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22 イリオン皇子の受難
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翌日、いつも以上にしっかりと朝食を取った。
昨晩食べてから眠ったのが功を奏したのか、体がふらつくこともない。
よし。
書類を捜しに行こう!
フェリオスには探すと宣言したので、朝から堂々と執務室の棚を漁っている。が、手ごたえは全くなく、入っているのは決裁済みの書類ばかりだ。
「駄目だわ……。この引き出しにもない」
「そんな目に付く場所に入れているわけがない。少なくとも、俺だったら入れないな」
「っ、気が散りますわ! 離れてくださいな」
ただでさえイライラしているのに、時おり頭の上から響く声のせいで尚さら神経が逆立つ。私に注意されたフェリオスは軽く肩をすくめ、机に戻っていった。
おかしい。
初めて会った頃は、肩をすくめるような性格の人ではなかったはず。
どうしたの、中身が入れ替わっちゃったの?
まあいいか。今はとにかく婚約の書類だ。
町民どうしであれば婚約は口約束で済むが、さすがに貴族や皇族となると書面での手続きが必要となる。フェリオスは私を迎えに来た日に、お祖父様が差し出した書類にサインをしていた。
もちろん私もサインをしたが、あの紙をどこへ仕舞ったのだろう?
棚から離れ、執務室をぐるりと見回した。私の机、フェリオスの巨大な机。書類をしまう棚がいくつもあり、しかも壁は一面本棚になっている。
……絶望的な気分になってきた。
たった一人で探すのはあまりにも非効率だが、執務室の家捜しとなるとカリエは恐縮するだろうし……。
「あ、そうだわ。イリオン様は今日どちらにいらっしゃるのでしょう?」
「イリオンなら自室にいると思うが」
「ありがとうございます!」
そうだわよ、あの皇子様に手伝わせればいいじゃない!
私とフェリオスがくっ付くのが嫌なイリオン皇子なら、きっと書類探しを手伝ってくれるはずだ。
執務室から出て、イリオン皇子の部屋へ向かう。ドアを数回ノックすると、やや機嫌の悪そうな皇子様が出てきた。
「……やっぱり来た」
「はい? 何でしょう?」
「何でもないよ。ところで何の用?」
「婚約の証となる書類を、一緒に探して頂けませんか? 私、フェリオス様との婚約を解消しようと思いますの。イリオン様は私たちの婚約に反対なのでしょう? どうか協力してくださいませ」
「いいけど……。見つからなくても僕を恨むなよ」
「あら、恨んだりなんてしませんわよ」
おほほ、と笑いながら思う。
フェリオスといいイリオンといい、どうして『見つからない』が前提なわけ?
それだけ巧妙に隠してるってこと?
部屋から出てきたイリオンと並んで歩きつつ、作戦を練ることにした。
「フェリオス様の様子からして、執務室には書類を置いていないような気がするんです。でも他に隠せるような場所ってあるでしょうか?」
「あんたさぁ、とりあえず自分の部屋を探してみたら? 兄上ならそれぐらいやりそうな気がするけど」
「ああ、なるほど! それは盲点でしたわ! イリオン様、私の部屋はこちらです」
いいことを聞いた!
――と思ってイリオン皇子を部屋に招こうとしたのに、彼は突然顔色を変えて叫んだ。
「ちょっちょっと待てよ。僕にもあんたの部屋に入れって言うのか? いやだ、絶対お仕置きされる! 僕はまだ死にたくない!」
「何をおっしゃってますの。誰も怒ったりしませんわ」
「兄上に見つかったら、どうなるか分からないんだぞ! 他人ごとのように言うな!」
「フェリオス様がそれぐらいで怒るとは思いませんけど。でもまあ、見つからなければいいのでしょう?」
「は?」
私の部屋が見えてきた。今ごろカリエが掃除をしている頃だろう。
部屋のドアを開け、寝台からシーツをはぎ取っているカリエに声をかけた。
「カリエ、お客様よ。変装したいそうだから、道具を持ってきてくれる?」
「はい、姫様! まぁ、なんて綺麗な殿方でしょう。きっとお似合いになりますね!」
カリエは持っていたシーツを部屋の隅におき、櫃から私が使っている変装セットを出してきた。その間にイリオンを部屋に入れ、メイド服を彼に見せる。
「イリオン様は細いですし、お顔も綺麗ですからきっとこの服が似合いますわ。さあ、どうぞお着替えになって?」
「ほ、本気か!? この僕に女装しろだなんて……!」
「ばれたら命が危ないのでしょう。私は別に、あなたがそのままでも構いませんのよ?」
「……くそっ! もうどうにでもなれ!」
なぜか皇子はヤケクソのように叫び、つい立の向こうで着がえ始めた。数分後に出てきたが、どこから見ても少し背の高い少女にしか見えない。
控えめに言っても、私よりメイド服が似合っている。
……ちょっと悔しい。
「よくお似合いですわ! とてもお美しいです!」
「やめろ、嬉しくない! さっさと探す……ううっ!?」
「最後にカツラをどうぞ。これでぱっと見た感じ、イリオン様だとは分かりませんわ」
「……どうも。書類を探してもいいか?」
「ええ、お願いします。頑張りましょうね!」
こうして私とイリオン皇子の家捜しが始まった。
自分の部屋だが、もとは客間だったため家具も多いし本棚にも百を超える本が並んでいる。
もし本に挟んでいたとしたらかなり面倒だ。カリエにも手伝ってもらって本を全て棚から出し、パラパラとページをめくる。
昼近くになって、部屋のドアがノックされた。
カリエが来客を確かめるとフェリオスである。
「ララシーナ、探し物はいいがちゃんと食べないと駄目だぞ。あなたは弱っているのだから…………」
部屋に入ってきたフェリオスは、私の横で本をめくる少女に釘付けになった。
しかし美しさに驚いているという様子ではない。
「…………イリオン? なんだ、その格好は」
「っああもう! だから僕は、こんな服を着るのは嫌だったんだ!」
叫ぶイリオンの横で、フェリオスが肩を震わせている。口を手で押さえ、何とか笑いを堪えようとしているがかなり苦しそうだ。
やがて。
「っ、はっははは! 何をしてるんだ、おまえ! しかし意外と似合っているな!」
「良かったですわね、イリオン様。やっぱりフェリオス様はお怒りではありませんわ」
「……っ、うぅっ……! 覚えてろ!」
イリオン皇子は悪役のような捨て台詞を吐き、自分の服をかかえて部屋を飛び出してしまった。
ああ、あの格好で廊下に出たら騎士たちにも見られるだろうに。
ちょっと可哀相だったかしら。
今後、彼に女装させるのはやめようと思った。
昨晩食べてから眠ったのが功を奏したのか、体がふらつくこともない。
よし。
書類を捜しに行こう!
フェリオスには探すと宣言したので、朝から堂々と執務室の棚を漁っている。が、手ごたえは全くなく、入っているのは決裁済みの書類ばかりだ。
「駄目だわ……。この引き出しにもない」
「そんな目に付く場所に入れているわけがない。少なくとも、俺だったら入れないな」
「っ、気が散りますわ! 離れてくださいな」
ただでさえイライラしているのに、時おり頭の上から響く声のせいで尚さら神経が逆立つ。私に注意されたフェリオスは軽く肩をすくめ、机に戻っていった。
おかしい。
初めて会った頃は、肩をすくめるような性格の人ではなかったはず。
どうしたの、中身が入れ替わっちゃったの?
まあいいか。今はとにかく婚約の書類だ。
町民どうしであれば婚約は口約束で済むが、さすがに貴族や皇族となると書面での手続きが必要となる。フェリオスは私を迎えに来た日に、お祖父様が差し出した書類にサインをしていた。
もちろん私もサインをしたが、あの紙をどこへ仕舞ったのだろう?
棚から離れ、執務室をぐるりと見回した。私の机、フェリオスの巨大な机。書類をしまう棚がいくつもあり、しかも壁は一面本棚になっている。
……絶望的な気分になってきた。
たった一人で探すのはあまりにも非効率だが、執務室の家捜しとなるとカリエは恐縮するだろうし……。
「あ、そうだわ。イリオン様は今日どちらにいらっしゃるのでしょう?」
「イリオンなら自室にいると思うが」
「ありがとうございます!」
そうだわよ、あの皇子様に手伝わせればいいじゃない!
私とフェリオスがくっ付くのが嫌なイリオン皇子なら、きっと書類探しを手伝ってくれるはずだ。
執務室から出て、イリオン皇子の部屋へ向かう。ドアを数回ノックすると、やや機嫌の悪そうな皇子様が出てきた。
「……やっぱり来た」
「はい? 何でしょう?」
「何でもないよ。ところで何の用?」
「婚約の証となる書類を、一緒に探して頂けませんか? 私、フェリオス様との婚約を解消しようと思いますの。イリオン様は私たちの婚約に反対なのでしょう? どうか協力してくださいませ」
「いいけど……。見つからなくても僕を恨むなよ」
「あら、恨んだりなんてしませんわよ」
おほほ、と笑いながら思う。
フェリオスといいイリオンといい、どうして『見つからない』が前提なわけ?
それだけ巧妙に隠してるってこと?
部屋から出てきたイリオンと並んで歩きつつ、作戦を練ることにした。
「フェリオス様の様子からして、執務室には書類を置いていないような気がするんです。でも他に隠せるような場所ってあるでしょうか?」
「あんたさぁ、とりあえず自分の部屋を探してみたら? 兄上ならそれぐらいやりそうな気がするけど」
「ああ、なるほど! それは盲点でしたわ! イリオン様、私の部屋はこちらです」
いいことを聞いた!
――と思ってイリオン皇子を部屋に招こうとしたのに、彼は突然顔色を変えて叫んだ。
「ちょっちょっと待てよ。僕にもあんたの部屋に入れって言うのか? いやだ、絶対お仕置きされる! 僕はまだ死にたくない!」
「何をおっしゃってますの。誰も怒ったりしませんわ」
「兄上に見つかったら、どうなるか分からないんだぞ! 他人ごとのように言うな!」
「フェリオス様がそれぐらいで怒るとは思いませんけど。でもまあ、見つからなければいいのでしょう?」
「は?」
私の部屋が見えてきた。今ごろカリエが掃除をしている頃だろう。
部屋のドアを開け、寝台からシーツをはぎ取っているカリエに声をかけた。
「カリエ、お客様よ。変装したいそうだから、道具を持ってきてくれる?」
「はい、姫様! まぁ、なんて綺麗な殿方でしょう。きっとお似合いになりますね!」
カリエは持っていたシーツを部屋の隅におき、櫃から私が使っている変装セットを出してきた。その間にイリオンを部屋に入れ、メイド服を彼に見せる。
「イリオン様は細いですし、お顔も綺麗ですからきっとこの服が似合いますわ。さあ、どうぞお着替えになって?」
「ほ、本気か!? この僕に女装しろだなんて……!」
「ばれたら命が危ないのでしょう。私は別に、あなたがそのままでも構いませんのよ?」
「……くそっ! もうどうにでもなれ!」
なぜか皇子はヤケクソのように叫び、つい立の向こうで着がえ始めた。数分後に出てきたが、どこから見ても少し背の高い少女にしか見えない。
控えめに言っても、私よりメイド服が似合っている。
……ちょっと悔しい。
「よくお似合いですわ! とてもお美しいです!」
「やめろ、嬉しくない! さっさと探す……ううっ!?」
「最後にカツラをどうぞ。これでぱっと見た感じ、イリオン様だとは分かりませんわ」
「……どうも。書類を探してもいいか?」
「ええ、お願いします。頑張りましょうね!」
こうして私とイリオン皇子の家捜しが始まった。
自分の部屋だが、もとは客間だったため家具も多いし本棚にも百を超える本が並んでいる。
もし本に挟んでいたとしたらかなり面倒だ。カリエにも手伝ってもらって本を全て棚から出し、パラパラとページをめくる。
昼近くになって、部屋のドアがノックされた。
カリエが来客を確かめるとフェリオスである。
「ララシーナ、探し物はいいがちゃんと食べないと駄目だぞ。あなたは弱っているのだから…………」
部屋に入ってきたフェリオスは、私の横で本をめくる少女に釘付けになった。
しかし美しさに驚いているという様子ではない。
「…………イリオン? なんだ、その格好は」
「っああもう! だから僕は、こんな服を着るのは嫌だったんだ!」
叫ぶイリオンの横で、フェリオスが肩を震わせている。口を手で押さえ、何とか笑いを堪えようとしているがかなり苦しそうだ。
やがて。
「っ、はっははは! 何をしてるんだ、おまえ! しかし意外と似合っているな!」
「良かったですわね、イリオン様。やっぱりフェリオス様はお怒りではありませんわ」
「……っ、うぅっ……! 覚えてろ!」
イリオン皇子は悪役のような捨て台詞を吐き、自分の服をかかえて部屋を飛び出してしまった。
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