転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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飲み会という名の地獄

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 夜の帳が下りた頃、佐藤健二は営業カバンを肩にかけたまま、無機質なオフィスの一角に立っていた。  

 今日の契約件数は一件。目標の三件には程遠い。飛び込み営業はことごとく門前払いをくらい、既存顧客の更新も「検討する」と言われたまま確約が取れなかった。  

 デスクでスマートフォンを眺めながら、明日のアポイントメントを確認していると、背後から声が飛んできた。  

「おい、佐藤。飲み会行くぞ」  

 振り向くと、営業部長の藤田がネクタイを緩めながら腕を組んでいた。  

 佐藤の口元がかすかに引きつる。  

「すみません、今日はちょっと…」  

「は? なんだ、お前。俺の誘いを断るのか?」  

 藤田の声が一段低くなる。まるで獲物を見つけた肉食獣のような目つきだった。  

「いや、そういうわけでは…」  

「なら来い。今日の成果がこれじゃあ、話にならねえからな」  

 有無を言わせない命令口調だった。佐藤は内心でため息をつきながら、営業カバンをデスクに置いた。  

「…かしこまりました」  

 逃げ場はない。  

 そうして連行されるように、繁華街の居酒屋へと向かうことになった。  

 店内は騒がしく、喧騒に包まれている。藤田を筆頭に、営業部のメンバーがぞろぞろと個室に入っていく。すでに何度も繰り返された光景だった。  

 乾杯の音頭とともに、ビールのジョッキが次々と空になっていく。  

 佐藤はできるだけ静かにしていようと思ったが、そんな考えはすぐに打ち砕かれた。  

「おい、佐藤」  

 向かいに座る先輩の木村が、にやりと笑いながら手に持ったグラスを傾ける。  

「お前、営業のくせに酒も飲めねえのか?」  

 来た、と思った。  

「いえ、飲めます」  

「なら、ほら。ぐいっといけよ」  

 木村は笑いながら、日本酒のグラスを佐藤の前に置いた。  

「今日は契約一本しか取れてねえんだから、せめて飲んで盛り上げろよ」  

 周囲の視線が佐藤に集中する。ここで断れば、場の空気が一気に悪くなる。  

 佐藤は無言でグラスを取り、一息に飲み干した。  

 アルコールが喉を焼くように流れ込んでくる。日本酒の独特の香りが鼻に抜ける。  

「お、やるじゃねえか。ほら、もう一杯」  

 木村がさっそく次のグラスを差し出してくる。  

 佐藤は躊躇したが、結局、それも一気に飲み干した。  

「おー、いいねえ」  

 藤田も満足そうに笑っている。  

 次々と注がれる酒。ビール、日本酒、焼酎、果てには度数の高いウイスキーまで。  

 胃の中が火を噴きそうだった。それでも、佐藤はひたすら飲み続けた。  

 飲めば飲むほど、場の空気は和らぐ。自分に対する叱責や嫌味も少なくなる。  

 無意識のうちに、酒を飲むことが「社交術」として染みついていた。  

 しかし、体は正直だった。胃のあたりが重く、呼吸が浅くなっていく。  

 ふと、佐藤は思った。  

(俺、何やってるんだろうな…)  

 契約も取れず、ノルマも達成できず、上司の機嫌を取るために酒を飲み続ける。  

 これが十年目の営業マンの仕事なのか。  

(このスキル、何に活かせるんだよ…)  

 ふと、スマートフォンの画面を見る。時刻は二十二時半。  

 終電の時間が気になった。  

「藤田部長、そろそろ…」  

「おう、佐藤。お前、明日アポあるんだろ?」  

「はい」  

「なら、もう一軒付き合えよ」  

 佐藤は口を開きかけたが、結局、何も言えなかった。  

 結局、二軒目のスナックに連れ込まれた。  

 気づけば、終電の時間はとうに過ぎていた。  

 帰る手段はない。  

 深夜の繁華街で、佐藤はふらつく足取りのまま、溜め息をついた。  

 財布の中にはタクシーで帰る余裕などない。  

 仕方なく、カラオケ店のソファで仮眠を取ることにした。  

 翌朝、薄暗い個室で目を覚ました佐藤は、襟元を整えながら呆然と天井を見つめた。  

 何のために生きているのか、もう分からなかった。
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