勇者を失脚させるためなら何でもやる――そう決めた騎士の話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第2話

 勇者に選ばれた、騎士レグルス。
 アステアにとっては、顔をはっきり思い出すことすらも困難な人物だった。
 それくらい目立たない、アステアからすれば眼中にない騎士であった。

 同じ騎士でありながら、話したこともほぼなかった。
 かろうじて思い出せるのは、彼が騎士団に入ったときに、入団のあいさつとは別に、彼から個人的なあいさつをもらい、そのときに会話を交わしたということくらいか。

 だがそのときのことも、会話の内容まではよく覚えていない。
 最年少入団かつ実力が突出していたアステアは、騎士団や騎士学校の隅々にまで名前が響き渡っており、あとから入団してくる者が個人的にやってきてあいさつをしてくるのは極めてよくあることだったためだ。
 いちいち覚えていないというのが正直なところだった。

 年齢すらも正確なところは知らない。同じくらいだっただろうか? という程度の認識だ。
 剣術の腕に関しても、評判が耳に入ってきたことなど一度もない。

 そんな無名騎士が勇者?
 ふさわしいとは到底思えない。

 それに――。
 レグルス自身にとっても、勇者の座は重荷に過ぎるのではないか。

 勇者に選出されれば、パーティメンバーを選出し、街、国の期待を背負って魔王討伐へと向かわねばならない。
 地力のない無名騎士では、魔王を倒せず返り討ちに遭う可能性のほうが高いだろう。

 ある程度の技術がある者であれば、少し剣を合わせた時点で相手との実力差には気付く。
 勇者の座は実力ではなく、御前試合での偶発的な勝利でつかみ取ってしまった――そのことは彼も自覚しているはずだ。

 世界のためにも彼自身のためにも、彼には失脚してもらい、自分が勇者として魔王討伐に行くべきであるのは明らかだろう。

 そんなことを思いながら、アステアは寝静まった街を歩いた。






「私に何の御用でしょう。筆頭騎士様ともあろう御方が」

 カウンターの向こうの黒フード男にそう言われ、アステアは形の良い黒眉を寄せた。

「裏社会に生きる者は皆、皮肉や嫌味が得意なのか? 俺は御前試合の結果、もう筆頭ではなくなった」
「ですが、勇者様は騎士を超えた存在。貴方の肩書きが変わったわけではありますまい」

 名目上の筆頭などまったく意味は無いわけだが、アステアは突っ込まなかった。
 部屋の暗さに溶け込んだ黒髪をかき上げ、用件を伝える。

「その勇者・レグルスの調査を頼みたい」

 過去含め、何か不祥事になりうるものがないか。
 なんでも構わない。噂話のレベルでもいい。何かあれば教えてほしい――。

 黒フード男は、話の途中から口角が上がっていた。

「私としては、貴方のような良い家柄の御方がお客様だと安心しますな」
「報酬は弾めということだな。それは心配するな。いくらでも払える」

 さらに気味悪く笑う黒フード男に手付金を払うと、アステアはとっくに店じまい済みの酒場を後にした。



(続く)
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