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クレーマー対応! 社畜は今日も神対応
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朝から快晴だった。営業日和、と言えば聞こえはいいが、佐藤健二にとっては地獄の一日が始まった合図に過ぎない。
営業リストを確認しながら、既存顧客へのアポイントメントと新規開拓のルートを頭の中で組み立てる。部長から課せられたノルマは、今日中に契約三件。達成できなければ休日返上。その言葉が脳裏にこびりついて離れない。
第一の訪問先は、駅前にある中規模の企業だった。事前にアポは取っていない。いわゆる飛び込み営業だ。
ビルのエントランスを抜け、受付に向かう。女性が機械的な表情で応対する。
「申し訳ありませんが、アポイントのない営業はお断りしております」
予想通りの対応だった。
「ほんの五分だけで結構です。最新のプランをご紹介できればと思いまして」
「担当者が不在ですので、お帰りください」
完全な門前払いだった。
佐藤は「かしこまりました」と頭を下げ、ビルを後にする。
次の訪問先も同様だった。玄関先で「うちは結構です」と言われ、話すら聞いてもらえない。三件目、四件目も同じ結果だった。
飛び込み営業は運次第。だが、今日の流れはあまりにも悪い。
(このままじゃ、一日が終わる頃には何の成果も残らないな)
ため息をつきながら、佐藤は営業リストを見直した。既存顧客のリストの中に、一件だけ、要注意の名前があった。
(ここしかないか…)
そこは、かつて契約を結んだものの、会社側のミスでトラブルになった企業だった。クレーム対応の末、契約は一応継続されているが、関係は微妙なままだ。
本当なら、こんな日に行きたくはなかった。しかし、今日中に三件取るには、ここで関係を修復し、契約を更新してもらうしかない。
意を決して訪問すると、すぐに担当者が応接室に通した。
「久しぶりですね」
そう言いながら現れたのは、五十代半ばの男だった。営業部の課長という肩書きだが、実質的にこの会社の購買決定権を握っている人物だった。
佐藤は笑顔を作りながら頭を下げた。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
男は腕を組み、机を指で軽く叩きながら言った。
「で? 今回はどんな用件だ?」
佐藤は資料を取り出しながら、本題に入ろうとした。
その瞬間、男の目が鋭く光った。
「その前に、まずは説明してもらおうか。おたくの会社、以前うちとの契約でミスをしたよな?」
佐藤の背筋に冷たい汗が流れた。やはり、最初にその話が出るか…。
男は椅子にもたれかかりながら、佐藤を睨みつける。
「配送ミスの件だよ。あのせいで、うちは結構な損失を被ったんだ。あの時の対応も最悪だったしな」
「申し訳ありません」
即座に頭を下げる。
「確かに、あの件では多大なご迷惑をおかけしました。その後の対応も至らない点があったかと存じます」
男は腕を組みながら、まだ納得していない様子だった。
「で? 今日は新しいプランの提案だって?」
佐藤は、すぐに資料を差し出した。
「はい。御社のニーズに合わせ、今回のプランはより柔軟な対応が可能になっております」
「…ふん」
男は書類をめくる。しかし、その表情からは興味を示しているのか、呆れているのか、判断がつかない。
佐藤は畳みかけた。
「先ほどお話に出たミスの件ですが、その後、当社では配送ルートと管理システムを見直し、同様のトラブルが発生しないよう対策を講じました。その結果、昨年一年間でのミスは大幅に減少し、現在ではトラブル発生率が5%以下にまで低下しております」
「ほう」
男が少しだけ興味を持ったように眉を上げた。
「さらに、今回のプランでは、より細かい納品スケジュールの調整が可能になっており、万が一のトラブルにも迅速に対応できます」
男はしばらく黙っていたが、やがて鼻を鳴らした。
「まあ、話だけは聞いてやる」
佐藤は内心で小さく安堵した。完全にシャットアウトされるのが最悪のパターンだった。ここまでくれば、少なくとも契約更新の可能性は出てくる。
結局、商談は一時間近くに及んだ。契約そのものの話だけでなく、雑談を交えながら関係の修復を図る。
最後に男は「持ち帰って検討する」と言った。それは、契約確定ではないが、十分な前進だった。
佐藤は会社を出ると、長いため息をついた。
(何とか乗り切ったか…)
手応えはあったが、契約はまだ確定していない。それでも、今日のノルマを達成するための手がかりはつかんだ。
時間を見ると、昼を回っていた。
(昼休憩? そんなものあるわけないよな)
次の訪問先のリストを確認しながら、佐藤は足を速めた。営業の一日は、まだ終わらない。
営業リストを確認しながら、既存顧客へのアポイントメントと新規開拓のルートを頭の中で組み立てる。部長から課せられたノルマは、今日中に契約三件。達成できなければ休日返上。その言葉が脳裏にこびりついて離れない。
第一の訪問先は、駅前にある中規模の企業だった。事前にアポは取っていない。いわゆる飛び込み営業だ。
ビルのエントランスを抜け、受付に向かう。女性が機械的な表情で応対する。
「申し訳ありませんが、アポイントのない営業はお断りしております」
予想通りの対応だった。
「ほんの五分だけで結構です。最新のプランをご紹介できればと思いまして」
「担当者が不在ですので、お帰りください」
完全な門前払いだった。
佐藤は「かしこまりました」と頭を下げ、ビルを後にする。
次の訪問先も同様だった。玄関先で「うちは結構です」と言われ、話すら聞いてもらえない。三件目、四件目も同じ結果だった。
飛び込み営業は運次第。だが、今日の流れはあまりにも悪い。
(このままじゃ、一日が終わる頃には何の成果も残らないな)
ため息をつきながら、佐藤は営業リストを見直した。既存顧客のリストの中に、一件だけ、要注意の名前があった。
(ここしかないか…)
そこは、かつて契約を結んだものの、会社側のミスでトラブルになった企業だった。クレーム対応の末、契約は一応継続されているが、関係は微妙なままだ。
本当なら、こんな日に行きたくはなかった。しかし、今日中に三件取るには、ここで関係を修復し、契約を更新してもらうしかない。
意を決して訪問すると、すぐに担当者が応接室に通した。
「久しぶりですね」
そう言いながら現れたのは、五十代半ばの男だった。営業部の課長という肩書きだが、実質的にこの会社の購買決定権を握っている人物だった。
佐藤は笑顔を作りながら頭を下げた。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
男は腕を組み、机を指で軽く叩きながら言った。
「で? 今回はどんな用件だ?」
佐藤は資料を取り出しながら、本題に入ろうとした。
その瞬間、男の目が鋭く光った。
「その前に、まずは説明してもらおうか。おたくの会社、以前うちとの契約でミスをしたよな?」
佐藤の背筋に冷たい汗が流れた。やはり、最初にその話が出るか…。
男は椅子にもたれかかりながら、佐藤を睨みつける。
「配送ミスの件だよ。あのせいで、うちは結構な損失を被ったんだ。あの時の対応も最悪だったしな」
「申し訳ありません」
即座に頭を下げる。
「確かに、あの件では多大なご迷惑をおかけしました。その後の対応も至らない点があったかと存じます」
男は腕を組みながら、まだ納得していない様子だった。
「で? 今日は新しいプランの提案だって?」
佐藤は、すぐに資料を差し出した。
「はい。御社のニーズに合わせ、今回のプランはより柔軟な対応が可能になっております」
「…ふん」
男は書類をめくる。しかし、その表情からは興味を示しているのか、呆れているのか、判断がつかない。
佐藤は畳みかけた。
「先ほどお話に出たミスの件ですが、その後、当社では配送ルートと管理システムを見直し、同様のトラブルが発生しないよう対策を講じました。その結果、昨年一年間でのミスは大幅に減少し、現在ではトラブル発生率が5%以下にまで低下しております」
「ほう」
男が少しだけ興味を持ったように眉を上げた。
「さらに、今回のプランでは、より細かい納品スケジュールの調整が可能になっており、万が一のトラブルにも迅速に対応できます」
男はしばらく黙っていたが、やがて鼻を鳴らした。
「まあ、話だけは聞いてやる」
佐藤は内心で小さく安堵した。完全にシャットアウトされるのが最悪のパターンだった。ここまでくれば、少なくとも契約更新の可能性は出てくる。
結局、商談は一時間近くに及んだ。契約そのものの話だけでなく、雑談を交えながら関係の修復を図る。
最後に男は「持ち帰って検討する」と言った。それは、契約確定ではないが、十分な前進だった。
佐藤は会社を出ると、長いため息をついた。
(何とか乗り切ったか…)
手応えはあったが、契約はまだ確定していない。それでも、今日のノルマを達成するための手がかりはつかんだ。
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