リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始

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お前、俺が意識してるの知っててやってるだろ!?

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 カウンターの奥でコーヒーを淹れながら、修一は何度目かわからないため息をついた。

 蓮の姿が視界に入るたび、落ち着かない。

 昨日も、今日も、蓮は相変わらずだった。

 普段と何ひとつ変わらない態度で接してくる。

 それが、余計に厄介だった。

 ――意識しているのは、自分だけ。

 蓮は何も変わらず、ただそこにいるだけ。

 それがわかっているのに、どうしても蓮を意識してしまう。

 距離が近いと感じる。

 視線を向けられるだけで鼓動が跳ねる。

 今までは気にしていなかった仕草や声まで、いちいち気になる。

 頭の中で蓮の存在が大きくなっていく感覚が、たまらなく嫌だった。

 ――なんで、こんなことになってんだよ。

 必死に平静を装っていたが、限界だった。

 気づけば、修一は蓮に詰め寄っていた。

「お前、俺が意識してるの知っててやってるだろ!?」

 蓮がゆっくりと視線を向ける。

 そして、ふっと小さく笑った。

「どうでしょう?」

 軽い調子のその返事に、修一はさらに苛立つ。

「……ふざけんな、マジで……」

 頭を抱えるように額を押さえるが、熱が収まる気配はない。

 蓮は変わらず落ち着いた表情を崩さず、カウンターの隅に寄りかかる。

「そんなに意識されてるんですか?」

 さらりとした口調で言われた瞬間、修一の体が強張った。

「っ……!!!」

 図星だった。

 否定したいのに、言葉が出てこない。

 蓮はそれをわかっているのか、ゆっくりと体を傾け、片腕をカウンターに置く。

 少しだけ身を寄せて、静かに囁くように言った。

「俺は、何もしてませんよ?」

 低く響く声に、修一は一瞬呼吸を止めた。

 蓮の顔が近い。

 落ち着いた目元、わずかにカーブを描いた唇、ゆるやかな声のトーン。

 意識するなというほうが無理だった。

 ――いや、お前の存在自体が問題なんだが!?

 心の中で叫びながら、修一はぐっと奥歯を噛んだ。

 逃げるように視線を逸らす。

 しかし、それだけでは熱が収まらない。

 蓮は、そんな修一の様子をじっと観察するように見つめていた。

 まるで、あと一押しで完全に落とせると確信しているかのように。

 その余裕が、たまらなく腹立たしかった。

 だが、同時に――

 修一の中にある、認めたくない感情を、じわじわと浮き彫りにしていく。
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