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どうせ俺は捨てられるんだよ
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閉店後のカフェには、静けさが広がっていた。
テーブルを拭く音と、カップを片付ける微かな音だけが響く。
修一はカウンター内でグラスを片付けながら、ふと蓮の背中を見た。
蓮はコーヒーマシンの清掃をしながら、いつもの落ち着いた表情で作業をしている。
昨日の会話が、頭から離れなかった。
「そんなの、俺には関係ありません」
蓮は、まったく迷いのない目でそう言い切った。
42歳と29歳。
年齢差を気にするのは普通だろう。
なのに、蓮はまるで些細なことのように流した。
それがどうにも信じられない。
こいつ、本気で俺なんかと一緒にいるつもりなのか?
そんな疑問が、心の奥で膨らんでいく。
修一は知らず知らずのうちに、ため息をついた。
それを振り払うように、手元のグラスを磨きながら、ぽつりと呟く。
「……どうせ俺は捨てられるんだよ」
蓮の手が止まる音が聞こえた。
しばらく沈黙が流れたあと、蓮がゆっくりと顔を上げる。
「誰に捨てられたんですか?」
静かで、けれどはっきりとした声だった。
修一はグラスを拭く手を止める。
冗談のつもりで言ったわけじゃない。
ただ、本音がぽろりとこぼれた。
だが、こうして真正面から問いかけられると、返事に詰まる。
喉の奥に引っかかるような感覚。
頭をよぎるのは、過去の記憶だった。
「あなたは家庭より仕事を選んだのよね」
そう言って、微笑んでいた美咲の顔。
修一は口を開きかけたが、結局何も言えず、煙草でも吸うように舌打ちをした。
すると、蓮が静かに言う。
「……元嫁さんのことですか?」
鋭い。
修一は、思わず蓮を睨むように見た。
だが、蓮は目を逸らさない。
「……チッ、お前、察しが良すぎるんだよ」
肩をすくめるように言いながら、修一は苦笑した。
「俺は、一度選ばれて、それでも捨てられたんだよ」
言葉にすると、妙に軽く聞こえた。
だが、その事実が変わるわけではない。
結婚して、愛されて、それでも離婚した。
そういう人生だったというだけのことだ。
そう思っているのに、蓮の視線が胸に刺さる。
「倉持さん、それは違います」
蓮は、静かにそう言った。
「何が違うんだよ」
「あなたは、捨てられたわけじゃありません」
修一は思わず眉をひそめる。
「は? 何言ってんだ」
「ただ、終わっただけです」
「……」
「それは、倉持さんがいらなくなったわけじゃない。ただ、二人の関係が終わっただけです」
修一は言葉を失った。
そんなふうに考えたことはなかった。
ずっと、自分は「捨てられた」と思っていた。
選ばれたのに、必要なくなって、切り捨てられたと。
でも、蓮は違うと言う。
ただ、終わっただけ。
それは、自分に価値がなかったわけじゃない、と。
「……お前、本気でそんなこと思ってんのか」
蓮は真剣な目で頷いた。
「俺にとっては、それがすべてです」
静かな声が、夜のカフェに響く。
修一は、手元のグラスを見つめた。
そこに映る自分の顔が、少しだけ揺れていた。
テーブルを拭く音と、カップを片付ける微かな音だけが響く。
修一はカウンター内でグラスを片付けながら、ふと蓮の背中を見た。
蓮はコーヒーマシンの清掃をしながら、いつもの落ち着いた表情で作業をしている。
昨日の会話が、頭から離れなかった。
「そんなの、俺には関係ありません」
蓮は、まったく迷いのない目でそう言い切った。
42歳と29歳。
年齢差を気にするのは普通だろう。
なのに、蓮はまるで些細なことのように流した。
それがどうにも信じられない。
こいつ、本気で俺なんかと一緒にいるつもりなのか?
そんな疑問が、心の奥で膨らんでいく。
修一は知らず知らずのうちに、ため息をついた。
それを振り払うように、手元のグラスを磨きながら、ぽつりと呟く。
「……どうせ俺は捨てられるんだよ」
蓮の手が止まる音が聞こえた。
しばらく沈黙が流れたあと、蓮がゆっくりと顔を上げる。
「誰に捨てられたんですか?」
静かで、けれどはっきりとした声だった。
修一はグラスを拭く手を止める。
冗談のつもりで言ったわけじゃない。
ただ、本音がぽろりとこぼれた。
だが、こうして真正面から問いかけられると、返事に詰まる。
喉の奥に引っかかるような感覚。
頭をよぎるのは、過去の記憶だった。
「あなたは家庭より仕事を選んだのよね」
そう言って、微笑んでいた美咲の顔。
修一は口を開きかけたが、結局何も言えず、煙草でも吸うように舌打ちをした。
すると、蓮が静かに言う。
「……元嫁さんのことですか?」
鋭い。
修一は、思わず蓮を睨むように見た。
だが、蓮は目を逸らさない。
「……チッ、お前、察しが良すぎるんだよ」
肩をすくめるように言いながら、修一は苦笑した。
「俺は、一度選ばれて、それでも捨てられたんだよ」
言葉にすると、妙に軽く聞こえた。
だが、その事実が変わるわけではない。
結婚して、愛されて、それでも離婚した。
そういう人生だったというだけのことだ。
そう思っているのに、蓮の視線が胸に刺さる。
「倉持さん、それは違います」
蓮は、静かにそう言った。
「何が違うんだよ」
「あなたは、捨てられたわけじゃありません」
修一は思わず眉をひそめる。
「は? 何言ってんだ」
「ただ、終わっただけです」
「……」
「それは、倉持さんがいらなくなったわけじゃない。ただ、二人の関係が終わっただけです」
修一は言葉を失った。
そんなふうに考えたことはなかった。
ずっと、自分は「捨てられた」と思っていた。
選ばれたのに、必要なくなって、切り捨てられたと。
でも、蓮は違うと言う。
ただ、終わっただけ。
それは、自分に価値がなかったわけじゃない、と。
「……お前、本気でそんなこと思ってんのか」
蓮は真剣な目で頷いた。
「俺にとっては、それがすべてです」
静かな声が、夜のカフェに響く。
修一は、手元のグラスを見つめた。
そこに映る自分の顔が、少しだけ揺れていた。
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