リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始

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修一42歳、どん底の生活

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 倉持修一は、天井をぼんやりと見つめながら、ひとつ息を吐いた。

 薄暗い部屋には、開けっ放しのカーテンから街灯の冷たい光が差し込んでいる。六畳の狭い空間は酒の空き缶やカップ麺の容器で散らかり、床には脱ぎっぱなしのシャツや書類が無造作に転がっていた。

 もう何日、まともに片付けていないのか。掃除どころか、きちんとした食事をとった記憶もない。最後に外に出たのは二日前、近所のコンビニで弁当を買ったときだったか。

 天井を眺めながら、修一はぼそりとつぶやく。

「…もう俺の人生終わったな」

 四十二歳。無職。バツイチ。貯金はほぼ底をつき、次の仕事のあてもない。

 修一が勤めていた会社は半年前に倒産した。営業職としてそれなりに働いていたが、突然の解雇通知に何の準備もできていなかった。再就職先を探そうにも、年齢と職歴がネックになり、応募してもことごとく落とされた。

 それでも、なんとかやり直そうと気持ちを奮い立たせた時期もあった。だが、そんな矢先、結婚生活も破綻した。長年すれ違いの続いていた妻から、とうとう離婚を切り出されたのだ。

「こんな生活、もう無理だよ」

 そう言われたとき、修一は何も言い返せなかった。むしろ、どこかで自分もそう思っていたのかもしれない。結局、離婚はすんなり成立し、元妻は荷物をまとめてさっさと出て行った。

 会社も、家庭も、何もかも失った。

 最後に残ったのは、この古びたアパートと、酒ぐらいだった。

 修一はゆっくりと体を起こし、頭をかきながら冷蔵庫の扉を開けた。

 中には、コンビニで買った缶ビールが三本と、賞味期限切れの漬物が入っているだけだった。炭酸水も水もない。食材なんてとっくに切らしている。

「…酒でも飲まなきゃやってらんねぇ」

 ひとりごちて、缶ビールを手に取る。しかし、プルタブに指をかけたところでふと躊躇した。

 このまま飲んで、またベッドに沈み込むように眠るのか。それとも、少しは外に出て、まともな食い物を買ってくるべきか。

 数秒迷った末、修一はビールを冷蔵庫に戻し、タバコの箱を手に取った。

 ライターを探しながら、ぼんやりと考える。

 四十二歳の無職とか、もう詰んでるだろ。

 言葉にすると、ひどく滑稽に思えた。四十過ぎて職もなく、離婚までして、独りぼっちで酒に溺れる男。人生の転落劇としては、ある意味分かりやすいパターンかもしれない。

 ふと、スマートフォンを手に取り、ロック画面を見た。

 新着の通知はゼロだった。

 そもそも、最近は誰とも連絡を取っていない。友人はそれなりにいたはずだったが、仕事を辞めてから疎遠になり、妻と別れてからはますます孤立していた。

 もう誰も俺のことなんか気にしちゃいないんだろうな…

 そんなことを考えると、やけに喉が渇いた。

 修一はタバコを咥え、ジャケットを羽織ると、財布をポケットに突っ込んだ。

「…コンビニでも行くか」

 靴を適当に履き、ドアを開けると、ひんやりとした夜の空気が頬を撫でた。

 深夜の住宅街は静かで、街灯の明かりだけがぽつぽつと灯っている。夜風がタバコの煙をさらっていく。

 こうして夜の街を歩いていると、なんとなく気が紛れる気がした。いつもと変わらない景色のはずなのに、妙に遠い世界に見える。

 ふらふらとした足取りで、修一はコンビニへと向かった。

 どうせ、ろくな未来もねぇしな。

 そんな投げやりな思いを抱えながら。
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