシェを見つめながらしみじみと言った。
「……不思議なものだな。九年前、広間のすみに父親と立っていた小さな少年が、こんなに美しい女になるとは……」
(それはお互い様でしょ)
イグニスの腕の中で、ルルシェも九年前を思い出した。
十四歳のイグニスはまだあどけなく、格好いい王子さまというよりはやんちゃな男の子のようだった。あの少年とこんな関係になるなんて、夢にも思っていなかったのに。
イグニスはついばむように何度か口付けし、最後に熱っぽくかすれた声で「もう休め」と言う。ルルシェは着替えてから自分の部屋に戻った。
(一緒に寝ようと言われなくてよかった……)
朝に目が覚めて、至近距離に王子がいるというのは心臓に悪い。寝てる間に蹴ったりしていないかと心配になるし。
翌朝、目を開けたとき一瞬どこにいるのか分からなかった。体を起こしてからようやく「そういえば部屋を移ったんだっけ」と思い出し、そろそろと身を起こす。
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